第4話 コケにされた
私は階段を降りるため、ダンロボで一歩を踏み出した。
しかし階段は人間サイズのため、思いっきり踏み外す。
「ア゙ッ……!」
ダンロボが傾いた時には遅かった。ボタンを連打した時には空中を踏んでいて、ダンロボは綺麗に転倒して階段を転げ落ちていった。
「私のダンロボ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
しかもボタン連打のせいでダンロボが足をバタバタさせるというオマケ付きである。
『草www』
『草www』
『草www』
『良い話だったのに草生えるwww』
ダンロボは二層に到着したが、ひどい有様だった。別に壊れたわけではないが、全身に苔がついている。
『あ、苔生えてるwww』
「や、やかましいわ!」
一層と同じく二層も洞窟だが、至る所に苔が生えていた。より洞窟感が増している。
そしてダンロボを起き上がらせると、明らかに一層よりも広かった。
一層は道という感じだったが、二層は完全にフィールドである。
洞窟の地形をしているだけで、縦にも横にも広い。
そこに生えている苔の中には、魔素を蓄えて光る種類もある。そのため広くても周囲を見渡せ、その光苔を食べているモンスターがいた。
「コボルトだ」
二足歩行の狼のような見た目をしている。
そいつは獲物を狩る爪を失い、狩りの道具を使える人みたいな手をしていた。
体つきというか骨格も人間と似ている。
「あのコボルトが苔を食べてるのは、お腹が減っているからじゃないよ。魔素生命体は食を必要とせず、魔素を取り入れることで人間と同じように強くなる」
そのためモンスターには個体差があり、一定以上のレベルになると階層以上の強さを持ったイレギュラーになる。
上層のモンスターは定期的に覚醒者が間引いているため、イレギュラーをお目にかかることはない。
「手始めにあのコボルトをやっちゃおう」
『そんな軽いノリで』……と視聴者は言うが、ダンロボの装甲をコボルトは突破できないはずだ。
ダンロボは私のステータスを反映しているが、魔鉄製のため防御とは違う硬さがある。
イメージとしては私がダンロボを鎧として着ている感じだ。そのため防御力は高くなり、攻撃力もアップしている。
器用さには確実にマイナス補正入ってるが。
「お前は私の前に立った時点で死んでいる!」
「グルァ? グルァァァァァァァ………!?」
コボルトはデジャヴを感じる動きで、逃げ出してしまった。
『苔www』
『苔www』
『お姉ちゃん恥ずかし』
コメントだからって好き勝手に言いやがって。
「あのコボルトは絶対にボコす! 百パーボコす!」
ダンロボでコボルトを追いかけるが、ゴブリンよりも速かった。狼と似ているため速度も相当のものだ。
追いかけっこをしていると他のモンスターと遭遇するが、全モンスター漏れなく逃げていく。
二層のモンスターは動物系のため足が速い。
だが限界はある。
「ヴァカめ!」
コボルトは死に物狂いで逃げていたが、息が上がっていた。そして知恵を働かせて隠れようとしたのか、一本道に入り、息を殺している。
「その先は壁だ! お前は完全に包囲されている!」
逃げ道を塞いだ。
『悪役すぎるだろ』
『コボルトを応援したくなってきた』
『コボルト頑張れー』
私の味方はいないようだし、心置きなくコボルトをボコせる。
「コボルトちゃ〜ん、出ておいで〜。優しく撫でてあげるからさぁ……!」
一本道に入り、コボルトに歩み寄る。
コボルトは体をブルブルと震わせながら後退した。そうして壁に背中が当たり、絶望の表情を浮かべる。
感情表現が豊かなコボルトだ。
光苔を食べて成長し、知恵をつけたのかもしれない。
早目に倒した方が良いかもとダンロボを前に進ませ、硬い物を踏んだ音が鳴る。
「なに、これ?」
コボルトを追うことに夢中になっていたが、この場所は何かがおかしい。よく見ると寝床のような動物の敷物があり、床に散らばっているのはドロップアイテムと思しき魔石の数々だ。
バックカメラの映像に、一匹のモンスターが映っていた。
「おっきぃ熊」
黒い毛皮に覆われた二足歩行の熊は、ブラッディベアー。
身体強化スキルを持ち、使用時に血管のような赤模様が顔に浮かび上がることから、その名前がつけられた。
ブラッディベアーはダンロボの足元にある、砕けた魔石を見ると。
「グァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
ヘッドホンから聞こえる大音量の咆哮に総毛立つ。
ヤバいとブラッディベアーに向き直ると。
「グルァ〜〜〜〜〜!」
コボルトが馬鹿にしたようにコボルト語を発し、ダンロボの脇をすり抜けて、逃走を測った。
「なぁ!? この……っ!?」
しかし、そのコボルトはブラッディベアーの横を通ろうとした瞬間、熊の手に叩き潰された。
グチャ。
生々しい音と共に、鮮血が広がった。
私はコボルトを倒すつもりだったが、酷い殺し方をしたいわけではない。
子供達にモザイクありとは言え、悲惨な最期を見せるつもりはなかった。ドローン視点のため、生々しい音が聞こえづらいのは救いだろうか。
「……」
コボルトは魔素に還り、ブラッディベアーに取り込まれていく。
「私の獲物を横取りした覚悟はデキてんだろうな?」
「グァァァァァァァ!」
血管のように赤い模様が全身に浮かび上がる。
顔だけではなく、全身?
イレギュラー個体だ。
一筋縄じゃいかないが、上等だ。
「少し前に武器を装備しないのかって尋ねてきた子がいたと思うけど、その理由を見せてあげる。私のスキルには要らないっていうことを……!」
上層のモンスターには必要がないため、使わなかったスキルのお披露目だ。
「こっから先は瞬き厳禁だよ!」