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第14話 公開!





 二度目の配信から数日が経った。

 私の不安とは裏腹に、氷神イナリの名前は順調に広がっている。困ったことがあるとすれば、配信の切り抜きだった。

 切り抜きは配信の面白ポイントを数分〜数十分に纏めた動画モノだ。配信はどうしても時間が長くなるため、直接見ない人も多い。

 しかし切り抜きは短い時間で、配信の要点(面白さ)をテンポ良く詰め込んでいるため、見る人が多いのだ。


 この文化は大変ありがたいが、当然ルールと言うものが存在する。

 切り抜きはあくまでも二次創作のようなもの。それなのに人気を得るために、一次創作わたしを貶すように編集した無法者が出てきたのだ。

 私は明確なルールを設定している。それは私の許可を得ることだ。

 だがXX等に書いているため、見る人が少なく、好き放題されていた。


 ここ数日はその無法者を成敗するために、ルール説明と警告を兼ねた雑談配信をしたり、お父さんの知り合いに切り抜きの許可を上げて公式があると宣伝してもらったりした。

 そうして無法者は私のファンに報告され、悪は滅びたのだった。 


「ちびっこ共は頼もしいな」


 私はXXで、イナリの悪質切り抜き師をBANしてやったぜ! と自慢報告してる人達を眺めていた。

 そいつらは主に小学生である。遊びか何かのように、悪質切り抜き師を運営(ダンジョンレコード)に報告していたのだ。

 希の話では、最近クラスでどれだけ悪い奴をBANしたかが流行っているらしい。

 小学生って怖い。


「まあ一番怖いのは、競うように仕向けたとされる私の妹なんだけど」


 反転アンチから更に反転した結果、過激なファンのようになっていた。

 希はガチで友達が100人いる。そのリーダー的存在なので、流行りを作ってしまえるのだろう。

 一緒に夕飯を食べている時、何人BANしたとか誇らしげに語ってきた希に、私はなんて答えたらいいのか分からなかったよ。


「最初の配信から一週間か〜。まだまだ気を緩めるのは早いけど、安定してきたな」


 私はゲーミングデスクにスマホを置き、配信の待機画面を眺める。

 バズってから一週間。ネットの流行り廃りは波のように激しく、いつネットの底に沈んでもおかしくはなかった。

 私は遭難した海の真ん中で誰かに見つけてもらえるように、必死で輝ける話題性の高い配信を継続した。

 その結果、幸運にも多くの人に見つけてもらえた。見てもらえていた。

 5000という配信の待機人数に、最初の妹一人を思い出して笑ってしまう。 


「ふふ、あれから随分と経った気がするな」


 濃密すぎて、一ヶ月前のように思える。

 まだまだネットの海を乗りこなせたわけではない。それでも安定してきているのは事実で、ちょっとだけ気が抜ける。

 今日は配信を楽しもう。


「いよいよ本命の重大発表だ」


 私が配信を始めたのは、ダンロボの可能性を伝えるためだ。

 そういう意味では、今日の方が前よりメインだと言える。 

 顔出し配信と同じようにカメラを……今回はドローンの角度を調整する。

 準備はできた。


「時間だな」


 白と水色のヘッドホンを被り、私はダンジョン配信を始める。

 マイクの電源をオンにした。


「皆さん、どうもこんにちは。ネットを騒がせるロボット使いのお姉ちゃん系ダンジョン配信者、氷神イナリです。みんな配信ついてる?」


『イナリちゃんこんにちわー!』

『大丈夫ついてるよー!』


 雑談配信の時、私はマイクをオフにしたまま喋り続けてしまった。だから挨拶した後、配信できているかどうかを確認するようになった。


「改めて。ダンロボで世界を変える女、氷神イナリです。えー本日の重大発表は配信タイトルにもなっている通り、ズバリ! 私のダンロボが進化した件について!!」


『うおぉぉぉぉぉぉぉ!』

『進化!』

『そういや鉱石集めてたな!』

『+.d(・∀・*)♪゜+.゜』


「ダンロボの進化って何? と思った画面の向こう側の君たち。その疑問は最もです。ダンロボは普通の武器と違って、内部は精密機械。簡単に強化できないんだけど、ウチの高校、彼の有名なダンアカには鉄とか鉱物とかを対象と重ねて叩くことで、強化できる人材がいたんだよ!」


