第3話 楽しい雑魚狩り
私はゴブリンを倒した後、涙が溢れそうになった。いや、温かな雫が頬を伝っている。
それをパーカーの袖で拭うと、渾身のガッツポーズを決めた。
「いよっしゃぁ! しゃおらぁ! やってやったぞ〜〜〜〜〜〜〜〜!! 」
両手を突き出してるから、もはやバンザイみたいになっている。
『おめでとう!』
『よく頑張ったわね』
『ダンロボTUEEE!』
「ふっ、この程度の雑魚、私とダンロボにかかれば造作もなーい!」
『イキってるwww』
『負ける要素あった?』
生意気コメントが出てくる。
だが、今の私には通じない。
「水を差そうたってそうはいかないよ。こっちはテキーラを一気飲みしたように酔ってるんだから!」
『いやそれ死んでるだろwww』
『酒飲めない年齢なの分かるwww』
「うるさーい! 勝利の美酒に酔わせろ! 称賛プリーズ!」
『スゴイヨー』
『エライヨー』
『カッコイイヨー』
ツンデレコメントが多すぎる。
「お前ら、真面目に褒めるのが照れくさいからってカタコト使いやがって、本当は祝福してるってお姉ちゃんにはお見通しだぞ♪」
『無敵かなwww』
『キッツ! くなくもない? 実妹いるからかな?』
『そーいや、ゴブリンはどうなったの?』
私は勝利の美酒に酔いしれた後、目の前で起きたコトを説明する。
私はお姉ちゃん系配信者だからな!
「それじゃあ、ゴブリンが消えた理由を解説するよ〜。モンスターは魔素生命体って言われていて、その体は恐ろしいことに魔素でデキてるんだ」
『Σ( ºωº )』
『Σ(๑ °꒳° ๑)ビクッᵎᵎ』
『Σ(๑0ω0๑)ビクッ!?』
顔文字の三段活用かな?
「モンスターは魔素の効果かダンジョンの機能、地上でモンスターが生まれたことがないからダンジョンの機能だと思うんだけど、魔素が一箇所に集まるとモンスターになるんだ。だけど、そうやって人工的に生み出されたからか存在が不安定で、やられると全身の魔素が解れてしまう。だから倒すと光になっちゃうんだ」
『((((;゜Д゜))))ガクガク 覚醒者は?』
「勿論、私達はやられても消えないから安心してね。覚醒者は細胞が魔素に置き換わったんじゃなくて、適応しただけだから大丈夫だよ。そして、その魔素がどうなるのかと言うと……」
ゴブリンだった光は私が視聴者と話している間に、ダンロボに流れていた。それはマナラインを通して、私のもとに送られる。
「モンスターを倒した人のモノになる! これがいわゆる経験値の獲得だよ。覚醒者はモンスターを倒して魔素を集め、レベルアップして強くなる! まさに経験が人を強くするってヤツだね」
モンスターの命は無駄にならない、私の経験となり生き続ける。
魔素が体に流れ込む、初めての体験は。
湯船に浸かったように気持ち良くて、ポカポカと温かかった。
キーボード横に置いてあるステータスカードを見ると、レベルアップしていた。
私は強くなれる。
「──と言うわけで、私は強くなるために雑魚狩、いやゴブリン狩りをしようと思います♪」
マイクに向かって、にこやかにそう告げた。
『と言うわけでぇ!?』
『ゴブリン「ぇ…(´Д`υ)」』
『スライム「(・ω・;A)アセアセ…(;-_-) =3 フゥ」』
そうして私はダンロボを発進させ、ゴブリンを手当たり次第ボコしていく。
レベルアップの上昇と共に敏捷も上がり、ゴブリンには追いつけるようになった。レベルアップは成長が分かりやすく、次の目標にもなるので本当にありがたい。
もはや雑魚狩りは作業と化したので、コメントを見る余裕があった。
『可愛い声してやってることエゲツねー!』
『水のように透き通る声から繰り出される虐殺パンチ。ギャップスゲーw』
『ダンロボかっこよスンギ』
『本当に中に人入ってないんだよな?』
『ここにお姉ちゃん系の配信者がいると聞きました』
『え? これ鎧じゃなくてロボットなの!?』
『ここがロボット無双劇場ですか?』
気づけば視聴者が爆増していた。
最初のゴブリンを倒して以来、SNSにダンロボによるダンジョン探索が広がったのか、1000人になっている。
妹と両親が拡散した以上の人が見てくれていた。いや、その拡散によって見てくれた人が更に拡散して、良い方向に連鎖反応を起こしたのだろう。
『でも、他の覚醒者は命を賭けているのに、遠隔操作ってズルくないか?』
「っ……」
酷い暴言を吐き捨てられたように、胸が苦しい。
こういうコメントが来るのは予想していた。
ダンロボは遠隔操作ロボット。他の覚醒者は生身でダンジョンを探索しているから、否定はできない。
それでも、私には言いたいことがある。
『確かに』
『これは良いのかな?』
増えていく私を否定するコメント達に告げる。
「このダンロボ、700万円しました」
コメントの流れがピタッと止まる。
この話を聞いている人の気持ちが、私は痛いほど分かる。
「学割で700万円でした。覚醒者はドロップアイテムで稼げると思われてるけど、私の幸運は0」
ドロップアイテムはモンスターが魔素になる時、成りきらなかった部分が残ることだ。その確率は幸運の数値が関係すると言われている。
私の幸運は0のため、そもそもドロップアイテムが落ちない。
害獣駆除みたいにモンスター討伐のお金は手に入るけど、微々たるものだ。
「ダンロボが壊れたらどうなると思う? 返せない借金が残るんだよォ!! 今だって私はダンロボが壊れないかドキドキだよ!? これ700万円だよ!? 車じゃないから戦うんだよ!?」
私は息を吸って、声のトーンを落とす。
「確かにダンロボは一種のズルかもしれない。モンスターと戦うのが怖い覚醒者が倒せるようになったみたいに……」
私はモンスターと戦うのが怖くて、戦えないことに罪悪感を抱いている覚醒者。そんな人達が活躍できるようにしたい。
「だから、さ……私にもだけど、他にダンロボを使っている人がいても、見守っていてほしいかな」
私は言いたいことを言い終えると、コメントを見るのが気恥ずかしくて前を向いた。
そこには、二層へ続く階段がある。
「ここから新しいステージだから、チャンネルはそのままで、なんてね♪」