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【コミカライズ】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約  作者: ごろごろみかん。
一章◆アメリア・バーチェリー

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「男の趣味が悪い」



「とても驚きました……」


未だに心臓がバクバクと音を立てているのです。

まさか、こんなところでリアム殿下に会うとは思ってもいなかったから。

リアム殿下は私をちらりと見ると無言で馬車に乗ってしまいます。


あの後、返す言葉をなくしたアーロン様の代わりに、リアム殿下が公爵邸まで送ってくれることになったのです。


リアム殿下と会うのは、とても久しぶりです。

昔は、彼の研究室によく遊びに行っていたのですがお姉様が行くようになってからは、私は自重していました。

リアム殿下はお姉様がお好きですから、邪魔をしてはいけないと思ったのです。


馬車が走り出すと、それまで無言だったリアム殿下が尋ねてきました。


「婚約を解消したいと言っていたな。本気か?」


「本気も本気です。私、聞いてしまったんですよ、リアム殿下。アーロン様はお姉様を愛していますし、お姉様も……」


そこで、私は言葉を濁しました。

なんといっても、リアム殿下はお姉様が好きなのです。お姉様も同様にアーロン様を想っていると伝えるのは、酷に感じたのです。

言葉を濁した私を見て、リアム殿下がさらに言いました。


「……初恋は、だいたいが実らないという。相手が悪かったね」


相手が……。

それは、好きになった相手が悪かった、ということでしょう。私はアーロン様に裏切られたのです。


(可愛いって仰ってくれたのに……。一緒にいて落ち着く、って。一緒にいたい、って仰っていたのに……)


半年という、短くない期間。

私は、アーロン様と過ごしました。

だんだん、彼の物言いは冷たくなりましたが、最初はほんとうに優しかったのです。

その時の彼を思い出して、胸が痛みました。


『だいたい、僕がお前みたいなぼやっとした見た目の女を好きになるはずが……!』


つまり、彼は最初から私なんて好きではなかったのです。

それなのに、なぜ?

どうして私に言い寄ったのでしょう。


お姉様に近づくため?


考えれば考えるほど、どんよりとしてしまいます。


ぼやっとした見た目……。

窓ガラスに映る自分を見つめました。


確かに私の髪の色は白色で、あまり目立ちません。苛烈な色合いではないのです。

鮮やかとは言いにくい青色の瞳も色味が薄くて、ぼんやりとした印象をひとに与えてしまいます。


私は窓ガラスを見つめながら、リアム殿下にぽつりと言いました。


「私はそんなにも魅力がないでしょうか……」


これで、ああ、とか。肯定されたらショックで馬車を飛び降りたくなってしまうに違いありません。それなのに、こんなことを聞いて。


私はどうしたいのでしょう。


問いかけてから、ハッと我に返りました。


「わ!私は、そんなにお姉様に比べて魅力がないですか?だめな女ですか?背景に溶け込んでしまいそうなくらい印象の薄い女でしょうか……」


言いながら、ますます落ち込んでしまいます。

全て言われ慣れたことばですが、だからと言って傷つかないわけではないのです。


「それは、悪意ある人間の言葉だ」


ふと、リアム殿下の声が聞こえました。

顔を上げると、彼はまっすぐに私を見つめています。

彼の、夜の湖面のように深い色をした青の瞳は、見ているとなんだか落ち着きました。


「あなたは、じゅうぶん可愛らしいよ」


「…………ありがとうございます」


こんな質問をしたのです。

とうぜん、良識ある人間ならそう答えるに決まっています。それなのに、私は……。

何度目かの自己嫌悪のため息を吐きました。


「婚約を解消したら、あなたはどうする?」


リアム殿下に尋ねられ、私はノロノロと顔を上げました。

そして、問われた言葉を理解し──目を見開きます。


婚約を解消したら……。


少し考えて、私は答えました。


「婚約解消というのは、少なからず瑕疵に繋がります。早く、次の婚約相手を見つけなければなりませんね……」


社交界でふたたび、相手探しをしなければならないのです。


私は、先日十六歳を迎えました。

遅くてもあと三年以内に次の婚約をまとめなければ、結婚適齢期を逃してしまうのです。


そこまで考えた私は、しかしすぐにもやもやとしたものを感じました。


婚約、もうしたくないなぁ……。


またこうやって裏切られたら……。

お姉様の魅力にやられてしまったら……。


お姉様は美しいですから、好きになってしまうのは仕方ありません。

それでも、自分の婚約者、ゆくゆくは夫が、自分の姉を好きだというのは……なかなか、受け入れ難いものです。


いつの間にか考え込んでしまい、俯いているとリアム殿下の声が頭に降ってきました。


「次の婚約を考えるのは、気が進まない?」


ハッとして、顔を上げます。

そして、私はそろそろと肯定しました。


「……また、こんなことが起きたら、と思うと。前向きにはなれません……」


「あなたは男の趣味が悪い」


「う゛っ」


ズバ、と切って捨てるように言われ、思わず呻く。

リアム殿下は、涼しい顔をして言いました。


「相手を選べば、こんなことにはならない。なりようがない」


「そうでしょうか。でも、みんなお姉様を……」


「確かに、彼女は美しいな。だけどそれは、あなたと彼女、それぞれ違う魅力を持っているだけの話。早い話、あなたを好ましく思う人間は、彼女に惹かれない」



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