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剣と標的

最初の5分位はチヤホヤされた。

俺のスキルが【鑑定】だったからだ。

地球で流行しているラノベでは花形だし、俺達を召喚した異世界でも人気職業だったからだ。



「キャー! 香椎君すごーい♪」


「キャー! 天君抱いてー♪」


「キャー! 前から凄いと思ってたの♪」



クラスでの態度とあまりに異なっていたので、金輪際と女は信用しないと決意する。

まあね、【鑑定】と表示された瞬間に、異世界人達が俺だけを絶賛し始めたからね。

明らかに難物っぽい顔つきのレオンハルト王子がニコニコしながら俺の方を見ている。



  「王子、いきなり鑑定が出ましたな!」



  「うむ! 

  やはり余の召喚プロジェクトは正しかったのだ!」



勿論遥か上座に座っている王子は俺達に対してまだ名乗って無いが、彼の胸元には【レオンハルト・フォン・ジギスムント】と表示されている。

それどころか、クラスメイト達の胸元にも【】で名前が表示されていた。

なるほど。

きっとこれが鑑定スキルの一環なのだろう。



「ほう、鑑定ですか…たいしたものですね」



俺達の世話係っぽい眼鏡のオジサン【トマス・グーニー】が驚いてくれた事で、クラスメイトの目線が羨望に変わった。



「鑑定スキルは汎用性が極めて高く、鑑定持ちと言うだけで採用する官公庁もあるくらいです。」



オジサンが眼鏡を上げなら解説するところによると、鑑定はレアスキル。

このスキルを持っている者は各省庁・大手企業から引っ張りだこで就活無双するらしい。

独立し易い技能なので、どこの職場も鑑定士は最優遇するとのこと。

1年目の平社員でも部長クラスの年収は確実というから、花形スキルなのだろう。

オジサンが補足する所によると、縁談なども選び放題で鑑定士の妻は実家の太い美女というのが相場とのこと。

どうやら俺はガチャを当てたらしい。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




5分後。



  「うっわ! 香椎雑魚やんけ。」


  「うっわ! 天カス終わっとるな。」


  「うっわ! 前からキショいって思ってたわ。」



スキルランク測定で【F】を記録した俺は壮絶な手の平返しを喰らう羽目になる。



「当たり前だろうが!!」



それまで上座でふんぞり返っていたレオンハルト王子がズカズカと俺達の方へ近づいて来る。



「この世はスキルランクが全てである!

スキルランクこそが人間の価値なのだ!!

貴様ら! どう思う?」



王子が見渡すと騎士達が緊張した面持ちで同意を表明する。

追いついた上座の高官達が王子を取り囲み、微笑を浮かべながら王子の意見に賛同表明をした。

見た所30は確実に越えているであろうレオンハルトは幼稚な男らしく、周囲の追従に無邪気に喜び機嫌良く演説を始めた。



「聞け、異邦の者共よ。

スキルが神の恩寵である以上!

スキルランクは人間として価値そのものなのだ!

スキルランクが高い者こそが崇敬され、低い者は蔑まれるべきなのだ!」



高官や騎士達がニコニコした笑顔を張り付けたまま賛同の拍手を送った事で、レオンハルトのテンションが更に上がる。



「えっと、大臣。

余のスキルは…

何だったかな?」



「はッ!

王子殿下のスキルは【剣聖】で御座います。

これは我が国の長い歴史でも2人しか確認されていない超レアスキルです!」



「はっはっは。

あんまり若者の前でそういう話するなよー。

ふふふ、委縮させちゃうと悪いからね。

余はスキルの話を自粛する方針だからね。」



「申し訳御座いません、王子殿下!」



要はレオンハルトはスキル自慢がしたくてしたくて堪らない人なのだ。

周囲をチラチラ見ながらドヤ顔で鼻の穴を膨らませている。



「えっと、大臣。

彼らもね、慣れない異郷に戸惑ってると思うし。

話のついでにスキルの話、掘り下げてあげて。」



「はッ!

王子殿下!

畏まりました!」



大臣はブーツをカツンと揃えてから俺達に向き直りスキルの説明を開始する。



「えーっとね、今ざっくり聞き取らせて貰ったんですけど。

君達の世界にはスキルの概念はない?

ああ、いいのいいの。

怒ってない怒ってないですよ。

スキル概念の無い世界も我が国はちゃんと想定してますから。

むしろね、スキル概念の無い世界の人間の方がレアスキルを発現させる確率が高いとの学説があるから。

例えば彼、【鑑定】を引いたよね?