『おおー!』 

『マジか!』

『俺のも強くして欲しいぜ!』


 ダンロボ使いからすると、夕夏は女神のような存在だった。

 ダンロボは魔法と科学が融合した新世代兵器。内部は完全にブラックボックスなので、下手に強化しようものなら壊れてしまう。


『機械の無断改造は製造元に怒られるんじゃ?』


 喜ぶコメントの中にある、嫌味というか冷静なコメントは酷く目立っていた。

 他の人達が同調する前に言っておく。


「ダンロボの生産元に確認したけど、問題ないって。というか別方面の強化では協力してもらったから、私の配信を見てるかもね」


 視聴者に紛れているだろうダンロボ関係者に手を振る。強化版ダンロボのデータを収集するために、一人くらいは見ているはずだ。


「じゃあ、私の新しい相棒を見ていこっか♪」


 ダンロボは第五層、水魔鉱石の鉱脈がある小広場に佇んでいた。そのダンロボを視聴者に見えるように操作する。

 ドローンは地面を向いていたが、顔を上げて、ダンロボの足を映した。


「魔鉄オンリーとは違う光沢感になってるね。まるで機械と古代の遺物が融合したような、そんな質感になってる。色合いも前より深い」


 デザイン自体に変化はないが、気づく人は驚いていた。


『(゜д゜)!』

『待って、色が調和してる?』

『二属性だよな……?』


 水魔鉱石と氷魔鉱石は、それぞれが水属性と氷属性の魔力を保有している。それらは本来、混ざるなんてことはない。


「ブラッディベアーの魔石を使ったんだ。混じり気のない炎は、二つの鉱石に完全なる調和をもたらした。知人Nに聞いた話だと凄い鍛冶系クラフターなら同じことができるみたい」


 二属性の魔力が混ざり合う現象は、無属性以外ない。人の手が加われば、今回のように可能らしい。

 魔石の使い道を共有しながら、ドローンは胴体と足を見せる。

 そこで視聴者は気づいた。

 ダンロボの変化を。


『うおーーーー! ダンロボーーーーー!!??』

『カッケーーーーーーー!!!』

『拳がガントレットみたいになってる!?』


「ダンロボは各種武器を扱いやすくするために、手には何もなかったんだけど、私は武器を使わないから変えたんだ♪」


 手の甲から指先まで、全体的にゴツくなっている。掌を握ると、メリケンサックのような凶悪すぎる凹凸が生まれた。

 例のゴーレムが発想元だ。

 その腕にはワンポイント拘りがある。


「これ見てこれ! 雪の結晶模様と雫模様が入ってるよ!」


 高揚した気分のままに、画面ダンロボの腕を指差す。

 右腕には氷属性をイメージした雪の結晶模様、左腕には水属性をイメージした雫模様が刻まれている。

 特に意味はなく、ただ単に格好良いだけだ!


