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第10話 元ニート契約を結ぶ





 ダンジョンアカデミーには二つの学科がある。

 戦闘系スキルに目覚めた人達の戦闘科、生産系スキルに目覚めた人達の生産科だ。

 そして前者を鍛えるための訓練場があり、後者を鍛えるための生産棟(せいさんとう)という場所がある。

 生産科の生徒一人一人に個別の部屋が与えられていて、一階は鍛治系、二階はポーション系というように別れている。

 その生産棟に私と委員長はやって来ていた。


「デカすぎんだろ……」


 白い長方形の建物は、ダンジョン防衛基地を彷彿とさせる。

 あちらほど大きくはないが、設計者が同じなのか棺桶型デザインが似通っていた。

 入口は自動ドアであり、そこから中に入ると沢山の生徒がいて賑わっていた。


「お〜!」


 生産棟の入口近くはショップになっていた。

 右側には剣や鎧といった装備が並べられていて、左側にはポーションや荷物入れといったアイテムが売ってある。

 ダンジョン防衛基地のショップにも言えることだけど、ファンタジーでテンション上がるな……!


「例の子に連絡したから、買い物は後にしてね」

「待たせるわけにはいかないか」


 アイテムショップから視線を外し、生産棟の奥に歩いていく。

 喧騒の声は遠ざかり、左右に扉だけがある廊下に来た。


「そういや、私に紹介したい子ってどんな子なの?」


 鍛治系クラフターと聞くと、職人気質な人を想像する。

 他にはドワーフ的な褐色ロリっ子。


「物を作るのがとにかく好きな子だよ。だけど不憫でね。戦闘科の生徒とも相性が悪くて、依頼を頼まれることがないんだ」


 ワケアリの人物ということか。

 確かに普通は生産科と戦闘科の生徒は仲が良く、協力関係を気づいているはずだ。今から会う相手が戦闘科の生徒と懇意にしていたら、私に紹介するわけがない。


「んー」


 どんな子だろう?

 物作りが好きだけど戦闘科の生徒と相性が悪い。

 凝り性のオタクとか、物作りだけしたい引きこもりさんとかかな。

 だったら私なら、気持ちが分かるし仲良くできる……!


「ここだよ」


 委員長が足を止めた先には、白い扉がある。

 そこには一枚のネームプレートが掛けられていた。

 その名前から女の子だと分かる。


「楽しみだな」


 胸に当てた掌から伝わる、鼓動の音が早い。

 ダンロボを強化してくれる鍛治師とのファーストコンタクト。

 長い付き合いになるかもしれない相手だ。

 陰属性が相手でも仲良くなってみせる!

 そして、扉を開けた先にいたのは──。


「どーもー! あたしは夏木夕夏なつきゆうか! よろしくね祈ちゃん!」


 元気で明るい、一人のギャルだった。


「まさかの陽属性……!!」


 相性が悪いとはなんのことだろうか。

 しかも魔素との適応率が高いのか、ピンクブロンドの髪を持っていた。桜色のシュシュでポニーテールに結ばれていて、お尻の辺りまで流れている。

 目は鮮やかな赤色をしていて、肌は健康的な小麦色だった。

 何よりも目を引くのは、その大きな胸だ。ブレザーを腰に巻いていて、白いシャツを高らかに盛り上げる巨乳!

 このギャルは物を作るだけではなく、巨乳むねを作るのも得意だというのか……!!


