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あなたに出会うまでの物語 ②

植物に興味を抱いたのは、母がきっかけだった。

思い悩む彼女を少しでも励ましたくて、庭園の花々を見て回っているうちに、侍女のひとりが教えてくれたのだ。


『そちらは、リラックス効果のあるハーブですので妃殿下もお喜びになると思いますよ』


きっかけは、そんな一言だった。

それから俺は、植物がそれぞれ持つ、美しさだけではない性質に目を向けるようになったのだ。


城に研究室を持ち、研究に没頭する、変人王子。


社交界ではそんなふうに呼ばれているのは知っていたが、それすらもどうでも良かった。

どうせそのうち、臣籍降下し王族の身ではなくなるのだ。

そう思うと幾分か気も晴れ、鬱々とした思いも薄れていく。




陛下から研究室を与えられ、半年ほど経過した頃。

俺は麦の品種改良の研究をしていた。極寒の地でも芽吹く性質を持つ麦だ。

成功すれば北方の地で大いに役立つことだろう。

もっとも芽吹くだけではなく、品質維持、あるいはその向上もまた、必要になってくるが、まずは発芽させなければなにも始まらない。


麦の研究を始めたのには理由があった。

研究室に篭もりきりの変人王子と噂されるのは構わない。ひとの噂など大して気にしていないからだ。

しかし、だからといって『趣味に没頭し、王子としての義務を疎かにしている』と悪口を叩かれるのは我慢ならなかった。


そういった理由から、俺はまず国が抱える懸念事項を洗い出し、そこから麦の品種改良に目をつけた。

ほかにも研究しているやつはいるはずだ。すぐに成功するとは限らないが、長い期間を費やす覚悟で私費を投じ、研究に没頭した。


それに自分自身、気付かなかったが植物の世話をするのは嫌いではなかった。


むしろ、向いていたのだろう。


几帳面な性格は、日々の観察記録をつけるのに最適だった。

自分自身、社交よりも研究室にこもってあれこれ試す方が向いていた。


朝から晩まで、飽きもせず植物の生態を調べては、次の実験に備え、準備する。

そのうち、父に付けられた側近も研究に参加するようになり、少しずつ、牛歩の歩みではあるが成果が出始めた。


そんなある日。

俺はいつものように研究室へと向かっていた。


そこで、彼女と出会ったのだ。


回廊を抜ければ、研究室はすぐそこ……といったところでふと、白い塊が見えた。

一瞬、城に野兎でも迷い込んだのかと思ったが、すぐに誤解だと知れた。


自分よりいくつか年下であろう少女が、壁にくっついている。

俺に気がついた様子はなく、辺りを慎重に窺っているようだ。


この辺りは王族専用区域であり、許可を得た人間しか立ち入ることが許されない。


おおかた、親の登城に連れてこられ、はぐれてしまったのだろう。

めんどうだ、と思った。

貴族の令嬢はめんどくさい。気位ばかりが高くて、話していると億劫になるのだ。

そもそも、あの少女たちの会話に意味などない。

実のない話を延々とされるのは苦痛であり、感情的なところは母を彷彿とさせ、俺は苦手としていた。


ここは、従僕を呼んで回収させるか。


そう、思った時。

厄介なことに、その少女がこちらを振り向いた。


真っ白な髪に、色味の薄い青色の瞳。

ぱちくりと目を開けている彼女は、俺に気がつくとにっこりと笑った。

満足そうに。


面食らった。

迷子ではないのか。


てっきりはぐれて涙ぐんでいるのでは、と思っていたので、この時点で俺の予想からは外れていた。



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