第12話 鉱石の行方
モンスターと対峙した時、最初に注目するのはダンロボを前に逃げるかどうかだ。
五層に到達するまで、自らの意思でダンロボに牙を剥いたのは、好戦的なゴブリンとイレギュラー個体のブラッディベアーだけだった。
「私たち覚醒者がレベル5になるとスキルに目覚めるように、モンスターも身体能力が上がるから……やる気みたいだね」
そこにオーアリザードを追加する。
爬虫類の丸い瞳でダンロボを観察していた。
逃げないモンスターの特徴は、ダンロボを破壊できるかどうかだ。
こいつはダンロボの強化素材を噛み砕けるため、私の推測は間違っていないだろう。
ブラッディベアーもダンロボを破壊できる力を持っていた。
好戦的なゴブリンは……何なのだろうか。
馬鹿というか脳筋過ぎて、きっと力量差を把握できなかったんだろう。
『新スキル楽しみすぎる!』
『イナリちゃんの真剣な横顔がグッド!』
『こっちまで緊張感が伝わってくる〜(*﹏*;)ドキドキ』
賑やかなコメント欄に微笑みながら、私は新スキル〈アクアダッシュ〉を使おうとして。
「まずっ!?」
オーアリザードに先手を奪われた。
尻尾をゴルフクラブのように振り上げ、食い荒らした鉱石の残骸をダンロボの目に飛ばしてくる。
レンズ部分は柔らかいため、飛来してきた鉱石を左拳で粉砕。
「フシュュルルルルルル」
そのダンロボの死角を突くように、オーアリザードが躍動する。壁に跳躍して張り付き、一気にダンロボへ襲いかかってきた。
二つ目の生物を刈り取るために、鉱石を目眩ましに利用した攻撃パターン。
しかしそれは、悪手だ。
「私にはもうひとつ目がある!」
三人称により、私はオーアリザードの行動を把握していた。
ヤツはガパっと口を開く。ダンロボを硬い鉱石と同じように、噛み砕こうとしていた。
私はダンロボをオーアリザードに振り向かせながら、遠心力を利用して右足を振り抜かせる。
「〈氷冷脚〉!」
鉄の爪先が顎下に吸い込まれるように直撃する。下顎を無理やり閉じ、上顎にヤツの自慢の歯が突き刺さった。
一瞬だけ血が滲むが、私のスキルは子供達に配慮している。
氷結の風が上へ吹き抜け、オーアリザードの頭を凍らせた。〈氷冷拳〉より範囲が広く、ヤツの頭は氷の世界に閉ざされた。
オーアリザードはひっくり返りながら地面に落ちる。脳の機能は文字通り凍結され、再び動き出すことはなかった。
その体は魔素になり、光の粒子を舞い上がらせながら消滅する。
「ふー、危なかった。まさか鉱石を飛ばしてくるなんて、思いもよらなかった」
『だな』
『私も初めてみた』
『前から思ってたけど、ダンロボって……』
コメント欄が急に沈黙する。
ん? と首を傾げながら画面を見ると、光の粒子が消えた後、青い鉱石が転がっていた。
「ドロップアイテム!? しかも水属性の鉱石だ!」
オーアリザードは、食した魔力を背中の鉱石に蓄積する。そして一定値に達すると、例のブラッディベアーのように属性スキルに目覚める。
水魔鉱石を食べていたことから、水の魔力を凝縮・濃縮・圧縮した物に違いない。
「どうやら、幸運の女神をメロつかせちまったみたいだな」
『ほざくのも大概にせいw』
『メロつかせるってwww』
『そんなことより氷冷脚ってなにー?』
「氷冷脚は氷冷拳の脚バージョンだよ。拳より魔力消費は多いけど、その分威力は高いね」
私は視聴者に説明しながら、ダンロボを屈ませる。
水魔爬石を回収するために、手を伸ばした。すると、マジックか何かのように水魔爬石が弾き飛ばされ、代わりに水魔鉱石を握っていた。
「ん? ……はえ!?」
二度見して気づく。
水魔鉱石が飛んできた方に顔を向けると、尻尾を振り上げた新手のオーアリザードがいた。
そいつは視点の範囲外にいて、深い青色の鉱石を背中に持っている。そのオーアリザードは、一心不乱に水魔爬石へ走っていった。
「ま、まさか……!?」
オーアリザードはダンロボより速く、水魔爬石に先着した。
ヤツは私に見せびらかすように、尻尾で水魔爬石を掬い上げ、落下地点であーんと口を開ける。
「さ、させるかぁーー! ダンロボ〈アクアダッシュ〉!!」
私は走行キーを押しながら、マナラインを介して魔力を供給する。
ダンロボが体を前に傾かせ、足で地面を押した。その裏から途轍もない勢いで水が噴き出し、一歩でオーアリザードとの距離を潰す。
「喰らえ怒りの鉄拳!」
深く地面を踏み込み、頭を殴りつける。
硬質な音が鳴り響いた。