「はーい陽の者です!」

「しかもノリがいい!」


 指をピースにして目を挟むようなポーズを取った。

 伝説のオタクに優しいギャルだというのか。


「ちなみにこの目はカラコンだぞ☆」

「……ん? じゃあ髪は?」

「こっちは本物。鍛治の炎は火属性と無属性のミックスだから、あたしの髪はご覧の通りピンクブロンドなのだー♪」


 聞いたことはある。

 生産系スキルは無属性+他属性の魔素が混ざるように適応した者が覚醒すると。

 鍛治系であれば火属性と無属性であり、無機物を焼くことに特化した『鍛治の炎』を使えるようになる。

 そして髪と目の色が変わる場合、ピンク系統になる。


「あたしの魔素適応率は90%くらい! 髪色は可愛くなっても目の色はそのままだったから、カラコン入れてる」

「もしかして不憫って……」


 委員長の方を見ると、コクリと頷いた。


「二学科の親睦を深める交流で、夕夏は馬鹿正直に今と同じことを言ったんだ。そうしたら……」

「髪色も染めてるかもしれないって避けられちゃってさー。それにあいつら、あたし達の武器を消耗品かなんかだと思ってるぞ絶対」

「消耗品?」

「そそっ。やれ武器が壊れただの、やれもっと強くしてくれだの、注文が多いクセに使い方がなっちゃいないんだから!」

「あー……」


 当然だけど私達は今まで武器を握ったことがない。

 だから力任せに振るい、壊してしまう姿が簡単に想像できた。


「それは仕方ないんじゃ?」

「むー。ソレは分かってるけど、あたしたち生産科を見下してるような気がするんだよね。こう、俺たち戦闘系覚醒者がいなければ存在価値のない寄生虫! て感じでさ」

「そこまでは言い過ぎだけど、上下関係のようなものが生まれているのは事実だよ」


 難しい話だ。

 覚醒者には二つのタイプがある。

 戦闘系スキルに目覚めた戦闘覚醒者ハンターと、生産系スキルに目覚めた生産覚醒者クラフターだ。

 クラフターは戦闘系スキルに目覚めることはない。しかし、レベルを上げるためにはダンジョンに潜らなければならない。

 その時に護衛してくれるハンターがいないと危ないため、上下関係が生まれてしまったのだろう。


「夏木さん」

「夕夏でいいよー」

「じゃあ夕夏、私は戦闘科だけどダンロボを強化してくれるの?」

「そりゃモチのロン。祈ちゃんはあたし達クラフターの恩人予定だから!」


 腰に両手を当て、ドーンと胸を張る。

 羨ましい大きさ、ではなく。


「恩人予定?」

「そそ、祈ちゃんがダンロボの有用性を広めてくれたから、学校側も購入&(あーんど)貸し出しを予定してるんだ!」


 なるほど、ダンロボは遠隔操作ロボットだ。

 クラフターが使えば、安全にレベルアップできる。


「そう言うことなら、さっそく修理を頼んでもいい?」

「まっかせなさーい!」


 夕夏は快活に笑うと、赤い瞳でダンロボを見回してくる。 


「じゃあ、あたしの工房に入ってー。その子が傷ついたままなのは心苦しいから、すぐに綺麗にしてあげる」

「うん、お邪魔しまーす」


 入口で話し込んでいた私達は、夕夏の鍛冶場(部屋)にお邪魔する。


「すごっ」


 学校の教室と同じくらいの広さで、中央奥には鉄などを熱するための炉があった。ハンマーやペンチのような物が壁に立てかけられていて、その横には棚があり魔鉄や私の知らない鉱石達が納められている。

 ギャルっぽい夕夏からは想像できない、まさに鍛治師といった部屋だ。


「早速やっちゃうから、中央に寝転んで」

「うん」


 私はダンロボを仰向けに寝転がらせる。


「委員長カメラをオンにしてくれない? サンキュー」


 ダンロボ視点だと周囲が見えないため、委員長の胸から見る。

 夕夏の手におかしな物が映り、見間違いかと首を傾げた。


「じゃ、ダンロボの修理はじめまーす」

「帽子!?」

「似合ってるっしょ☆」


 夕夏は髪を頭上でまとめ、帽子キャップを被った。

 鍛治師さんもハチマキのような物を巻いていたから、不思議ではない、か?


「そして火の魔石をゴーシュート!」

「野球ボールのように投げたぁ!?」

「鍛治の炎は火の魔力を燃料にする!」


 炉に掌を向け、透き通った炎を放出する。

 それは火の魔石に当たり、熱く燃え上がった。

 火の粉が周囲に舞う。

 しかし夕夏は涼し気な表情で、棚から魔鉄を取り出す。それをペンチのような物で挟むと、鍛治の炎に当てる。


「夕夏先生、聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

「ふふん、ドンドン聞きなさい若者よ」

「何この茶番」


 委員長はノリが悪い。


「こういう時に火の魔石の純度が高いと良いことってあるんですか?」

「大アリ! 祈ちゃんは現代兵器がモンスターに通じない理由って知ってる?」

「魔力を宿したモノでしか干渉できないってこと?」

「そう、ほんであいつらは酸素じゃなくて空気中に漂ってる魔素で呼吸をする。それは魔力を宿したこいつらにも言えるんだよねー」


 こいつらとは魔鉄や鉱石類のことなのだろう。


「鍛冶の炎は私の魔力濃度、ステータスで言う魔力と魔石の魔力濃度のうどで火力が決まり、魔素との適応率に比例して純度が上がる! それらが高いほどに良く溶けて、素材に含まれてる不純物を取り除ける! だから、火の魔石の純度が高い方が良い魔力を燃料にデキてゲームで言うところの大成功の確率が100%になる!!」


 鍛治の炎に熱されていた魔鉄は赤色に光り、その温度はブラッディベアーの赤熱化した爪を思わせる。

 しかし依然として夕夏の顔は涼し気だ。

 それは火属性の魔素に適応しているからだ。

 身体的特徴の変化は髪と目の色だけではなく、体質にも影響を及ぼしている。

 火属性に適応した者は熱に強かった。


「よし、火加減バッチリ」


 私はペンチのような物で魔鉄を持ち上げた夕夏を見て、今更ながら心配になってきた。


「ダンロボの修理ってデキるのかな?」

「普通の鍛治スキルなら百パーセント無理だね。だけど夕夏のスキルは特別だよ」


 夕夏はダンロボの腕に魔鉄を重ねる。

 本当に直せるのだろうかという不安感に心臓が高鳴る中、夕夏は右手にハンマーを持ち、口元に笑みを浮かべながら振り下ろす。


「今、なおしてあげるね」


 槌が魔鉄に落とされると、光が弾けた。

 赤い光が夕夏の真剣な横顔を照らし、鉄と鉄の重なり合う音だけが鍛冶場に響く。

 カーン……! カン、カン、カン、カン……!

