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第2話 格ゲー少女の鉄拳





 氷神イナリは配信活動をするに当たり、本名は嫌だけど原型が残っていなのも何かヤダ、という理由で生まれた名前だ。

 そんな私の視聴者数スタートは悪くなく、一人もいる。

 誰にも興味を持ってもらえないよりは全然いい。

 この視聴者さんを大切にしようという気持ちは……


『お姉ちゃん敬語www』

「はっ? ぶち殺すぞ?」


 秒で消え失せた。

 私は配信画面に自分の顔を映してなくて本当によかったと思った。

 苗字に神が入っていたことから私の小学校のあだ名は『ゴッド祈』。そんな私はゴッドらしく、何があっても動じないようにしていた。

 だが今回ばかりは堪忍袋の緒が切れるというもの。

 人が真剣に頑張っているのに、茶化す真似をするとは許さん。


「いい加減に……っ!」


 怒りが喉まで出かかった所で、視聴者が増えているのに気づく。

 他人に見られている中で説教し始めたら、完全にヤバい女である。

 ある意味、世界が変わる。というか終わる。


『お姉ちゃんダンジョン探索マダー』


 こ、こいつぅ……!?

 ダメだ、冷静になれ。


『はやくー(ノシ`・ω・)ノシ バンバン!!』


 コメントなのに喧しい。

 しかし私はゴッド。

 妹のクソっぷりは今に始まったコトじゃないし、気にする要はない。


『みんなー。これ、私のお姉ちゃん』


 私はゴッドだ。

 お前をBANする。


「えーと、こうすればいいのかな?」


 二度とコメントを打てないようにする、BANの記念すべき一人目が妹になるとは思わなかった。

 その設定をしている中、コメントが次々と投下される。


『やっぱり、この人がそうなんだ』

『確かに声が似てる!』


 今いる視聴者は30人。

 私の配信を妹と両親が拡散してくれたが、その相手は小学生&社会人である。

 今は土曜日の朝、社会人には辛い時間だ。


「……もしや?」


 この増えている視聴者、生意気すぎるコメント。

 お前ら小学生か!?

 これ妹をBANしたらダメな奴では? 妹はリアルで友達100人を作った女傑だ。奴の一言で私の配信を見に来るくらいだ。散らすことなぞ造作もない。

 視聴者ゼロの状態で喋り続けるくらいなら、小学生軍団を相手にした方がマシ。マシ……かな?

 ひとまず、妹BANはやめとくか。


「妹、もうちょっと静かにして。友達もコメント打つの良いけど、大人の視聴者さんが来るかもだし、そういう個人的なお話は控えるようにね」


 注意喚起はしておく。

 放っておいたら勝手に個人情報を乗せそうだし。


『いつものお姉ちゃんだ』

『分かりましたー』

『はーい』


 何だか子供を引率する先生になった気分だ。


「私はお姉ちゃん系配信者、氷神イナリだよ。このダンロボが私の相棒。それじゃあ、ダンジョンに出発だ~」


 妹といつものやり取りをしたからか、良い感じに肩の力が抜けた。

 私はダンロボを進ませ、ダンジョン配信を再開する。


「ここがダンジョンの一層。何の変哲もない洞窟だけど、こうやってドローンで空中から地上を撮影できるほど高くて、横も広い。半円……うん、かまぼこみたいな形をしてるね」


 ちびっこ達を楽しませるように説明する。

 コメント欄に『どうしてダンロボは武器を装備してないの?』と質問が来ていたが、世知辛い理由なので拾わない。


『なんで明るいの?』


 良い質問だと思ったが、コメント主は妹だった。サクラのような気がしないでもないが……。


「えっと、まずみんなもダンジョンから魔素が溢れているのは知っていると思うけど、その魔素にはある秘密があって……生まれた時に光るんだ」


 配信はドローン視点のため、ドローンを傾けてソレを映す。


「これがそうだよ」


 ダンジョンの壁には一定間隔で亀裂があり、そこから魔素が生まれていた。

 ──魔素噴出孔まそふんしゅつこう

 ダンジョンには魔素を生成する仕組みがある。

 それが淡く洞窟内を照らし、明るかった。


 『そんなん知ってるから』的なコメントが『これがそうなんだ!』『綺麗……』に変わる瞬間を見て、私は決めた。

 お姉ちゃん子供向けのダンジョン配信者を目指そうと思う。

 無知なガキに豆知識ひけらかすの気持ちい~~!