ちょっとランクが残念なことになっちゃったけど(笑)

最低のEランクでも就活に困らないレアスキルですから。」



「それにしたってFはないだろー、Fはー。

余も初めて聞いたぞー。」



レオンハルトが横目で俺を見ながら茶々を入れる。



「ははは。

今、王子殿下が仰ったように、スキルランクは最低がEで最高がAです。

Aを越える卓絶した恩寵を神から授かった方は、もう存在が神話そのものですね。」



レオンハルトが照れた様な表情でそわそわし始めたので、話のオチが見える。



「はい。

ここからが本題です。

我が国にはAランクを越える、生ける神話が存在します。」



「んー?

神話ー?

おいおいおい、誰だー? 誰のことだー?」



凄く嬉しそうな顔でレオンハルトが俺達の前をウロウロし始める。



「そのお方こそ!

【剣聖】レオンハルト王子殿下!

スキルランクは!

な、な、な何と!

驚天動地の【S】です!!」



「おお!

余の話だったのかー。

もー、この話題するなっていつも言ってるだろー(笑)」



レオンハルトが満面のドヤ顔でポーズを取る。




「申し訳御座いません。

殿下に触れずしてスキルを語るのは不可能でした。」



「はっはっは。

まあね、余もね、あんまり自慢は好きじゃないんだけどね。

皆の指針となるのも選ばれし者の使命だから。

いやあ、世の中には陶芸遊びに没頭しているお気楽な身分の方もおられるようだけど。

余ほどになるとね。

社会的責任からは逃れられんのよー(笑)」



騎士達が歓声を挙げた事により、王子は肩を揺すって笑い出す。

つまりこの男は有用なスキルが欲しい訳ではなく、自分のスキルを誇示したいだけなのだ。

その証拠に、レオンハルトは上機嫌で自分語りを続けるだけで、俺達のスキル判定結果には殆ど興味を示していない。

ああ地球にも居たわこういうオッサン。

どんな話題からも自分語りに繋げて、人の話を一切聞かない奴。



「王子殿下、彼ら異世界人はスキルを見た事が無いようです。

どうです?

話を円滑に進める為にも、何らかのスキルを彼らに見せてみては。」



「おお、そうであったそうであった。

口頭だけで説明されても困るよねえ。

じゃあ、誰かちょっとスキルを見せてあげて。


ん?

あ、そうか。

皆が帯剣しているのは儀仗剣かぁ。

うん、まあ良い。

丁度ね、余がたまたま真剣を持っていたから。

この際、余が実演してしまおうか。」



「王子殿下!!

王子殿下の神業が見られるとは!

我々は無二の幸運者で御座いますー!」



「おいおい、大袈裟だなぁ。

若者に模範を見せてやるのは、為政者以前に大人としての義務じゃなーい♪」



レオンハルトは芝居がかった表情で演説を締めくくると、不意に抜剣した。



「はい、皆さんちゅうもーく♪

今からね、余のSランク剣技を見せちゃいまーす。

いやあ、まさかこんな展開になるなんて予想もしてなかったよ。

はっはっはww」



異世界側の全員がニコニコと拍手を始める。



「じゃあね。

これも何かの縁だから。

余の究極奥義を披露しちゃおうかな。

はっはっは。


おい、そこのFランク少年。」



不意にレオンハルトが俺を見る。

目は笑ってない。



『あ、はい。』



「今から演武をするから、その鑑定水晶を頭上に掲げておきなさい。」



『あ、はい。』



「動くと危ないから、動くなよー。」



『善処します。』



「よーし、それじゃあ必殺!

【分身剣】!!!」



叫んだ瞬間にレオンハルトの身体が光り、無数に分裂する。

そして同時に喋り出す。



「はい!

今の余は100人に分身しております!

全てが本物!

スキルランクが高ければ、こんな事も出来ちゃうんですねー。」



人間が分裂する筈も無いので、一体だけ【レオンハルト】との表示が浮かんでる奴が本体なのだろう。

その本体はニヤニヤしながら俺の真横に回り込む。



「じゃあねえ。

この状態で、動きまーす!」



言いながら全てのレオンハルトがシャッフルするように辺りを駆ける。

俺の真横に居る本体だけが走ってない。



「奥義!

