68 rebirth
揺れる長い三つ編みを先頭にぞろぞろと長い廊下を歩く。いつもは暗い廊下が蝋燭の灯りに照らされて冷たい壁も暖かく感じる。
並ぶ窓の向こうに美しく輝く青白い月が見えた。山の頂上まであと少し。お喋りに夢中になっている間にあんなに昇っていたとは。
フラットが月を眺めていると、ふわりと光が飛んでいくのが見えた。一つ、また一つと流れ星の様なそれは徐々に数を増やしていく。
「王が外に居るみたいだな」
外を眺めているフラットに気づいたアジエーリダが声を掛けた。
「外って、城の外? あんな所に……」
フラットは城から一歩出た時のことを思い出して足に力が入った。アジエーリダは一瞬竦んだフラットの足下を横目に見る。
「王だからあのくらいは何でもないよ。たぶん、外にいる影を返してるんだと思う」
「あの光……そうなんだ……」
王様は自分がやりたい事をやっているだけの様に言っていたけど、本当に優しい人、神だっけ、なんだなとフラットは溢した。
「城の外にいる影達は、この世に吸い寄せられてきた奴らだ。王が相手をしてやる必要はないんだけど……!」
「わ!」
一際大きな光が飛ぶように消えていった。
「……相手をしてやる必要はないから、実力行使で追い出すこともある」
「あ、今の、そうなんだ……」
飛ぶように消えていった光は飛ばされた影だったようだ。
「飛ばされて、何処にいくのかな……」
「さあな」
ぼそりと呟いた言葉はアジエーリダに届いていたようで素っ気ない返事が返ってきた。此方のエリダはぐんと大人っぽい。どっちが本当の彼なんだろうか。
「飛ばされた勢いで黒い部分が落ちて、あっちで王に見つけてもらえるかもな」
「! ははっ、飛ばしておいて連れ戻すのか」
何方も本当の彼だろう。やっぱり王様の子供なのか彼も優しい。見つけてもらえたらいいな、と呟いた。
「お、来ましたね。アジエーリダ」
正面扉の前の空間で先に待っていた参謀とバルバタが顔を覗かせた。ぱちりと参謀とフラットの目が合う。
「皆とお話はできましたか?」
「……正直、まだまだ話したいし……一緒にいたい」
ざわ! とフラットの言葉に全員の視線が集中した。え? と、フラットはたじろいだが、だけど、と続ける。
「だけど……一緒にいたら、また話したい事が増えていくから、ずっと帰れなくなってしまう。俺は……」
フラットの言葉を全員が聞き逃すまいと唾を飲んで見つめる。
「俺は、本当の居場所に帰ります。帰って、あっちの大事な人達とちゃんと生きます」
「よし!」
「よく言った!」
全員が安堵の息を吐き出した。なんだろうとフラットは皆の顔を見回す。それでは、と参謀が扉に手を掛ける。ぎ、と音を立てて開いた扉の向こうには濃い藍色の空と一際輝く月、それから下から流れる沢山の流れ星があった。美しい流れ星が王の美しい黒い髪をきらきらと輝かせている。此方に気がついた王が腕を一振りするとまた流れ星が飛ばされていった。
「来たか」
振り返る王の二つの金色の瞳がフラットを見据える。
「……はい」
こくりと頷くフラットにうむ、と頷き返すと後ろにいるサリに声を掛ける。
「説明は」
「これから」
「え……」
もう説明を終えて後は無事に連れて帰るだけと思っていた王は目を見開いてびっくりした。
「王からお願いします」
「え……」
何ということだ。上手く説明できる気がしないから愛しい娘に任せたのに。しかし教えてやらねばならぬ。王は深呼吸をすると扉の方へと近づく。一歩、正面の大きな階段に足を乗せると階段の上にいるフラットに目をやる。フラットは何を言われるのかと緊張している様子だ。
「今から……」
「はい……」
「この世の記憶を消す」
「は……え? どうして、え?」
狼狽えるフラットに王は一つ頷くとサリに目配せをする。
「この世の記憶が、フラットを此方に引っ張ってしまうかもしれぬ」
「それは……」
フラットの瞳に涙の膜が張る。
「あちらの世で精一杯生きよ」
「……皆の事を、忘れてしまうって事……?」
二人の遣り取りを聞いていたレギュラー達もしんみりと寂しそうにしている。ロルカの目からは水が止め処なく流れ落ちている。
「お前が忘れても我らは覚えている」
「でも……」
「元の世で生きよ」
王はフラットの目を塞ぐように手を掲げると抱き込むようにフラットの後ろに回る。そしてサリを呼ぶとサリはフラットの正面に立ち、両手でフラットのこめかみ辺りを抑えた。