ダンロボの拳は、ヤツの尻尾を掠める。
オーアリザードはダンロボの動きを見、頭上にジャンプしていた。パン食い競争のように開けた口の中に、水魔爬石が入り込む。
その顎門を閉じた。
「フシュル♪」
「共食いだろうがーーーーーーーーーー!!」
私の叫びはオーアリザードに届かず、硬い鉱石を砕く咀嚼音が鳴り響いた。
「私のお宝がパクられたーー!! 何がお宝ザックザクだよ! 私じゃなくて相手じゃん!?」
『パクられてパクられたってか?w』
『お宝ザックザク(咀嚼)www』
『タイトル回収あっつwww』
「幸運の女神様トカゲ顔ーーーー!!」
『トカゲ顔てwww』
『失礼すぎるだろw 天罰落とされろww』
私は恨みつらみを吐き出しながら、オーアリザードの腹部に鉄拳を撃ち込む。
ヤツは空中でヒラリと反転して、背中の鉱石部分で受けた。衝撃で吹き飛び、硬質な爪を地面に突き立て減速着地した。
「げぷっ♪」
「お前だけは絶対に許さん! 百パーボコす!」
水魔爬石を腹の中に収めるとは、モンスターの癖にやってくれるじゃないか。
その影響で背中の鉱石は見る見る内に青くなり、青くなり、青くなる。
「は?」
オーアリザードの鉱石が青く輝き始めた。
水属性の魔素が背中を起点として生まれ、体中に広がっている。鉱石のように青く煌めいていた肌に亀裂が走り、光が弾けると同時に剥がれ落ちた。
脱皮である。
脱ぎ捨てた皮が魔素に変わり、光の粒子を立ち昇らせる中から姿を現したのは、サファイアのように青くなったオーアリザードだった。
「モンスターのイレギュラー化? というより進化? オーアリザードは食べた魔力を背中の鉱石に蓄積して、一定値に達すると変質する。魔素の塊となり魔力を生成する量が増えて、属性スキルに目覚める」
呆気に取られながらも、ちびっこ共に説明する。
水魔爬石を食べたということは、オーアリザード約一体分の魔力を得たということだ。こういう現象が起きても不思議ではない。
「まさかもまさかだ。いや、それはまさか過ぎるだろ!」
オーアリザードは跳躍前の猫のように体を屈め、力を溜めた。その足で地面を蹴った瞬間、水が噴き出す。
〈アクアダッシュ〉だ。
「っ!!」
ドローン視点で動きを見ていた。
だが、私には反応できなかった。
オーアリザードも目覚めたスキルを制御できていないようで、別方向にダッシュしている。
「相手がスキルに慣れる前に倒すしかなさそうだな」
突発的に出現した強敵に、私は冷静になり倒し方を組み立てる。
周囲の地形と物と状況、諸々を込みして倒せると判断。
「大人しく借りパクしとけば良かったのに、私に1on1を挑むとは……後悔させてやんよ」
「フシュルルルル!」
戦いの決着は一瞬だった。
オーアリザードは〈アクアダッシュ〉による超加速を用いて、ダンロボに空気を切り裂きながら突き進んでくる。
私は鉱石を砕いて、ヤツの進行方向に投げた。
鉱石の粉末による目眩まし。
「フシュル!」
爪を地面に突き刺し急停止した。
オーアリザードは体を回転しながら尻尾を鞭のように振り上げる。風圧を生み、粉状の鉱石を空気中に散らした。
無数の小さな鉱石達は魔素の光を反射し、洞窟内を幻想的に彩る。
そんな中で、私はダンロボを加速させていた。
「〈アクアダッシュ〉」
一歩で間合いをゼロにする。
オーアリザードは煌青の爪を閃かせ、ダンロボの腹に風穴を開けようとしていた。
「〈アクアダッシュ〉!」
「フシュルルル……!?」
二歩目で相手は追いつけなくなる。
オーアリザードの鋭爪を躱しながら、無造作に伸びていた尻尾を掴む。
「人様のモンを盗った落とし前じゃぁぁぁぁ!」
推進力を利用して、壁に投げ飛ばす。
背中に鉱石を持っているため、壁に激突すると体がくの字に折れ曲がった。そんなオーアリザードへ鋭く踏み込み、腹部に凍てつく拳を叩き込む。
「〈氷冷拳〉」
オーアリザードの体内を冷気で蹂躙し、骨の髄まで凍らせた。
最後にヤツは何を思ったのだろうか。
「お前の敗因は、スキルに慣れてないのに私に挑んだことだ。アクアダッシュの連続使用の有無、それだけが私とお前の差だったよ」
オーアリザードの体は、氷が蒸発するように消えていく。
水魔爬石が残ることはなく、私はヤツに背を向けた。
「さて、次の採掘ポイントに行きますか♪」
配信が暗くならないように声のトーンを明るくしながら、私はダンロボを歩かせた。
この戦いで、私のレベルは6に上がっていた。




