74 School2
学校の料理長は指示を飛ばしながらホールに並べられたテーブルを埋めていく。陛下に冷めた料理を出すわけにはいかないと時間を気にしつつ次々と料理を仕上げていく。この料理長は陛下から直々に指名を受けた学校設立当初から働いている古株だった。新人を育てつつ生徒達が限られた食材から栄養が取れるようにと過ごす毎日はとても充実していた。健康に育っていく子供達を見るのが彼の喜びだった。これも全て陛下のおかげ。今日はその気持ちを少しでも返したいと腕を振るう。調理場は戦場のように忙しいが今日はいつにも増して忙しい。
「料理長、料理長」
「なんだ! 今は手が離せないぞ! おいそこ、早く皿を並べてこい!」
「料理長、料理長」
静まり返る調理場にがんがんと音を立ててフライパンを振る料理長は気が付かない。
「おい! どうしたんだ、時間がない……ぞ……」
いつもはてきぱきと働く弟子達が皆揃ってぼけっと立ちん坊している様子に料理長は目くじらを立てたが、どうにも様子がおかしい、皆同じ方を見ている。何があるんだと目を向ければ、そこには調理場を覗き込む美貌。美しく弧を描いた唇が動く。
「料理長、料理長」
「へ! 陛下ー!!」
まさか陛下に呼ばれていたとは! 料理長は血相を変えてフライパンを振り上げそうになるが慌てて弟子が受け止める。此処はいいからと弟子に背中を押されて陛下の方へ足を縺れさせながら進む。
「へ、へ、へ」
「久方ぶりだな、ヨグテル」
(陛下が師匠の名前を!!)
「へ、陛下にご挨拶、申し上げます」
「いい、いい。忙しい時にすまなかった」
「陛下……」
片膝を付きそうになり調理場だったと思いとどまった料理長ヨグテルは膝をぶるぶると震わせながら陛下を見上げる。陛下を間近で最後に見たのは、ヨグテルが料理長に指名された時。まだ少年のあどけなさが残る綺麗な顔に冷たい瞳が痛々しかったのをまだ覚えている。それが、今では立派な青年となり、朗らかにほほ笑んでいる。料理長の瞳には感極まって涙が浮かぶ。
「今度ゆっくり話そう。食事、楽しみにしている」
「は、ははあ!」
「ふふ」
「…………」
ひらりと片手を振って去っていく陛下に調理場には沈黙が落ちる。
「お、おい」
「はい! 料理長!」
「いま、陛下が俺の、名前を、呼んだか……?」
「はい! 料理長!」
「今度話そうとも言ってました! 料理長!」
固まる料理長の瞳から一筋の涙が流れ落ちるのを見て弟子達は料理長に駆け寄り歓喜の声を上げた。
食事会は陛下も大満足だった様だ。特に気に入ったのはいつもの昼食と同じメニューの野菜が沢山混ぜられたクリームスープとほんのりと甘いパン。皆陛下が次に何を食べるのか、なんてお上品に食べるのかしら、と陛下に視線が行き過ぎていつもよりテーブルに零す量が多かった事と陛下がちょっと食べ辛そうにしていた事を除けば大成功で幕を閉じた。
昼食後、少しの休憩を挟んで食事会と同じホールで意見交換会が行われた。まずは年少組から陛下へプレゼント。陛下の前にお行儀良く並ぶ。彼らはあの戦争を知らない。純粋な目で陛下を見つめると一人の女の子は綺麗ね、と陛下に言った。教師陣はぎょっとした。いくら美人でも男性だ。それに気安すぎる。ホールに緊張が走ったが、きょとんと目を開いていた陛下はふふ、と笑ってありがとうと言った。一人の男の子が皆で造ったんだと言って花冠を差し出した。赤や青の小さな花がふんだんに使われたその冠はずっしりと重たそうだ。クラウディオは椅子から立ち上がるとその男の子の前に屈む。
「陛下」
「これくらい良いだろう」
横に控えていた護衛騎士が慌てて声を掛けるが軽くあしらうと、花冠を直接受け取り男の子の頭を撫でた。
「凄く綺麗だね、どうもありがとう」
「えへへ」
年少組達は照れくさそうに席に戻っていった。子供達が着席するのを確認するとクラウディオは口を開いた。
「君達から色んな事を教えてもらいたい。日頃思っている事や、質問などあれば遠慮なく聞いてくれ」
以外に砕けた話し方をする陛下に生徒も教師も緊張が緩んだ。しかし誰も口を開かないので学校長が恐る恐る手を挙げた。はいどうぞ、と手のひらを差し出されて学校長は口を開く。
「子供達は毎日勉強に励んでいます。健やかに育っていく子供達を見ることができて、我々教師陣は皆陛下に感謝しています。ずっと伝えたかったのです」
学校長の言葉を皮切りに教師陣が私も、僕もと感謝を述べていくと、続けて生徒達からも手が挙がるようになり活発で意義のある意見交換を行う事が出来た。
運動場が欲しい
そうだな、検討しよう
お裁縫の先生が欲しい
ふむ、新しく授業の枠を増やそうか
騎士になりたい
はは、そっちも考えておく
お城でダンスパーティーはする?
そうだな、出来るように努力しよう
ダンスできるの?
……練習しておこう