「さて、ダンジョンと言えば当然、いるよね」


 メインカメラで捉えていた怪物を、視聴者にお見せする。


『ゴブリンだ!』

『でた! 雑魚だ!』

『ざ~こ、ざ~こ』


 今更だが、子供達がダンジョン配信を見られるのには理由がある。

 ダンジョン配信には専用アプリ『ダンジョンレコード』があり、それは軍や警察が民間人にモンスターの危険性を伝えるために製作したもので、グロ映像には自動的にモザイクが掛かるのだ。


 ゴブリンはスライムと並んで雑魚モンスターの代名詞であり、覚醒者が最初に戦う相手である。

 私は怖くて戦えなかった。

 小鬼という別名を持っており、身長は130センチと低い。色褪せた緑色の皮膚は病気を連想させ、本能的な嫌悪が湧き上がる。

 ボロ布で下半身だけを隠し、手には棍棒を持っていた。


 ゴブリンは生きている。偉い人の研究によると、人工生命体という結果が出ているらしいが、それでも生きているのだ。

 その吊り上がった目に宿る光は、じっとこちらを見つめていて……。


「グギャ~~~~!?」

「へ?」


 くるりとダンロボに背を向け、バンザイしながら洞窟の奥に走り出してしまった。


「えぇ!? ま、待て~~~~~~!!」


 予想外も予想外だ。

 いや、モンスターは生きている。

 確かに見るからに強そうなダンロボと出会ったら、戦略的撤退を選ぶのも無理はない。だけど、逃げたらダメでは!?


「お前にはモンスターとしてのプライドがないのかぁ!」


『草www』

『草www』

『草www』


 私はゴブリンを追いかけるが、奴は洞窟内を熟知していた。魔素噴出孔こうげんを巧みに使われ、見失ってしまう。


「あはは、逃げられちゃった」


 ダンロボは私のステータスを反映している。

 そのステータスカード(名前とスキルは編集済み)をデータ記録した物を視聴者に見せてあげる。



 ■■■(氷神イナリ) 適性【水/氷】 レベル1

 HP:10 MP:10

 魔力:7 筋力:7 器用:7

 防御:5 敏捷:5 幸運:0


 スキル 〈■■■〉〈■■■〉




 ステータスカードは国に秘匿されている、鑑定系スキルと付与系スキル持ちの合作だ。能力値ステータスを可視化し、スキルを表示させる優れ物である。


「これが私のステータスだよ。敏捷は高くないから、仕方ない仕方ない。スキルは使うまでのお楽しみってことで」


 視聴者ガキに馬鹿にされそうな空気を感じたので、すぐに話題を変えた。

 ちびっこ共は私のステータスに興味津々で、そのことがコメントから分かる。

 ふ、小学生はチョロいぜ。


「それじゃあ気を取り直して、探索リスタート」


 そうしてダンジョンを進んでいくが、モンスターが見当たらない。

 ゴブリンとの追いかけっこでヤベー奴がいるとモンスターネットワークに広がったのか、本当にダンジョンかと疑ってしまうほど静かだった。

 暇だし何か話そうかな、とコメント欄を見ると。


『レベル1なのにスキル二つ持ち? 魔素との適応率高いな』


 大人と思しき鋭い意見コメントがあった。


『これは期待できるな』


 続く言葉を見て、私の背筋は冷えた。

 私は期待という言葉が嫌いだ。

 あの時もそうだった。

 ……期待は簡単に裏返る。


「っ」


 私がモンスターを倒せないと分かった時、周囲から失望の眼差しを向けられた。

 その理由は今年の『次席』だったからだ。

 覚醒者育成の高校『ダンジョンアカデミー』では、魔素との適応率で首席と次席が決まる。

 中学三年生の覚醒者を対象にスカウトし、学費無料&入学試験なしだからだ。

 ステータスは適応率があるほど高く、スキル数も多い。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、周囲から期待されていた。

