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CASTLE  作者: トロール
76/77

76 coronation

 石造りの兵士の闘技場に、温かい花達が飾られる。いつもは冷たく厳粛な印象が強い場所も、国民達の笑い声と心地よい風に舞う花弁で賑やかだ。中央に造られた天蓋付きの正殿にこれから王様が来る。立会人として隣国の王様と師団が訪れており国のお祭りムードは絶頂に達していた。そして、もう一つ、王様から発表があるという。国の年頃の娘たちは此方にも注目していた。きっと、お妃様探しだと!


 闘技場に銅鑼の音が響く。快活なラッパの音に合わせて騎馬兵から闘技場に入場してくる。続く歩兵の後に伝説の第一騎士団長と、金髪の青年、続いて護衛騎士を連れた我らが国王陛下。黄色い歓声が上がる、中にあれ、あの人って、と戸惑いの声も混じる。第一騎士団長の指示でピタリと音楽が止まる。団長が正殿の前に立ち声を張り上げる。


「天にも恵まれ、暖かい神と民の元、我が主の戴冠即位式を執り行える事、心よりの喜び」


 よく通る騎士団長の声に国民は拍手や歓声を上げる。


「本日、陛下に戴冠を執り行うお方をご紹介させていただく」


 団長がすいっと場所を明け渡すとフラットは緊張しながらも背筋を伸ばし堂々と中央へ立つ。ざわざわと歓声の中に戸惑いの声が聞こえる。

 批判はあるだろうと思っていた。兄の晴れの日に急に隠れていた弟が出てくるなんて、図々しいにも程がある。下を向きそうになるのをぐっと堪え顔を上げた。


「此方のお方は国王陛下の弟君、フラウアディト殿下である」


 ざわざわと、戸惑いの声が大きくなる。みんな動揺している。喜んでいいのか、どう反応したらいいのか。フラットは大きく息を吸い込んだ。声が震えてはいけない。髪も服も綺麗に整えてもらった。正直な気持ちを吐き出していいと兄には言われた。正直な気持ちはきっと国民、皆と同じ。兄と一緒に国を良くしていきたい。あとは自分次第、堂々と話せばいい。胸に片手を当てて兄に一礼をすると国民たちの方へと向き直る。皆を圧倒する存在感を、あの王様のように……あの……。


「正式な場での挨拶は初めてです。クラントロワ国、フラウアディト第二王子で在る」


 国民達は息を呑む。


「あの内乱からおよそ十年の時、私は貴方達に混ざり隠れるように過ごしてきた。身近な人達、国民達を騙すような生き方に心苦しさはありました」


 フラットは気持ちを吐き出す様に言葉を続ける。もうこのまま国民として、平民の一人として畑を耕して生きて行くのも素晴らしい事だと。でも、やはり兄の存在が常に根底にあった事。国民として兄を支える一人になるのか、もっと近くで、もっと責任を持てるところで兄を支えられる一人になるのか。


「私にその資格が在るのならと、城に戻りました。批判は在るかもしれないが、精進していく覚悟を決めました。これからは支えてくれた貴方達国民を支えられる立場で国に貢献していく。よろしく頼む」


 フラットは一歩下がると団長へと目配せをして、ぎょっとした。団長が涙をこらえていた。団長の「では戴冠式へ」と言う言葉がないと進まない。兄の方へ助けを求めて目を向けると、こちらはもうすでに泣いていた。動揺するフラットの耳に闘技場からもすすり泣く声が聞こえてくる。え、え、と動揺しているとぱらぱらと拍手が鳴り始めた。次第に大きくなる拍手に紛れてフラットー! と呼ぶ声。そちらへ目を向けてみれば顔まではっきりとは見えないが学校関係者達が集まっていたらしい。スタンディングオベーションで頭の上で手を叩く友人や教師達。ああ、凄く安心した、とフラットは息を吐き出して微笑んだ。

 とりあえずどうしたらいいのかときょろきょろとしていると隣国の王様と目が合う。にっこりと微笑まれて恥ずかしくなった。一礼をして騎士団長の肩を叩く。進めてくれと。


 やっと落ち着きを取り戻した会場内で皆様お待ちかねの戴冠式だ。クラウディオとフラットが正殿に上がるとまた拍手が鳴り響く。フラットは金で造られた小刀を鞘から抜き取るとクラウディオの長い三つ編みを持ち上げる。本来、十年前に行われるはずだった戴冠式の為に伸ばし続けた白に近い金の髪。クラントロワに続く戴冠の儀式は、髪を切り落とす事で王族から国の一部となり冠を授かる。人から神の領域になる事を表している。王様に小さいとはいえ刃物を向けるのだ、手が震えそうになる。小さな声でクラウディオが刺さないでくれよ、と零すから吹き出してしてしまった。無事に、髪を切り落とし、金の皿に乗せるとその隣に用意してあった繊細な銀細工と金で造られた豪華だけど洗練されたデザインの冠を恐る恐る頭に乗せる。曲がってないかな、とクラウディオの顔を見ると吹き出しそうな顔をしていた。危ない、早く進めようと騎士団長に合図を送るとラッパが音を鳴らし音楽が再開する。会場からは今日一番の拍手が鳴り響いた。


 

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