大雑把で事なかれ主義なのです
私は、アーロン様に会うことにしました。
まず、私たちの婚約をどうこうするより先に、彼の意向を確認すべきだと思ったのです。
呼び出されたアーロン様は、私を見ていつものように穏やかに微笑みました。
綺麗な、微笑みを浮かべて……。
「やぁ、アメリア。相変わらずパッとしないね。地味で背景に溶け込んで、景色と一体化してしまう。きみの特技じゃない?」
それは、あまりに滑らかに聞こえてきたので一瞬、他意がないように聞こえます。
だけど、違うのです。
アーロン様は、私とお姉様を比べて物足りないと思っているのです……。
それに、よく考えればとても酷いことを言われています。
今更それに気がついた私は、呆然としました。
公爵邸だと、お姉様に聞かれる可能性があると考えた私が、彼を呼び出した場所は王都の劇場でした。
婚約者同士、流行りのオペラを見に行くのは不思議なことではありません。
王都の大通り。噴水広場で待ち合わせをした私達は、顔を合わせたのです。
私は、手にパラソルを持って。
白のワンピースドレスに身を包み、周囲に溶け込むように気をつけました。今の私は、少し裕福な平民女性、という感じです。
水色のリボンで髪をまとめたため、今日の私は一段と色が薄いことでしょう。
彼と並ぶと、その対比がはっきりとして、また、少しだけ悲しくなりました。
「じゃあ行こうか。オペラを見るんだったね?」
彼は、あっさりとそう言い、私の手を取りました。
思えば、彼が私の服装にコメントをしなくなったのはいつからだったでしょう。
それに気がついて、胸がチクリと刺さります。
気付かなかったのではないのです。
気付きたくなかったのでしょう。
婚約者に、雑に扱われている、だなんて。
私は、俯いていた顔を上げました。
アーロン様は既に劇場の方を向いています。
私は、彼に取られた手を引っ張って彼の意識をこちらに向けます。
「アーロン様。今日は、お話があってきたのです」
行くのは、劇場ではない。
近くのお菓子屋さんを示すと、彼はあからさまに顔をゆがめてみせた。
「菓子屋?……僕が?」
「……お話が」
「アメリア。きみさぁ。洒落たレストランとか、小料理店とか、他にもあるでしょ。なんだって菓子屋なの?きみは、相変わらず自分勝手だ」
「…………ごめんなさい」
その通りだったので、項垂れました。
確かに、アーロン様は甘いものが苦手です。
だけど、ここからいちばん近くて、私が慣れたお店がそこしかありませんでした。
俯くと、アーロン様の視線を感じました。
顔を、あげにくくてそのままにしていれば彼のため息が降ってきます。
「前に、アンリエッタと行った店がある。そこにしよう」
「……はい」
アーロン様は、私の手を解くとそのままスタスタと歩いていってしまいました。慌てて、私はその後を追います。
護衛の騎士たちは、こんな私たちの姿を見てどう思うでしょうか。
婚約者の気分を損ねた娘──そう、思うでしょうか。
そんなことが気になってしまって、落ち着きません。
彼に着いていくと、三階建ての一戸建てが出てきました。赤い屋根がオシャレで、誰かのおうちのようです。ポストは出ていません。
アーロン様は慣れた様子でドアノッカーを打ち付けると、扉を開けました。
「あ……」
いきなり扉を開けたので、驚きました。
ここは、他人のお家……ではないのでしょうか。
首を傾げましたが、先程アーロン様はお店、と言っていました。
ここは、知る人ぞ知る、隠れ家のようなお店なのでしょう。
アーロン様はちらりと背後の私を確認してから、店内に踏み入れます。
中には、ジャズのような音楽が流れていました。
「やぁ、オリバー。今いいかい?」
「アーロンじゃないか。どうしたんだい?また密会?」
「違うよ。今日は婚約者と」
そんな会話が聞こえてきて、唖然とします。
アーロン様は、私がお姉様との関係に気がついたことをしらないはずです。
それなのに、隠す気もないようなその発言に、私は頭が真っ白になりました。
確かに、今までの私なら彼の言葉や仕草に「おや?」と思うことがあっても、気にはしていなかったでしょう。
私は元々、細かいことを気にする性格では無いからです。
大雑把で、事なかれ主義なのです。
だから……こんなことになってしまったのでしょう。




