表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

プロローグ ニートは土下座して金借りる





 私、水神祈みずかみいのりは家族と夕飯を食べた後、大切な話があると切り出した。

 高校一年目にして、家に引きこもりニートと化した私の相談に「分かった」と両親は真剣な顔で頷いた。

 リビングのカーペットに正座した私は、真心を込めて頭を下げる。


「一生のお願いっ! お金を、お金を貸してくださ~~~~~~~~~~い!」

「「そんなことだろうと思ったよ! このバカ娘!!」」


 どうしてこうなったのか、それには深い理由わけがある──。




 今から五年前、世界各地にダンジョンが出現した。その中にはゲームに詳しい人なら想像つく、危険極まりないモンスターが徘徊していた。

 そいつらには銃火器や爆弾と言った現代の兵器が通用せず、モンスターを倒すには覚醒者の力が必要だった。

 この覚醒者と言うのは、ダンジョンから溢れた魔素に適応して、ステータスとスキルを授かった人である。


 覚醒者は適応する属性があり、覚醒率が高いほどそれが身体的特徴に現れる。かく言う私は氷と水の魔素に適応し、髪は透き通るような水色に、目は結晶模様が入った碧眼になった。

 当時は覚醒者がどういう存在なのか分からず、その身体的特徴の変化を私は同級生の子に弄られた。それはもう弄られまくった。

 まだそれだけなら耐えられたけど……モンスターに覚醒者が有効と分かるや否や、覚醒者を優遇する代わりにモンスターを間引くように国から指示が出された。

 モンスターは定期的に倒さないと、溢れるのだ。

 一度地上に溢れかえり、生命の危機を脅かされた人々は覚醒者優遇制度(モンスター討伐の条件付き)に賛成。私のような学生は、覚醒者育成の高校に入学させられた。


 私は国のしたいことは分かるし、やった方が良いというのも頭では分かっている。

 だけど──モンスターと戦うのが怖いのだ。

 初めての実戦。生物が死ぬ瞬間を見た。

 モンスターと人類は敵対していると分かっている。分かっていた。最初は映像越しで見たそいつらは弱くて、簡単に倒せると思っていたけど、とんだ思い違いだった。

 画面越しならスプラッター映画のようだと耐えられたけど、目の前にいると無理だった。

 怖くて震えてしまって、モンスターを一匹も殺せなかった。

 初めての実戦の後、周囲から失望の目を向けられて……。

 私は引きこもりダンジョン探索から逃げている。




 ──だけど、私はある商品の発売を知り、土下座するに至ったのだ。


「えっと、私って見た通り覚醒者じゃん?」

「そうだな。何故お前が適応できたのか分からんが」

「学校にもできてないのにね」

「モンスターと戦うの怖いって説明したじゃん!?」


 両親に突っ込む。

 割と深刻な悩みだけど、この両親と話していると下らないことに思える。


「そんなことより、お姉ちゃんが子供っていう立場を利用して、ママとパパから借金してまで買おうとしてるのって、これ?」

「妹!?」

「お姉ちゃん下向いてて何言ってるか分かんない」

「妹ぉぉぉぉぉぉ! 言い方ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 妹ボイスに心を抉られながら顔を上げる。

 すると妹が指さしているテレビに、ある商品の広告が流れていた。


『だんだんだん♪ だんだだん♪ だんだだん♪ だんだんだんだん♪ だんだだだん♪ ダンジョン探索ロボット発売中!! 今なら何と1000万円! 学生なら700万円!!』


 ダンジョン探索ロボット、通称『ダンロボ』だ。このダンロボは操縦者のステータスを反映し、スキルまで使える高性能人型ロボット。ダンジョン産の素材と最新の技術を使って作られていて、その最大の特徴は遠隔操作できる点にある!


「引きこもり娘にはうってつけだな」

「格ゲーばっかりしてるしね~」

「こいつ玩具みたい」

「家族!? 私達家族だよね!?」

「お姉ちゃんのいう家族ってお金を借りられる人のこと言うの?」

「ぐふッ!?」


 強烈なボディーブローを食らった気分だった。

 だが、ノックアウトするにまだ早い。


「一生のお願い! ダンロボがあると私も覚醒者として働けるし、それに……私にニートとか言ってきた連中を見返せる!」

「「祈……」」「お姉ちゃん……」

「「「バカなの?」」」

「えぇ!? どうして!? 割と切実なんだけど!? クラス委員長からのメールに心配してるのかなって思って開いたら『ニート働け』だったし、学校の掲示板でもネットの掲示板でもボロクソなんだよ!?」

「それは事実だろ?」「事実でしょ」「でしょ」

「いやまあそうなんだけど!」

「というか見なければ良くないか?」「そうね」

「え、いやぁ、気になるというか……」

「ネット解約する?」


 妹ォ! 何てこと言うんだ!!


「まあ、でも、本気だということは分かった」

「祈から何かをお願いされたのって、これが初めてだしね」

「……お姉ちゃんがヒキニートしてたからじゃない?」(ボソッ)

「姉の苦労を知らない妹など妹ではない! 部屋に帰れ!」

「私お姉ちゃんじゃないから」

「ぐふぅ!」


 さっき夕飯を食べたばかりなのに、吐きそうになる。

 それほどまでに強力な一撃だった。


「祈、楽にしなさい。一生と言ったからには分かっているのか?」


 顔を上げると、父親と目が合う。

 真剣な顔をしていて、心臓がきゅっと締めつけられた。

 お母さんを見ると妹を膝に乗せていて、同じようにこちらを真剣に見つめている。

 胃がきゅるきゅると音を立てて、胸が苦しい。


「祈はこれから覚醒者として生きていくことになる」

「うん」

「一度も役目を果たさずに時間が過ぎれば、自由になれる可能性だってある。だが一度でも役目を果たすということは、今後も求められるということだ。祈は一生、覚醒者としての道を歩まないといけない。それは分かっているのか?」

「うん!」


 私だって覚醒者の端くれだ。

 モンスターの脅威は実感している。あのモンスターが地上に溢れかえり、もしも家族にその牙を剥いたらと思うと、私は強くなりたいと思える。


「ダンロボか。父さんは昔ラジコン小僧として通っていた」

「うん……うん?」

「その血を引いている祈なら、上手くやれるだろう」

「え……うん」


 待って、温度差が凄い。

 風邪ひきそう。


「初めて父親に買ってもらったラジコンは、今も俺の部屋に飾ってある。

 祈──大切にしろよ」

「うんっ!!」


 そうして私は今日、両親から700万の借金をしてダンロボを買った。




美談……なのかな?


初めまして、エイゲツです。

面白いと思っていただけたら是非、高評価(☆)をお願いします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