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覚悟はいい?  作者: じいちゃんっ子


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3/5

浮気した男

 今日は水曜日。

 俺の勤める業界は仕事が休み。

 パートの仕事がある史佳の為に朝食を作る。


 時刻は午前6時。

 史佳はまだ眠っている。

 昨日は少しヤリ過ぎてしまった、ギリギリまで寝かせといてやろう。


 料理は学生時代にレストランの厨房でアルバイトをしていたので簡単な物なら作れるし、史佳はどんな料理でも喜んで食べてくれる。


「良い女だ」


 史佳とは軽い浮気。

 後腐れなく遊べるセックスパートナー。

 単身赴任の間だけ発散させて貰っている。


「人は見かけによらず、か」


 大人しそうな見た目と違い、史佳はセックスに貪欲だ。

 遊び慣れていた俺でさえ、玩具等に頼らないと満足させられないなんて、史佳の性豪には驚かされる。


 旦那に仕込まれたらしいが、そんな妻を放置して、一人で転勤するなんてバカな奴だ。


 史佳と知り合ったのは一年前。

 俺が勤める不動産屋に物件の相談をしに来たのが出会いだった。


 旦那が一年前から単身赴任で、戻って来たら、自宅の購入を考えているという。

 旦那に内緒で、どんな物件があるか聞きに来たのだ。


 史佳の外見は紗央莉と比べ、少し劣るが愛嬌のある笑顔が印象に残る。


『単身赴任で奥様はお一人ですか、寂しいですね』

 世間話からゆっくりプライベートを聞き出す。

 話して分かったが、史佳は煽てに弱い女。

 こういう女は堕ちやすい。


 ちょうど軽く遊べる女を探していた俺は彼女を口説いた。

 名刺を渡し、後は仕事を装い連絡を取り合った。


 会話術には自信があった。

 警戒心さえ解かせれば、こちらのペースに持って行くのは簡単だ。


 いくつかの物件を紹介し、少しずつ相手を懐に入って行った。


 思っていたよりガードは固かったが、3ヶ月も過ぎた頃には食事に行ったりするようになり、最後は酒で潰し奪ってやった。


 当初は旦那に罪悪感を抱いていたが、責任を取りますと言ったら史佳の態度は変わって行き、今は俺なしでは生きていけないとまで言っている。


 本当バカな女だ、そんな気なんか無いのに。

 まあ、こういうのも終わらせるのは簡単。

 ゴネたら旦那にバレて、全てを失うと脅せば良いだけだ。


 まだ史佳の左手薬指には旦那との指輪が填められている。

 俺がしている指輪と似ているからちょうどいい。


「おはよう満夫さん」


「おはよう、ご飯できてるよ」


 キッチンに入って来た史佳を笑顔で迎える。

 穏やかに幸せを演出するのは大切だ。


「行ってくるね」


「気をつけてね」


 食事の後、仕事に出る史佳を玄関で見送る。

 最後に軽いキスを交わした。


「…ん」


「続きは夜に」


 名残惜しそうに史佳が家を出る。

 さて、少しゴロゴロするか。


「仲が良いわね」


「おはようございます」


 隣に住む女から声を掛けられる。

 名前なんか知らないが、近所との交流は大事にしとかないと。


「新婚だもんね、私の旦那も見習って欲しいわ」


「ははは」


 軽く笑っておこう。

 俺を見習ったら面白い事になるぞ。


 昼過ぎになり、玄関のインターホンが鳴る。


「郵便です、受け取りを」


「はあ?」


 郵便局の配達だと?

 ここに俺や史佳の郵便が届くのはおかしい。

 史佳の自宅や、俺の単身マンションにしか来ない筈で、転送の手続きもしてないのに。


「前田満夫様ですね」


「は…はい」


「受け取りをお願いします」


 必死で動揺を抑える。

 震えを我慢し、サインをして封筒を受け取った。


「なぜだ?どうしてここに、俺宛の内容証明が届くんだ?」


 封筒に印刷されているのは弁護士事務所の名前。

 片付けてなかった食器を押し退け、置かれた封筒を前に動く事が出来ない。

 中身を見るのが恐ろしい。


「まさか…な」


 とにかく見るしかない。

 キッチンハサミで封筒を開ける。


「なんだと?」


 中身は史佳の旦那から俺と史佳の浮気についてだった。


「示談金200万だと?」


 示談にするなら、妻や会社に黙ってやると書いてある。

 拒否するなら全部報告をするとも。


「…ふざけやがって」


 激しい怒りがこみ上げる。

 だいたい史佳が浮気に走ったのは、コイツが悪い。


 俺は史佳を助けてやったのに、なんで金を強請られなくてはいけないんだ!!


「…畜生」


 かといって、金を払わなければ終わりだ。

 紗央莉にバレたら、間違いなく離婚だろう。

 慰謝料を毟り取られ、会社と家族からの信用も失ってしまう。


「200万か」


 そんな金ある訳が無い。

 この部屋を借りた時の敷金や家賃、生活用品の購入に使って、今あるのは100万程だ。


「クソ」


 夫婦の財産は各々が管理している。

 紗央莉に黙ってアイツの金を失敬するのは不可能だ。


「キャッシング…いやダメだ」


 どこから情報が洩れるか分かったもんじゃない。

 金融のプロである紗央莉にバレたら。


「紗央莉も悪い…」


 俺を放ったらかしにするから、浮気をしてしまったんだ!

