67 hand
王の後ろについて影達が光に吸い込まれていくのを見ているといつの間にかシシモが手を繋いで横を歩いていた。あまりに自然に繋がれていたから、いつからいたのか分からない。丸い頭を見下ろしていると視線に気付いたのか大きな瞳がこちらを見あげた。ぱちりと目が合うとぱっと逸らされる。代わりに繋いだ手にぎゅっと力が入る。シシモも寂しいと思ってくれるんだろうか。
「……手、つないでてもいい?」
「シシモ……」
もちろんと頷くと、シシモははにかむように笑った。このまま間違えて連れて行ってしまわないように気をつけねば。でも今だけ、とフラットも繋ぐ手にぎゅっと力を入れた。
「……ふむ」
その様子をこっそりと横目で見ていた王は自分を手を繋いだほうがいいのかと考えたが、フラットとシシモとどちらと繋げば良いのか迷ったので手を出すことは諦めた。そういえば、アジエーリダともサリとも手を繋いだことは無かったかもしれないと思い、今度チャレンジしてみようと心に決めた。暫く手を繋いだ二人を引き連れて影達の相手をしていたが、気付いたらシシモはフラットに抱っこをされていた。きっとシシモがねだったのだろうが見逃してしまった。そういえば、アジエーリダとサリを抱っこした事はあったなと王は思い出した。
それはそうと……。
「シシモ」
「……ぬ?」
王に声をかけられたシシモは、何か? というように王に向かって首を傾げた。
「……わかっているなら構わぬ」
「……ぬん」
「?」
フラットは二人の遣り取りに首を傾げている。王は、シシモがフラットと兄弟のように仲良くしていることは知っていたのだが、ここまで懐いているとは考えていなかった。別れる時に駄々を捏ねないかと少し心配になったのだが、この強かな表情を見るに問題なさそうだと判断した。別れの時まで存分に甘えさせてやる事にした。
「そういえば、ロルカは……」
シシモと王が視線で会話をしているとフラットが口を開いた。その後ろに銀色の髪が見えた。
「はい! こちらに!」
「わ!」
フラットがロルカにも挨拶をしたいと口を開くと突然ロルカが現れた。後ろには我が娘も居た。和解できた様で何より。一つ頷くと愛娘も同じ様に頷き返した。
あちらと此方の月が重なる前に城の正面ホールに集合する事を約束して王と別れたフラット達は壁際に並んでいる椅子にそれぞれ座った。サリ、ロルカ、フラットとフラットの膝にシシモとクローロ。
「お前はこっちにおいで」
少し大きくなった様に見える小さな毛玉は飼い主に引き取られていった。するとロルカがフラットの手を突然握り早口に話し出した。
「フラット、さっきは取り乱した所を見せて私ったら本当に恥ずかしい限りです」
「え、え?」
不自然に近づいてきたロルカは不自然に離れていった。ぽかんと口を開いてしまったが、気にしてないと首を振った。やりきった表情をするロルカの後ろにサリの無表情が見えて背中がひやりとした。思わずシシモ抱き締める。
「ロルカが居てくれたから、此処に馴染めたと思う。ありがとう」
「! いいえ、私の方こそ、貴方のお陰で色んな気持ちを思い出しましたわ」
ロルカは、一つ息を吐くとフラットとの出会いを思い出した。何故私はこの少年を悪い人かもしれないと思ったのか、ああかも、こうかもと想像を膨らませていたけれど至って普通の少年だった。自分の失敗を思い出し恥ずかしくなる。
「色んな気持ちや感情を久しぶりに思い出しました。それでも、私でいられて安心もしているのです」
ロルカはサリの顔を見る。フラットが来る前は黒い瞳が前髪の影に隠れて下を向いていたのに、今の主は鈍色の瞳を前に向けている。その瞳を見るたびにロルカは嬉しい気持ちになった。
「こんなに元気なサリ様を見れたのもフラットが居てくれたからだと思うんです」
「や、そんな事は」
「私もフラットがいなければこんなに体が軽いものだと知らないままだった」
それぞれに話したい事言いたいことが沢山あった。ちらちらと揺れる蝋燭を囲み、お互いにお礼を言い合いあの時は醜態を晒したと恥ずかしがり短い期間だったがとても濃い日々を過ごしたのだとお喋りを続けた。
月はどんどんと上に登っていく。
おーい、と片手を上げながらアジエーリダがやって来た。
「そろそろ時間だ」