 だから子供ですら雑魚だと認識しているゴブリンを倒せないと分かった時、周囲の期待は裏返った。

 引率の覚醒者と同級生の私を見る目の色が変わり、重力が増したように手足が動かなくなった。

 冷水と言うには生温い、氷水を掛けられたように頭が真っ白になり、私は何をすれば良いのか分からなくなった。

 ゴブリンすらもそんな私を嘲笑い、命を奪おうと歩み寄ってきた。


 私は所詮、身の丈に合わない才能を授かった凡人でしかなかったのだ。

 どうしようもなくそれを実感したのは、首席の女の子──委員長が私を助けてくれた時だった。

 委員長の剣技とスキルを組み合わせた斬撃は、音を置き去りにした。それほどまでに強烈な光の斬撃だった。

 圧倒な剣の腕前、修練されたスキルは、美しく残酷だった。


 ──ああ、この子は凄いな。


 私に向けられていた視線を全て持っていってしまった。それは救いであると同時に、どう頑張っても同じようになれないと思わされた。

 私はゲームしかして来なかったのに、この子はきっとそういう時間の全てを使ってモンスターと戦う術を学んでいたのだ。


 その後、私は家に引きこもり覚醒者の役目から逃げ出した。その噂は学校だけに留まらずネットにも広がり、掲示板で馬鹿おもちゃにされるようになった。

 私は現実逃避するように、格闘ゲームにのめり込んでいった……。


 ──私が本格的にゲームをやり始めたのは、小学校五年生の頃だ。

 目と髪色の変化を友達に馬鹿にされるようになり、誰とも遊ばなくなった。

 それから私は他人と関わるのが苦手になり、一人で遊べるゲームの世界に没入していった。

 一対一の格闘ゲームを好んだのは、自分の力量が物を言うからだ。

 操作方法やコンボを練習して身に着け、自分のキャラと相手のキャラができることを考えて作戦を立てる。嵌まれば気持ち良い。相手のキャラが同じでもプレイヤーによってクセがあり、それを読み切って勝利した時の快感ったらない。

 誰かに左右されない自分だけの結果が手に入る。

 だから私は格ゲーが好きだった。


 だから、ダンロボを見つけた時に可能性を感じたのだ。

 格ゲーと似たような感覚で操作できるダンロボならば、委員長のように私の積み重ねてきた時間モノを百パーセント活かせるのではないかと。

 それができたら同じくらい強くなれるのではないかと、その言葉は嫌いだったはずなのに、私は期待した。


「ゴブリンだ」


 そして今、ダンロボの前にゴブリンがいる。

 そいつは棍棒ではなく、ナイフを持っていた。

 個体差かな?


「うわ、ナイフ舐めてる」


 好戦的な笑みを浮かべていた。

 戦いの意思を感じ、緊張感が高まる。

 ドクンドクンと心臓の高鳴る音が、頭の中を埋め尽くしていく。

 モンスターと戦うのは怖い。生き物を殺すというのは恐ろしい。

 でも今は……モンスターから逃げ出して、ちびっこ共に『弱(笑)』『雑魚乙』『ざ~こ、ざ~こ』と罵られる方が怖い!

 それに『お姉ちゃんファイトー』『ラジコン小僧の娘の腕前を見せてやれ』『応援してるわよ』温かい家族の声が聞こえた気がした。


 この期待だけは裏切れない!


 視界が開ける。

 手足に感覚が通っていく。

 格ゲーと同じだ。

 相手の攻撃を予測し、キーに指を走らせる。


「グギャァ!!」


 低身長からは考えられない脚力を発揮し、ダンロボの顔面に飛びかかってきた。

 鉄のナイフで魔素の光を反射し、空に光の軌跡を描きながら顔面に振り下ろしてくる。


「そう来ると思った……!」


 ダンロボの操作にはラグがあり、入力した瞬間には動けない。

 だからコンマ数秒前に入力した私の指示(コマンド)が時を越えて、伝わる。

 ダンロボが右に動いてナイフを避けた。ゴブリンはスカ振りして体勢を崩し、手足をばたつかせながら落下している。

 そこを狙って一歩踏み込み、素早く腕を振り抜いた。ごぅ! と鉄の拳が空気を切り裂き、ゴブリンの顔面にカウンターを叩き込む。

 ゴブリンは錐揉み回転をしながら鼻血をまき散らし、地面とキスして沈黙する。

 そして魔素の光に変わり、洞窟内を仄かに照らすゴブリンを見て、私は淡々と呟いた。


「──何だ、ザコじゃん」






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