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【コミカライズ】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約  作者: ごろごろみかん。
二章◆リアム・レース・アルカーナ

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あなたに出会ってからの物語 ⑥


俺の言葉に、公爵は目を見張った。

彼は、数秒沈黙した後、視線を下げる。


「……殿下のお言葉はとても有難いものです。ですが」


「アーロンのことがあってすぐには、考えられないと?」


公爵は頷いた。

彼の気持ちも、よくわかる。

特に今の公爵は、アンリエッタのことといい、アーロンのことといい、責任を感じているのだろう。


だけど、こちらももう待っていられない。

もう充分待った。待つのは、もう終わりだ。


動かないままで得られるものなどない。

このままでいれば、また、時間だけが過ぎるのだろう。……今までのように。



『お前は、自分が出る幕が上がったらどうするんだよ?』



兄の言葉を、思い出す。


幕が、上げられるのを待つのではない。

幕は、自ら上げるものだ。


幸い、舞台に上がるだけの資格は得た。

それなら、この二度とない機会(チャンス)を逃すわけにはいかない。


だから俺は、まつ毛を伏せ、形ばかり公爵に同意してみせる。


「公爵のお気持ちは分かります。確かに、アーロンの件があってのすぐだ。彼女自身、気持ちが追いつかないでしょう」


「……私は、アメリアには好きにさせたいのです。私は、もう間違いは犯したくない。……愛したひとに裏切られれば、アメリアはショックを受けることでしょう。少なくとも、傷を癒すだけの時間は与えてやりたい。婚約など、もうしなくてもいいくらいだと、私は思っています」


また大きく出たな。

そうすることで、アメリア自身がどう思うか、という考えは抜け落ちているようだった。

静かに、俺は言った。


「それは、後ろ向きが過ぎるのではありませんか。差し出がましいことですが、私は、ご令嬢がそこまで弱いとは思えない」


公爵は、俺の言葉に咳払いした。

先走りすぎたことは自覚しているのだろう。


「ひとまず、この件は保留とさせてください。私は、アメリアが望むなら他国に出してもいいと思っているのです。とにかく、彼女の希望通りにしたい」


(は……他国?)


ずいぶん話が飛んだ。他国に出る、とはどこから出た話なんだ……?


呆気に取られたが、ここで引き下がるわけにはいかない。

それと同時に、俺はひとつ納得もしていた。


(なるほど、公爵の『良かれと思ってやったことが全て裏目に出る』と言った理由がよくわかる)


彼の思いやりは、空回りしているのだ。


彼は、自分の感情(こと)しか頭にない。

真実、彼女の本心を慮っているわけではないのだろう。

公爵は、自分のことで精一杯な人間だ。酒に溺れたエピソードからも、それはよく分かる。


彼は、アメリアが大事なようだが、とにかくその【大事だ】という感情が先行しているのだろう。

俺は、努めて冷静な口調を心がけ、公爵に言った。


「……まず、ご令嬢と話をさせてください。その上で、彼女が。私の話を受けてくれたのなら。私の手を取ると、決めてくれたのなら。その時は、公爵。私と彼女の婚約を許可してください」


ふたたび許可を願うと、公爵は眉を寄せた。


「…………」


長い沈黙の末、彼は言った。


「アメリアが、その話を受けるなら、ですよ。話はそれからです」


ひとまず、ここまでは想定通りに話が進んだ。

後は、アメリア次第。そして、俺次第だ。


俺は彼の言葉に頷き──それから、口を開いた。


「……わかりました。ですが」


アメリアは、俺の知る彼女は。

きっと、守られるだけでいることを良しとしないはずだ。


「婚約をせず、公爵家に居続ける──というのは、おそらく、彼女自身が拒否すると思いますよ」


それに、公爵が驚いたように目を見開く。


彼女と出会ったのは、五年前。

この数年、アメリアとは話をしていない。

だが、その数年で性格が大きく変わるとは思えない。


公爵から見たアメリア像が俺の知るものと異なるのは気にかかるが──それより、考えるべきことがある。


(アーロンのことは、彼女に事実を知らせるべきだろうな……)


とはいえ。

どこまで、彼女に伝えるべきか。


ふと、先日のリックの言葉を思い出す。


『ご令嬢はあいつにゾッコン。無理に引き離そうとするのは悪手だぞ。ちゃんと幻滅させてやらないとだめだ。ひとに言われて冷静になるならまだいい。だけど恋愛って言うのは、他人から窘められるとより燃え上がるものだ』


アーロンの悪事は枚挙にいとまがないほどだ。

それらを全て彼女に伝えることも出来るが──必要範囲内にとどめるべきか……?


いたずらに傷つけるのは、本意ではない。

だけど、だからと言って隠すのもまた違うだろう。


これは、彼女に大きく関わる問題で、そして彼女自身、この件の当事者なのだから。


そう思いながら、俺は、その時になってようやく、用意された軽食のひとつ、トマトとバジルのブルスケッタへと手を伸ばした。


それからは公爵とはなんてことの無い世間話をし、会食を終えた。


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