分身剣!」



分身たちが叫びながら剣を頭上に掲げる。

皆が釣られて切っ先を見た瞬間に、真横の本体が水晶を器用にさくっと斬った。

騎士達が歓呼の叫びを挙げながら盛大な拍手を贈る。



「はっはっは。

余にとってはね。

この程度は全然大したことないのだけど(笑)

驚く気持ち、わかるなあ。


ところで諸君。

Fラン少年にちゅうもーく。」



皆が俺を見る。



「君、水晶を確かめてみて。」



『あ、はい。』



「どう?」



『うわぁ、斬れてますねー(棒)』



水晶は真っ二つに斬られていた。

初対面の相手にこんな危ない役割させるか、普通。

斬られた水晶を見た騎士達が拍手を更に強めたので、その後の王子の言葉はかき消されてしまった。

一通りの茶番が終わり、場が静まる。



「この話のキモはねえ。

名剣でも宝刀でもなんでもない剣でこの技を繰り出しちゃう所なんだよ。」



椅子にふんぞり返ったレオンハルトが、ドヤ顔で語り始める。

こいつ、ホスピタリティ0だな。



「Fラン君、ちょっとキミ。

この剣の鑑定結果を皆に教えてあげて。」



無造作にレオンハルトが俺に剣を投げて来る。

お、重い。

こんなモン投げて渡すな。



『え? 鑑定?

あ、はい。』



俺が剣を見ると【ロングソード】と表示されている。



『あ、ロングソードって表示されてます。』



「いや、そんなのは見れば分かるから。

刀銘を読み上げなさい。」



『あ、すみません。

名前しか表示されてなくて。』



「え!?」



信じられないという表情でレオンハルトが俺を見る。

異世界勢が相当ざわついているので、《名前しか分からない》というは想定を下回り過ぎているらしい。



「でも、製造年代くらいは流石に分かるよね?」



フォローのつもりなのか、大臣が汗を拭いながら言う。

俺は再度剣を凝視するが【ロングソード】としか表示されていない。



「えーー!!!

製造年代もわからないのーー!?」



大臣が驚愕の表情で硬直してしまう。

あ、この展開、かなりヤバいな。



「むむむむ。

折角余が使い道を考えてやったのに!!!

やはりFランなど所詮はFランか!!!

この世はスキルランクが全て!!!

スキルランクの低い者は人間ではないわ!!!」



癇癪を起したレオンハルトを駆け寄って来た武官達が窘めている。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




こうして俺の追放は決まった。



『あの、王子殿下。』



「何だねFラン君。」



『勝手に呼び出されて処刑というのは、納得が行きません。』



「オイオイオイ。

処刑だなんて人聞きが悪いなぁ。

キミは魔獣の森に派遣されるだけ。

召喚者を処刑なんて、道義上許される訳がないじゃないか。」



『いやいやいや。

その魔獣の森って名前からしてヤバい所じゃないですか。

実質的な処刑ですよね?

え? これ魔獣に食い殺されるんですか、俺。』



「誤解も甚だしいな。

処刑じゃない、処刑じゃない。

最近はあんまり魔獣が居ない事で有名なんだよ。

運が良ければ、そこまで遭遇せずに済むと思うよ。

知らんけど。」



『あまり居ないんですか?』



「うん、最近伝説の邪龍が復活したらしくてね。

魔獣は全部そいつに食い殺されたみたいだから、安心しなさい。」



『いやいや、俺を食い殺す相手が魔獣から邪龍に変わっただけですよね?

それもう、実質的な処刑ですよね?』



「えー、そうかなー。

余は処刑という認識を持ってないんだけどなー。」



それが俺とレオンハルトが最後に交わした会話。

お互いうんざりしているので、もう僅かな愛想も浮かべない。



「別に追放とかじゃないからね?

こっちに悪意はないからね。」



係員のオジサンはそう言うのだが、入れと指示された巨大な魔方陣には【処刑用魔方陣】と大きく表示されている。

オマエら殺す気満々じゃねーか。

何とか抵抗しようとするのだが、魔法の様な不思議な力で両手を拘束されてしまい身動きすら取れない。



無理矢理、魔方陣の前に引き立てられると大柄な騎士に両脇を抱えられて放り入れられてしまった。

最後に目が合ったのは【レオンハルト・フォン・ジギスムント】。

殺す相手の名前が表示される能力って最高だと思わないか?

『プロフィール』



【名前】


香椎天 (かしい てん)



【スキル】


「鑑定」 (Fランク)


万物の真名を知る能力





『香椎ノート』



【レオンハルト・フォン・ジギスムント】


殺す相手。



【処刑用魔方陣】


光り方が既に禍々しい。



【トマス・グーニー】


世話役っぽい中年の役人



【ロングソード】


重かった。

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