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覚悟はいい?  作者: じいちゃんっ子


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2/5

浮気された男

 

「この度はバ…主人が申し訳ございませんでした」


 そう言って、前田紗央莉さんは頭を下げた。

 この人の旦那が俺の妻と浮気をしているというのか。


 いや待て、まだ妻の浮気が確定した訳じゃない。

 あくまで今日は確認だ。

 電話で聞いた浮気の証拠とやらを。


「早速ですが、その…」


 挨拶もそこそこに済ませ、俺は前田さんと対面の椅子に座る。

 現在、室内は彼女と俺の二人っきり。

 後で弁護士も同席するらしい。


「はい、これです」


 彼女は鞄からファイルを取り出し、テーブルに並べた。


「…拝見致します」


 何が拝見だ、完全に頭が混乱している。

 三日前に突然の電話だった。

 最初はイタズラかと思ったが、証拠があるというので、今日こうして来たのだ。


 電話以来、食欲はなくなり、ろくに眠れなくなってしまった。

 疑心暗鬼な気持ちが心を支配しているせいだ。


「…あ」


「貴方の奥様ですね」


「はい…」


『間違いであってくれ』

 そんな願いは、1枚目の写真で呆気なく消え去る。

 男の腕を取り、微笑んでいる女は紛れもなく俺の妻、史佳だった。


「お辛いでしょう」


「…そうですね、お互いに」


「あ…はい、私も辛いです。

 こんな表情を見るのが…です」


 彼女は俺を一瞬見て、顔を伏せた。

 旦那が自分以外の女を見つめる写真なんか、辛いに決まっている。


 だが気丈にも、彼女は寂しげな微笑みを浮かべている。

 だが唇の端を噛み、泣きたいのを堪えている。

 俺より強い精神力、凄い人だ。


「…一緒に住み始めて5ヶ月か」


「はい、川口様は奥様の態度に変化を?」


「恥ずかしながら、全く…」


 全然妻の浮気に気付けなかった。

 1年の交際、そして結婚3年目。

 4年も史佳を見てきたのに…なんて俺は間抜けなんだ。


「私もです…一緒に赴任先へ行けばこんな事にならなかったかも」


「前田さん…」


 どう答えたら良いんだろう?

 確かにそうかもしれない。

 だが、彼女は外資系金融機関に勤めるキャリアウーマンだ。


 非正規雇用のパートである史佳ですら、俺と一緒に行くのを拒んだんだ。

 なにより、史佳が男の誘いに乗らなかったら、こうならなかったんだ。


 史佳は何の不満があったのか。

 俺を裏切り、別の男と夫婦ゴッコをするなんて。


「どうされますか?」


「無かった事に出来ませんよ」


「それは当然です」


 ピシャリと言われてしまった。

 なんてバカな事を言ってるんだ、前田さんの気持ちを考えたら、分かるだろうに。


「では、川口さんから行動を起こして下さい」


「私からですか?」


 それはどういう意味だ?


「貴方から、主人に奥様との浮気の内容証明を送るんです」


「しかしそれでは…」


 浮気に気づいたのは俺じゃない、彼女の方ではないか。


「証拠は全て貴方に渡します。

 主人と話をしてくれませんか?」


「私の妻はどうするのですか?」


「一旦置いときましょう。

 最初は主人からです」


「なぜ?」


「踏み絵ですよ」


「踏み絵?」


 ダメだ、彼女の考えが理解出来ない。

 制裁は二人同時じゃないのか?


「奥様を取るか、私の所に来るか、その布石です」


「そうですか…」


 彼女は旦那さんとの再構築を考えているんだ。

 だから旦那が、自分の元に戻って来たなら許して、後は内々での処理を考えているのか。

 なんて深い愛なんだろう。

 こんなに愛されてるのに、酷い奴だ。


「示談金は200万にします。

 少し高めですが、それくらいのお金なら、主人が管理している貯金で払えるでしょう」


 前田夫婦は財布の管理は別々なのか。

 俺は全部史佳に任せっきりだった。

 給料から生活に最低限の金だけ貰い、後は全部渡していたな…


「いや、待て」


「どうされました?」


 大変な事を忘れていた。

 俺が史佳に渡していた金はどうなっているんだ?


「使い込まれたりしてるんじゃ?」


「それは心配いりません、減っていたら、返して貰えばいいだけです」


「返せますか?

 それに通帳がどこにあるか…」


「それも大丈夫です、調べる方法くらい有りますから」


 事も無げに彼女は言うが、本当かな?


「そこまでされていたら、川口さんは奥様と…」


「さすがに、それはですね」


 浮気に使い込み、そりゃ離婚しかないだろう。

 その後、俺達は弁護士を交え、書類の作成を進めた。


「経過は直接お教え下さいますか?」


「もちろんです」


「約束ですよ、政志さん」


 差し出された手をしっかり握ると、勇気が湧いて来る気がした。

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