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誰かの真似をしても、意味などなくて




「もう少し、背は高い方がいいね」


そう、あなたが言うから。

背を伸ばす努力をしました。

でも、牛乳をいくら飲んでも、体操をしても、これ以上伸びることはありませんでした。

牛乳の飲みすぎで体調を崩すことも多く、無意味に終わりました。


「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」


そう、あなたが言うから。

お化粧を濃くしました。

でも、次に会った時あなたは、首を傾げて何か違う、といった様子だったから、ああ、これは失敗したのだな、と悟りました。


「もう少し、肉感的な方が好きだな」


そう、あなたが言うから。

だから私は、無理して食事を詰め込んで、体重を増やそうと頑張りました。

でも、もともとそんなに食べる方ではなかったので、苦しくて、吐き戻してしまうこともありました。


メイドが水を張った盥を持ってきて、手巾を濡らし、口元を拭ってくれた時。


ああ、私ってなんて惨めなんだろう?と、涙が滲みました。


私の毎日は、そうした日々でできていたのです。





私には、ひとつ上の美しいお姉様がいます。

名を、アンリエッタ。

黒い髪をハーフアップにまとめ、すっきりとした首筋が魅惑的で、美しいのです。

お姉様は、社交界の薔薇とも言われ、お誘いのお手紙がひっきりなしで、途絶えません。


かたや私は、ぼやけた白い髪に、同じようにぼやけた青の瞳。どこかぼやっとした色合いのためか、酷く印象に残りにくいのです。


派手で美しく、華やかなお姉様の隣に立つと、私はまるでカカシのようになってしまいます。背景に、紛れてしまうのです。


それでも私は、お姉様が好きでした。


「アメリア。あなたは可愛らしいわよ。野に咲く、花という感じで」


「お姉様は、温室に咲く薔薇のようです」


「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない」


私は、お姉様が大好きだったのです。


あの会話を、聞くまでは。



「アンリエッタ。僕が愛しているのはきみだ。それなのに、どうしてあんな地味女を妻にしなければならないんだ?」


その日、婚約者のアーロン様がいらっしゃっている、と聞いた私はサロンへ向かっていました。

そして、サロンの扉を開けて──聞いてしまったのです。


「私もよ、アーロン。あなたみたいなひとに妹はもったいないわ。あんな、汚らしい色……一体誰に似たのかしら。ねえアーロン。どうにかしてあの子と婚約破棄をして、私と一緒になって?」


「僕もそうしたいんだけど、きみのお父君が許してくれない。それとなく、話はしているんだけどね」


「お父様はアメリアに甘いものね。あの子、甘やかされて育ったのよ。分不相応にもあなたという美しい婚約者が手に入ったから、手離したくないのでしょ」


……知りませんでした。

アーロン様と、お姉様が相思相愛だったなんて。


知りませんでした。

お姉様が、私をそんなふうに思っているなんて。


そのまま立ち尽くす私の耳には、ふたりの会話がさらに聞こえてきます。


「きみはほんとうに美しいね。どうして、妹のアメリアにはその美しさが継がれなかったのかな。あの子はあまりに地味すぎて……話していても退屈だし、淑女として失格じゃない?姉のきみの前で言うことでは無いけど」


「まあ。そんなことを言っては可哀想。アメリアはあなたが好きなのに。聞いて?この前あの子、無理をして濃い化粧なんてしていたのよ。似合わないったら!私、笑いをこらえるので大変だったの」


「ああ、あれね。僕も見たよ。ちぐはぐで、醜いったらない。あまりに酷くて、絶句してしまったよ。姉として、注意してやればいいのに」


「私の真似をしようとしているのだろうけど……ぜんぜんダメ。そもそもあの子は顔立ちが薄くてパッとしないの。無理をしたところで不気味になるだけ!それなのに、気付いてないのがまたおかしいったら」


くすくす、くすくす。

お姉様の笑い声が聞こえて、私は頭が真っ白になりました──。


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― 新着の感想 ―
 クズが2個。  そのクズを、どのような人が、どうやって拾い、どんなゴミ箱へ、どんなふうに投げ入れる、のか…  めちゃくちゃ愉しみです♪
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