傷心の身に染みます
「そ……そんな奇特なひとがいるでしょうか……」
「……あなたは、自己肯定感が低いな。彼女と過ごしているからか?」
自己肯定感が低いも何も、真実です。
私が黙り込んでしまうとまた、リアム殿下が言いました。
「顔を上げなさい。俯かずに。そうやって、気が弱く見えるから良いようにされてしまうんだ。少なくとも、初めて会った時のあなたは、満開の花のように笑っていた。今とは、違うな?」
「あ、あれは……!!」
リアム殿下と初めて会った時のことです。
私はその時、リアム殿下が王子殿下なんて知らなかったから、とても偉そうな口を利いてしまいました。
口を噤んだ私を見て、リアム殿下は口元を弛めました。
「私は、あの時のように笑うあなたが見たい。俯いて言葉を飲み込むあなたより、楽しげに笑い、話すあなたが」
「……幼かったのです。今は、そんなはしたない真似はしません」
「そう。残念だな。私は昔のアメリアの方が好きなんだけど」
「リアム殿下の好みはお聞きしてません……!」
「それもそうだね」
そう言って、リアム殿下は実に楽しそうに笑いました。
掴みどころの無い性格は、相変わらずのようです。私は脱力して、先程の話を続けました。
「まずはお父様に話をしてみます。それで──その後のことは、その時考えようかと」
「アメリア」
「はい?」
顔を上げる。
リアム殿下は、楽しげに私を見ていました。
昔、よく目にしていた瞳です。
観察対象──栽培している植物などを、見る目。こうやって、彼はいつもわくわくした様子で植物を見ていたなぁ、と思い出しました。
年月が経過し、背が伸び、声が低くなり、とても大人っぽくなりましたけど。その瞳は変わっていません。
過去を懐かしんでいると、リアム殿下が言いました。
「それなら、私の研究を手伝う気は無いか?」
「……リアム殿下の、研究、ですか?」
「そうだ。気を紛らわせるのにちょうどいいだろう?もう少しで、ハーブログロウと呼ばれる、南方でしか花を咲かせない植物が発芽しそうなんだ。あなたにはその世話を頼みたい」
「世話……。私に?植物の?」
何度か、瞬きを繰り返します。
リアム殿下は、私の言葉に頷いて答えました。
「ああ。気が向いたら、で構わないよ。だけど、気乗りしない夜会に行って婚約相手を探すよりはずっと楽しめるんじゃないか?あなたは、昔から花やハーブといった植物が好きだっただろう」
「それは……確かに、そう、ですけど」
「答えは今すぐでなくて構わない。選択肢のひとつとして、考えてくれ」
「……はい。あの、リアム殿下」
私は、彼を呼んだ。
リアム殿下は、ん?とこちらを見る。
きっと、慰めてくれているのでしょう。
婚約者に裏切られたばかりの私を不憫に思って、気遣ってくれているのです。
私とリアム殿下は、昔からの付き合いですから。
リアム殿下は、私を妹のように思ってくれているのでしょう。
そんな彼の心遣いがじんわりと傷心の身には染み渡ります。
私は、笑みを浮かべて彼に言いました。
「ありがとうございます」
「大したことはしていない。……そろそろ、公爵邸だな」
彼に言われて、私は窓に視線を向けました。
いつの間にか、公爵邸の近くまで来ていたようです。
誤って順番をばらばらに載せてしまったため、修正しました。先に読んでしまった方はすみません…




