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~19~

 

 王妃の茶会の後しばらくすると、宰相一家は領地へと籠ることになったらしい。

 しかも、宰相の地位を自ら下りての幕引きに、あっけなかったなと国王は大きくため息を吐いた。どうせ陰で甥っ子が暗躍していたであろうことは理解している。

 それをどうこうしようとは思ってもいない。

 だが、何をしたかくらいは教えて欲しかったなと、一人不貞腐れた。


「これは自分のみの罪。墓場まで持っていきます」


 そこまで言われて問い詰めることもできずに、諦めていたら。


「父上。オードリックのヤツ、どうやら本当にやったようです」

「なに? 本懐を遂げたと?」

「そのようです」

「よくやった!」


 恐ろしい親子の会話である。そしてその張本人が血を分けた身内なのも恐ろしい。


 件の息子のみならず、どうやら父である宰相も同じだとか?

 王都一番の名医が宰相の邸宅に足しげく通い、落ちついた頃に領地へと向かったらしいのだ。さすがにショックを受けた二人は、しばらく正気を失っていたらしい。今までの傍若無人が嘘のように大人しくなり、ブツブツと独り言を言い出すまでに精神を病んだとかナントカ?

 宰相家の子は、あの息子ひとり。その跡取りである大事な息子のアレがソウなったのなら次代の子は望めない。

 親戚筋から養子を取るなどすれば、侯爵家は続いていくことだろう。

 人が変われば政治も変わる。今度こそまともな人間が継いでくれることを願ってやまない。

 

「これで気が済んだなら、よかったと言うべきだな」


 国王の本音を聞き、王太子もまた頷いた。領地経営は腕の良い者に任せれば良いのだから。これからは領地で大人しく、ひっそりと生きてくれれば文句は出ないだろう。

 従兄弟殿の怒りがこれで収まってくれることを、彼もまた願うのだった。




 しばらくは王都で生活をしていたオードリックとコーネリア。

 そろそろ魔獣討伐のために領地へと戻ることとなった。

 元々、社交界に顔を出すことのなかったオードリックではあったが、コーネリアが王都の生活を経て辺境の地へと戻ることを拒むのではないかと、それが心配だった。

 だが、コーネリアは「早く帰って、皆に会いたいです」と、嬉しい声を上げるのだった。

 どうせなら、と王都で一番の仕立屋に花嫁衣裳を注文し帰ることも忘れない。

 そのドレスが出来る頃に、領地で結婚式を挙げる予定にしてある。

 今度は、今度こそ。コーネリアに花嫁衣裳を着せ、美しい姿を堪能したい。

 普段、神など信じない男ではあるが、その日ばかりは愛する人と結婚できる喜びを神にぶつけるつもりだ。


「皆が待っている。早く帰ろうか」

「はい。急いで帰りましょう!」


 嬉しそうに微笑むコーネリアの姿が眩しくて、目を細めるオードリックだった。









「ほら。だから言ったではありませんか。やはり王都で式を挙げるべきだったのですよ」

「も、申し訳ありません」


「コーネリア。あなたが謝ることはないのよ。いい歳をして我慢が足りない義甥がわるいのだから」

「いえ、でも。私も、その……」


「ああ、それは良いの。あなたはまだ若いもの。夫に従順に従った結果なのでしょうからね」

「そ、それが。オードリック様は待つとおっしゃって下さったんです。花嫁衣裳が着られなくなっては残念だからと。ですが、我慢が出来なかったのは、むしろ私の方で」


「ああ……。あなたと言う子は」

「申し訳ありません。王都の邸宅では我慢できたんです。でも、領地に戻って安心できる人たちに囲まれて、そうしたら。タガが外れたというか……、なんというか」



 挙式を迎えたこの日。国王夫妻はオードリックの後見人として出席することになっていた。義甥であると同時に、親友の忘れ形見でもあるオードリック。その彼の挙式ともなれば、何をおいても見たかったのだ。

 いつも魔獣討伐に明け暮れ、自らの幸せを二の次にしてしまう子の選んだ花嫁。

 互いを思いやり幸せになれると確信し、喜んでいたのに……。


「申し訳ありません」


 花嫁のコーネリアのお腹は少しふっくらとし始めている。

 彼女の体を美しく見せるラインは、今のお腹では入らない。

 きっと、世界で一番に美しく、そして一番に見たかったであろう親友の為にも着飾らせてあげたかった。


「なぁに。この辺境の地の跡取りが出来たんだ。こんなにめでたいことはない。

 そうだろう?」


 夫である国王の言葉に、王妃は俯いた顔をゆっくりと上げた。



『そうだわ。衣裳なんてどうでもいいのだわ。二人が共に想い合い、幸せならそれが一番。それだけでいいはずだわ。

 ね? マリアンヌ、あなたも見ているでしょう? 世界で一番想いあう、美しい新郎と新婦を。おめでとう、マリアンヌ』



 王妃は心の中で亡き親友に問いかけた。

 答えは無い。それでも、親友がどこかで見てくれている気がしたし、喜んでくれているのがわかった。

 武骨で愛想のない男は、誰よりも愛らしく、そして誰よりも自身を愛してくれる女性を見つけたのだ。

 ここ、辺境の地では華やかなことは少ない。それでも満足だと、幸せだと満面の笑みを浮かべる女性だ。これ以上の女性はいないだろう。



「きっと、これからも次々に子を成していくのでしょうね、あの二人は。

 あなたが息子に王位を譲ったら、私はこの地で子守りをするのも楽しそうだわ。

 二人、三人と言わず、いっそ十人くらい産めばいいのよ。この広い大地で、自由に好き勝手に動き回る子を追いかけるのは面白いでしょうね」


 妻である妃の思いもよらぬ言葉に、夫である国王は驚きそっと横顔を眺めた。どうやら彼女は本気らしい。


「それなら、その時は私もここに来るとしよう。そうだな、十人もいれば一人くらいは私に味方してくれる子も出てくるだろう。楽しみだな」

「まあ、あなたったら。あなたの一番の見方はいつも私のはずですわ。そうでしょう」




 挙式を前に好き勝手言ってくれる者たちの声を聞く余裕もないままに、晴れ渡る空の下、オードリックとコーネリアは使用人や騎士達、多くの領民に祝われ式を上げることができた。

 

「世界一の幸せ者だ」と、オードリックがつぶやけば、

「私の方が世界で一番の幸せ者ですわ」とコーネリアの声が返ってくる。


 そんな二人をすでに見慣れてしまった使用人を始めとする領地の者は、上手に聞き流しながら、その行く末を祈り続けるのだった。




まだ番外編が一話あります。

もう少しお付き合いください。

よろしくお願いします。

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