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

『欲しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

『俺の心が疼く!』

『今だけこのコメ欄にいる男全員と仲良くできる自信がある!』


 そうして、興奮冷めやまぬ視聴者にドローンを引いて全身を見せる。


「これが私の新たな相棒ダンロボ、アクアフローズンだよ!!」


 青く輝く鉱脈を背景に、堂々と佇むダンロボは、誰が見ても最高に格好良かった。


『ぎゃーーーー! 欲しーーーーーー!』

『カッケーーーーーーーー!! 俺も欲しーーーーーーー!』

『スゴ(*≧∀≦*)ィッッ♪♪』

『生で見たすぎる!!』

『舐め回したい!』 

『抱きつきたい!』

『専用機とか最高だな!』

『いーなー!』

『覚醒者じゃないことを初めて後悔したわw』

『‧˚₊*̥(∗︎*⁰͈꒨⁰͈)‧˚₊*̥ すんごっ!』

『ス..ス...(゜Д゜(゜Д゜ノ(゜Д゜ノ)ノスゲー!!!』

『マジのマジでいかす〜!』

『くー! 自家用ロボット羨ましいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

『(๑✪ω✪๑)もんげー!』


 ニマニマと口元が緩んでしまう。

 胸に秘めていた思いを、みんなと共有できるのが最高に嬉しかった。

 コメント欄が落ち着くまで、私はその余韻に浸る。


「さて、それじゃあ次に新機能の説明をしようか。元々は性能の強化だけだから、説明する必要がなかったんだけど……」


 私は配信用マイクをオフにする。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


【あー、どう? 聞こえてる?】


 画面の向こう側から、私の声が聞こえた。


『!?』

『Σ(๑ °꒳° ๑)』

『えあーーー!?』

『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!?』

『喋ったーーー!?』


 予想通りの反応に私は微笑みながら、マイクをオフにして配信用の方をオンにする。


「別方面の強化がこれだよ。他の覚醒者とダンジョン内で出会った時、意思疎通できないと困るから、声を送れるようにしてもらったんだ」


『そ、そんなのあったっけ? ((((;゜Д゜))))ガクガク』


「これは新しいダンロボキーボード。ダンロボ強化の件で関係者と話すことがあって、頼んだらイケた」


『何でだよ!?』

『イケたんかいwww』


「だから新しくダンロボを購入した人は、もう購入しちゃったよって人は交換を申し出ると、【こうやって声を出せるようになる】」


 私はダンロボの新機能を公開した。

 この機能は本当にありがたい。

 実は覚醒者とダンジョンで出会ったら云々は建前で、本当はダンアカで何か喋りたい時にいちいち電話をかけるのが面倒だったからだ。


「性能面の強化で言うと、水と氷スキルの威力が上がったことかな。覚醒者の魔素とモンスターを形作る魔素は同じく、ダンジョンから生まれたもの。だから魔素から生まれる魔力も同じで、この離れ離れになっていた同属性の魔力が触れ合うと結合反応が起きる。それによって魔力が増幅されるんだ。元鉱石ダンロボに宿っている魔力は流れないから、結合したとしても中に留まり続ける。私の魔力は結合が切れても、結合反応により増幅されているから、結果的に威力が上がるってわけ。他の覚醒者の武具にも同じ原理が使われてるよ」


『そうなんだ!』

『(* ˘꒳˘)⁾⁾ウンウン』

『解説たすかる〜』


 魔素同士でも似た反応がある。そのため適応した魔素と同じ属性のモンスターを倒した時、経験値にボーナスがかかったりする。


「あ、スキルになった魔力は現象……私の波動水だと魔力を水球にして発射する。ていう感じだから、他の水属性スキルと衝突しても結合反応は起きないよ」


 お姉ちゃん系ダンジョン配信者として、私は聞かれていないことも説明する。

 こういう豆知識をひけらかす瞬間が一番気持ちいいんだから!


「じゃあ、この階層でダンロボの性能をテストして行こうか。まだモンスター相手に試運転してないから、私も楽しみだよ! レッツゴー!!」


 胸のドキドキとワクワクが止まらない。


『レッツ――ヽ(@,,>∀<)ノ――ゴォォ♪』

『レッツ━━━━━━o(・∀・)○━━━━━━ゴー!!』

『m9(´∀`●)イッテミヨーーー!!』


 元気良く右手を振り上げると、みんな乗ってくれた。

 そうしてダンロボを前に歩かせると、静かな洞窟内に重たい足音が鳴り響いた。最初は私のダンロボの音かと思っていたが、重なるように別方面から鳴っている。

 そいつは細い道を抜けて、小広場に姿を現した。

 ガントレットのように変形した、そいつの水魔鉱石あおいろの腕を見る。恐らくは、前回の配信に出た奴と同一個体だ。


「まさか、またお前に会うとはな」


 そのゴーレムは私の隣を通り過ぎる前に、そっと頭を下げた。お辞儀を挨拶として認識したらしい。

 例のコボルトのように知能がある。

 前回は呆然として戦う意思は沸かなかったが、今は違う。 


「隙ありじゃボケーーーーーーーーーー!!」

「っ!?」


 ダンロボは鮮烈に一歩を踏み込む。

 鉱鉄こうてつの拳を握り締め、ゴーレムの腹部に容赦なく撃ち込んだ。岩塊に落石が衝突したような音を鳴らし、ゴーレムを壁に吹き飛ばす。

 水魔鉱石の鉱脈を破壊しながら壁にぶつかる。腹部の岩は砕けていて、砕けた先から魔素の光になり消滅していく。 

 青い目の光は点滅していて、混乱状態にあるのが分かった。


「どうやら、私は強くなり過ぎたみたい。6レベルになったから無理もないか」


 そうして、私は混乱したゴーレムにトドメの一撃を刺す。

 消滅するゴーレムに背を向け、私は強くなるために歩き出した。


「さて、ゴーレムじゃあ私の相手になる奴がいないことだし、今日は第六層と言いたい所だけど……」


 私は準備しておいた物を、ゲーミングデスクの下から持ち上げる。

 それは私がダンアカの生産棟に訪れた時、買おうとしていた物で。医療関係に使われているため唯一、ダンジョンの外にも存在する物だった。

 ドン! と、その箱をおく。


「ダース単位の回復ポーションじゃあ! よってこれから私は、私の限界を知るために耐久配信を行う!!」


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『お姉ちゃん大丈夫なの!?』

『ちょっ!?』

『軽い気持ちで観に来たのにぃぃぃ!?』

『マジかー!』

『嘘だろ……!?』

『だから土曜日の昼間から配信してたのかよ!』 


 阿鼻叫喚のコメント欄に笑みを深めながら、再度、右手を握り締めた。


「さて皆さん、お手を上げて。それでは一緒に、レッツゴー♪」


 そうやって、私は自分の限界を確かめるために、ダンジョンの深く深くへと潜っていった。

 最終的に、私は第十層に到達した。




 水神祈 適性【水/氷】 レベル9

 HP:30 MP:32

 魔力:26 筋力:27 器用:23

 防御:18 敏捷:13  幸運:1


 スキル 〈波動水〉〈氷冷拳〉〈アクアダッシュ〉〈氷冷脚〉




 あと1レベル、足りなかった……。

 ちくしょう。





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