73 School1
今日は王様が学校に視察に来る日。授業の様子を見て周り昼食を全員で大ホールで食べる。午後からは王様との意見交換会。入念に予定を確認する若い女性教師が居た。
「陛下の到着は授業が始まってからだから、えっと先にこの準備を……」
陛下の付添いという大役は学校長と新人の男性教師が任されている。陛下とお近付きになれる、いや近くで話ができるだけでもと教師陣は火花を散らしていたのだが、あまりの女性教師達の勢いに圧倒された学校長は陛下の身に危険が迫っていると思い、本気で学校視察を考え直していた程だった。しかし陛下のたっての希望だった事もあり、男性で経験もさせたいということで新人の教師一人を付添いとして選ぶ事にした。まだ教師として一年も経っていない彼には荷が重そうだったが、結局は彼も陛下に憧れており、女性陣に睨まれては居るが楽しみにしている様だった。
学校長と付添いの教師はいつ陛下が到着しても対応できるように校門が見える所で待機している。
授業の準備を進めていた女性教師はそんな二人を遠くから眺めた。
「いいなー、私も陛下をお迎えしたかった……」
はあ、と溜息を吐いた。そして頭を振り授業に集中しようと決意を固めた。もしかしたら、私の一生懸命に授業をする姿が陛下の目にとまるかもしれない! よし、と気合を入れて教室に向かう。渡り廊下を進むと授業塔がある。間もなく授業が始まる時間だというのに二人の生徒が廊下の向こうに見えた。あれは……フラット君かな。
「おーい! 授業がはじまりますよー」
こちらの呼び声に気がついたのか彼ははーいと返事をして片手を挙げた。もう一人は、生徒じゃないのかしら。マントを被っているから顔は見えないけれど、なんだか立派な服を着ていそうだからもしかしたら陛下の護衛の方かもしれない。フラット君は挨拶もそこそこに校舎に向かって来たので、相手方に軽く会釈をすると先に教室に向かう事にした。
「じゃあ、兄さん」
「ああ、授業頑張って。こっそり覗きに行くから居眠りしないように」
「しないよ!」
遅れて教室に入ってきたフラット君が着席するのを確認して授業を開始する。もちろん、生徒は全員浮き足立っているようで落ち着きがない。しょうが無いか、と黒板に向かう。
「それでは授業を始めます」
ある女子生徒は突然聞こえた黄色い歓声に肩を震わせた。きっと陛下がこっそり授業を覗いていることに気が付いた人が嬉しさのあまり叫んでしまったのだろう。まだ離れている教室だろうが、この教室の人達もざわざわと騒がしくなる。もうすぐくるのかな、楽しみ、気が付けるかな、凄く美人らしいよ。教師がざわつく生徒達を宥めている。はあ、と溜息をついた。この国の王様が凄くて尊敬できてみんなの憧れだということは噂で知っている。しかし彼女はそんな事にはあまり興味が無かった。しっかりとお勉強をして仕事を手に入れてまず自立する事が彼女の目標だった。今は城に属する長屋に住んでいるが卒業したら出て、必要としている人に部屋を譲りたい。もちろん、この長屋も陛下のお陰で住めているのだから彼女も陛下に感謝はしているし尊敬もしている。だからこそ早く働いて皆の力になれる人になりたいと勉学に励んでいるところだった。
落ち着きを取り戻した教室は、それでもひそひそと話し声がしていたが授業は続けられた。板書をノートに写し気になったところを丸で囲む。後で詳しく先生に教えてもらおう。よし。ふ、と顔を上げると後ろに人の気配がした。
(え?)
ちらっと半分後ろを見てみると、目が合ってしまった。教室の入り口に半分しか身体は見えていないが顔を傾けて教室を覗き込む美貌。女性の様な美人と聞いていたが、それは違う。男性らしい美人だ。女子生徒は叫びだしそうになる口元を手で覆った。美人が口元に人さし指を立てて、焦っている。叫ぶなと言うことですね、わかりました、女子生徒は周りに気付かれないようにこくこくと頷き立ち上がりそうになる足を震わせて我慢した。何度も深呼吸をしてなんとか落ち着いた様子を確認した陛下はほっと安心したのか、にこりと微笑んだ。
「………………」
「ねえ、大丈夫? 授業終わったよ?」
声を掛けられてはっとした。気が付いたら授業は終わりばっと後ろを振り向くともちろん陛下は居なくなっていた。女子生徒はよろよろと立ち上がり陛下が立っていた入り口により掛かる。
「どうしたの?」
「……私もう……」
「え! ちょっと!」
ふらふらと崩れ落ちる女子生徒の顔は赤く染まっていた。
「先生ー! 倒れたー! 勉強し過ぎかもー!」
「えー? 大丈夫ー?」
わらわらと教室の皆が心配そうに集まってくれたが、彼女は初めて勉強以外に夢中になれることを見つけてしまった。