 まるで楽器のように澄んだ音が鳴り、夕夏は何かを確かめるように何度も腕を振り抜く角度を変える。


「夕夏のスキルは〈奏重鍛そうじゅうたん〉って言って、素材と武器を重ねて叩くことで修理・強化ができる」


 ブラッディベアーに深々と切り裂かれた跡がなくなっていく。

 よく見ると、ハンマーに薄っすらと桃色の炎が宿っていた。


「んー? なんか聞き覚えがあるような」


 夕夏が奏でる音のリズム。

 どこかで聞いた覚えがある。


「ノッて来たぁ!」


 夕夏は何かを掴んだように、二本目のハンマーを持ってリズミカルに振るう。

 カカンカンカンカカカカ……!


「いや音ゲーじゃん!?」


 静謐な空気は一転する。

 なんか聞き覚えあると思ったら、プ○キュアの主題歌じゃねぇか!!


「なんか素材は呼吸しているらしくて、〈奏重鍛そうじゅうたん〉には呼吸と合わせるようにリズム良く叩くことで、素材の力を引き出す効果もある。らしい」

「らしい!?」

「最上級の鍛治師は素材の声を聞くみたいだし。あり得なくはないんだけど……」


 低レベルの夕夏が似たようなことをデキるのはおかしいと言うことだろう。

 ……夕夏はこの話も馬鹿正直にしてそうだ。

 覚醒者にとって命を預ける武器を頼むなら、なんか怪しいことを言う人よりは普通の人の方が確かに安心できる。

 だけど、鍛治をしている夕夏は楽しそうだった。


「……委員長は私に何を望んでいるの? 夕夏と仲良いみたいだし、依頼したらいいのに……」

「私は彼女と足並みを揃えることはできない」


 夕夏に聞こえないように、小さな声で呟く。

 委員長は今年度ダンジョンアカデミーの首席入学者だ。何よりも私を助けるために、ゴブリンに放った光の一閃。あれは1レベルの覚醒者が出せる技ではない。

 最上級の鍛治師の話なんて、私は聞いたこともなかった。


「委員長って何者なの?」

「私はただの女子高生だよ。ちょっとだけ特別な」

「……」

「それに私は水神さんに何かを望んでいるんじゃなくて、夕夏のために水神さんを紹介したんだよ」


 その言い方はずるい。

 これ以上、探りを入れるのは野暮というものだ。


「祈ちゃん! デキたよ〜!」


 夕夏はダンロボの傷ついている部分に魔鉄を打って回り、綺麗に直してくれた。

 私はダンロボを起き上がらせ、右腕を動かす。


「おお……! 違和感がなくなってる! ありがとう夕夏!」

「なはは、どういたしまして!」


 照れくさそうな笑みを浮かべた。

 夕夏はハンマーを元の場所に戻すと、頭から帽子を外して棚に投げ入れた。

 ピンクブロンドの髪が飛び出してきて、熱に強いとはいえ熱かったのか「ふぅ」と息を吐いている。


「祈ちゃん」


 夕夏はダンロボに歩み寄り、真剣な瞳で見上げてきた。


「あたしには夢がある。誰よりも凄い物を作りたいっていう夢が。そのために沢山の素材()と触れ合って、呼吸を知りたい。今はまだレベルが低くて、凄くないけど……あたしに力を貸して欲しい」


 その赤い瞳は、本当に炎が宿っているように熱かった。

 あまりにも熱い気持ちは確かに私の心を震わせた。


「私にできないことができる夕夏は十分凄いよ。だからこちらこそ、力を貸してくれると嬉しい」

「ほんとーに!?」


 鼻息を荒くして、ぐいっと爪先立ちして顔を近づけてくる。


「うん。むしろ私こそ拳を武器にしているからアレなんだけど……」

「全然いい! あたしはあたしで好きな作品を作るから!」

「ふふ」


 私は強くなるために、夕夏は成長するために、互いが互いを必要としている。

 利害の一致というやつだ。


「じゃあいのりん、パートナー契約を結ぼっ♪」

「いのりん? パートナー契約」

「あたし達は一蓮托生だから! パートナー契約は戦闘科と生産科の生徒間で結ぶ契約で、これがあるとパートナーにクエストを依頼する時に発生するQPをダンアカが出してくれるの……! 回数制限はあるけど」


 要するに採取してきた鉱石を学校ではなく、夕夏に渡す依頼を作れて、その達成報酬キュピを学校が払ってくれるということか。


「オーケー、契約しよう」

「おうとも♪」


 夕夏はスマホを取り出し、目にも留まらぬ速さで指を振るった。

 私のスマホにパートナー契約の申し出が届き、それを承諾する。


「これからよろしくね、いのりん!」

「うん、夕夏!」


 晴れやかな夏の空を思わせる夕夏の笑顔は、とても素敵だった。

 そうしてパートナー契約を結ぶと、さっそく夕夏から依頼が届く。


「ダンロボを強化するための鉱石採取、頼んだぞ☆」


 親指を立て、綺麗な顔でウィンクした。





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