 アイツが俺を立ててくれていたら、史佳なんかに走らなかったんだ!!


 俺より何倍も稼いでいる筈なのに、小遣いすら渡さない。


 いくら稼いでいるかすら、教えてくれない。


 紗央莉と住んでいたマンションのローンや、生活費は全部向こうが払っていたが、それを引いても俺の給料より沢山残っていた筈だ!


「どうする…」


 いくら怒っても事態は好転しないのは分かっている。


「連絡するか…」


 史佳の旦那に値引きの交渉するしかない。

 屈辱を胸に書かれていた連絡先の番号を押した。


 2日後、会社に有給を取った俺は弁護士事務所に居た。

 目の前にいる二人の男。

 一人には見覚えがある、史佳の携帯から見たことがある。

 コイツが史佳の旦那か。


 俺程じゃないが、なかなか良い男だ。

 たが、お前の嫁は浮気をするような尻軽で、容姿も紗央莉に劣る。

 まあセックスは史佳の勝ちだぜ、良かったな。


 旦那は睨むでなく、ただ無言で俺を見ている。

 ここは下手に出るしか無い。


「それでどうされますか?」


 弁護士が静かに聞く。

 なんとか交渉するしかない。


「示談には応じます、史佳…奥様とも直ぐに別れますから」


「それは支払いに応じるという事ですね?」


「はい」


 名残惜しいなんか言ってられない。

 俺の生活を守らないと。


「随分と簡単に別れるんですね」


「…申し訳ございません」


 やっと言った言葉がそれかよ!

 喜べ、返してやるんだから。


「つまり遊びだったんですね」


「……それは」


 なんて答えたら正解なんだ?

 分からねえ、畜生が!


「貴方の奥さんに申し訳ない気持ちは?」


「え?」


 突然なんだよ?


「答えて下さい」


「あります…目が覚めました」


 なんとかやり過ごすしかない。


「なるほど、つまり俺の妻はヤリ捨て、自分だけは助かりたいと」


「なんだと?」


「何か言いましたか?」


「…すみません」


 クソが、いたぶってるつもりか?

 弁護士も止めろよ!


「分かりました、では支払って下さい」


「それなんですが、減額を…」

「お断りします」


 即答かよ、だがこっちも退けねえんだ。


「しかし、少し高いのでは?」


「相場でしょ。

 配偶者を、奥さんに隠れて夫婦ゴッコしていた代償ならね。

 なんでしたら、お伝えしましょうか?」


「ぐ…」


 有無を言わせずかよ。


「なら分割で」

「示談書に書いてますよね、貴方のお金で一括です。

減額も分割も認めません、それが嫌なら話は終わり。

 後は覚悟をして下さい」


「分かりました!支払います!!」


 クソ!降参するしかねえ!!


 こうして俺は示談書にサインをした。


「川口さんは奥様と?」


「それはこれから、貴方が黙って身を引いてからです」


「分かりました」


 って事は再構築か、史佳は浮気がバレてないと思ってるから、コイツ一人で抱えるつもりだ。

 とんだ腰抜け野郎、俺なら考えられねえ。

 せいぜい可愛がってやりな。


「なにか」


「いえ」


 いかん、顔に出ちまったかな?

 ようやく解放され、史佳の待つ部屋に戻ったのは夜の9時だった。


「どうしたの?

 満夫さん、最近元気無いよ」


 帰宅した俺を気遣う史佳。

 これからが正念場だ。


「実は仕事でヘマをしちゃって、そのお詫びで走り回っていたんだ」


「え?」


 驚くよな、仕方ないさ。


「で、別の支店に行く事になりそうなんだ」


「…左遷」


「そうなるね」


 転勤願いは明日にでも出そう。

 出世から外れるが、紗央莉が居りゃ生活には困らないだろ。


「…もう終わりにするのね」


「仕方ない、お互いの為だ」


 そっと、優しく抱き締める。

 まだこれからがあるんだ。


部屋(ここ)も解約だ、引き払わないと」


「そうね…」


 よし、次だ。


「…部屋の後始末に少し金が足りない…キャッシングしないと」


 出来るだけ、独り言の様に呟いた。


「え?」


「ああ、聞こえてしまったか、大丈夫だよ、心配しないで」


「ううん、満夫さんだけに負担を掛けられないわ。

 もし奥さんにバレたら大変よ、いくらか出させて」


「史佳…」


 まあバレない為に貰うんだがな。


「大丈夫、お金の管理は私がしてるの。

 少しの間なら、旦那も分からないわ」


「そうか、助かるよ」


 よし!

 狙い通りだ、夫婦揃ってクソバカだ。


「いくら要るの?」


「200万だ」


「そんなに?」


「ああ、なにしろ急な解約だから、違約金がな」


 ふっかけ過ぎたかな?

 まあバカだから気付かないよな。


「何とかするわ」


「…ありがとう」


 これで助かった。

 感謝を口にしながら、奉仕を続けた。

次話

シタ破滅。

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