エピローグ 元ひきこもりニートの恩返し
私は家族と夕飯を食べる前に、大切な話があると切り出した。
遠くから肉の焼く音が聞こえる焼肉屋の個室。網のある机を囲うように座っている両親に、私は札束の入った紙袋を渡す。
「これで借金返済じゃーーーー! そして今日は私の奢りだから好きなだけ食べろーーーーー!!」
「「いやっふー!」」「いやったー!」
どうしてこうなったのか、それには特に深い理由はない。
氷神イナリの収益化が通り、私は億万長者(気分的にはそう)なった。一夜にして私は1000万を稼ぎ、こうして両親に借金を返済したわけである。
そして、これまで迷惑をかけた恩返しとして、焼肉を奢ろうと食事に誘ったのだ。
「お姉ちゃん肉焼いてー」
「俺の牛丸も任せたぞ」
「私のハッピーもよろしくね」
「容赦なくない!? いいけどさ」
今日だけは甘んじて私が肉を焼いてやろう。
希とお母さんの肉を完璧に仕上げ、お父さんの牛丸は焦がした。
「ごめーんね☆」
「牛丸ぅぅぅぅぅ!!」
お父さんは無残な牛丸を泣きながら食べた。
炭にはなってないので食べられはする。
「お姉ちゃん食べ物を粗末にしたらダメだよ」
「うっ!」
希のジト目が質量を持ったように胸に突き刺さる。
一瞬だけ天国にいる牛丸が見えた。
「祈、お寿司じゃなくて良かったの?」
「いやほら、顔バレしてるから回転寿司とか無理だし。ジロジロ見られながらお寿司を食べるのは嫌だから」
「お姉ちゃん個室のある寿司屋にすればよかったんじゃない?」
「回らない寿司など寿司ではない!」
「思想強いな」
本当は個室のある寿司屋の存在を知らなかったからなのだが……本当にあるのだろうか?
寿司と個室のイメージが結びつかない。
「まあ何はともあれ、焼肉パーティーを開催できてよかったよ」
私は肉を焼きながら思う。
他の空間からも肉を焼く音、人の笑い声が聞こえてくる。
私がスタンピードを報せなければ、今あるこの空間はなかったのかもしれない。
「そうだな。祈が覚醒者としての道を再び歩き出した時は、どうなることかと思ったが……こんなに立派に成長するとは」
「子供の成長は早いと言うけど、本当に早いわね」
心を甘く撫でられたようにむず痒くなる。
やめて欲しいのに、やめて欲しくないような気持ちだ。
「お姉ちゃん、きっと天国にいるお祖父ちゃんも喜んでるよ」
「そうだといいな」
まずは叱られそうな気がする。
お祖父ちゃんは、私のような子供の覚醒者が戦わなくてもいい世界を願っていたからだ。
「祈、これからも覚醒者として生きていくのか?」
網から顔を上げると、父親と目が合う。
真剣な顔をしていて、心臓がきゅっと締めつけられた。
これ以上、娘に危ないことをして欲しくないのだろう。
私は覚醒者としての役目を十分に果たした。もう覚醒者として働く必要のないくらいに。
ダンロボは遠隔操作だ。死ぬことはないが、だからこそ私には、覚醒者の責任というものが今後も強く伸し掛かってくる。
正直に言うと氷神イナリの人気が凄すぎて、重圧感から逃げ出したい気持ちはあった。
私はすべてを理解した上で、お父さんの目を見つめ返す。
「うん。お父さん、私やりたいことができた」
不思議と口元が綻ぶ。
今回のスタンピード失敗を受け、ダンジョンマスターは今後別の角度からアプローチを仕掛けてくるだろう。
まだまだ世界は安全とは程遠く、私は今まで以上に強くなりたかった。
「お祖父ちゃんの意志を継ぐ。なんて言うのは大袈裟かもしれないけど、私は今回の件で命の重みを知った」
私はタッツォが逃げようとした時、今度は私の知らない場所でタッツォがスタンピードを起こすかもしれないと想像した。
その時に、多くの人が死ぬかもしれないと思ったのだ。
私を応援してくれているちびっこ達が、私と同じ目に合うかもしれないと思ったのだ。
「私はダンジョンを攻略して、ダンジョンマスターを倒す」
それが子供が戦わなくてもいい世界を作るための、第一歩な気がした。
私にはその力がある。
「だから、これからも応援してくれると嬉しい」
私はもう覚醒者の役目から逃げない。
誰かに望まれたからではなく、私自身の祈のために頑張りたかった。
そのために、背中を押して欲しかった。
「祈、お前ならきっと上手くやれる」
「うん」
「応援はしているけど、無理しすぎないようにね」
「うん!」
「お姉ちゃんなら絶対にやれるよ!」
「うんっ!!」
私は家族から応援の言葉を貰い、より一層頑張ろうと決意した。
そうやって始まった私の第二の覚醒者人生は、きっとこれまでよりも更に予想外のことが起きるのだろう。
けれど今だけは、未来なんて考えずに今ある家族との温かな時間を大切にするのだった。
「お姉ちゃんも食べたら? はいあーん」
「うん! お肉うまーー!!」
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
諸事情になりますが、夏休みが終わり大学生活が始まるため、本作の執筆を一旦お休みしようと思います。
これにて一章を終わります。
本当に読んで頂き、ありがとうございました。




