66 KING
なんだか少し嬉しそうな王に、そういえばとフラットは尋ねた。
「俺は、今無事にもとの世に帰る事が第一だけど、帰ってもまた、その、皆に会えるでしょうか……」
「……? ……いまなんと?」
王は突然耳が遠くなったかのようにわざとらしく耳に手を添えて聞き返した。えっと……と聞いてはいけなかったのかと言葉に詰まったが、これでお別れなのはやはり寂しい。
「……ここがどんな所かも、皆があっちの人たちと違うのはわかってるんですけど……でも」
「……(ふむ)」
「ここの皆から、沢山の知らない事を教えてもらったんだ。だから、また、会いに来ることは……」
「……ならぬ」
「! ……やっぱり、だめか……」
フラットはわかってはいたけど落胆が隠せなくて小さく笑った。長いため息をつくと王に向き直った。
「王様」
「うむ」
「さっきも言ったけど、助けてくれてありがとうございました。ここに来れて、良かったと思います。ここの皆に会えて、本当に狭い所にいたんだって分かった気がするんだ。凄く、視野が狭くなっていて、自分の事も……自分で決めつけていたのかもしれないって思えた。帰ったら、兄さんとちゃんと話してみます」
「……フラット……うむ」
王は感動した。あんなに小さかった主人公がこんなに自分の気持ちに向き合ってはっきりと発言できるようになったとは。
「……ふぁんというやつかもしれぬ」
「? 王様?」
「いや、なんでもない」
あ、でも、とフラットは口を開いた。
「王様は、またたまに見に来てくれるんですか? その、もしできたら、その時は声を掛けてほしいです」
「……うむ、考えておこう」
「はい!」
ふぁんだと思う。
王は立ち上がると近くに居た影に近づいた。一言二言交わすと影の上に光が現れ影が光に向かって浮き上がっていく。
「そろそろ働こうと思う」
「……はい。少しだけついて行ってもいいですか?」
「構わぬ」
王は近くに居る影達から返るのを手伝っていった。言葉を交わしたり掌をかざしたり。返る前に王に挨拶をしたかったらしい影達もいてフラットは驚いた。フラットが見てきた影達は、ぶつぶつひそひそと自身の世界に居るように見えていたのだが、王やサリの事を認識していたようだった。そして王はあの悪者の三人組のもとへと足を向けた。王の背中に隠れるようについて行ったフラットは、一体彼らは返ることができるのかとはらはらした。
「! ……」
「……ほう」
「……ふ」
「……ふむ」
一人が王に気付くと他の二人も王に目を向けた。悪者が一人増えたようだとフラットがごくりと唾を飲むと、ぱっと彼らの上に光が現れた。
「え!」
思わず声が漏れた。三人揃って光の中へと吸い込まれていった。
爪先まで見えなくなると光が消える。
「……今、何か話したんですか?」
「いや、何も」
一体彼らを此処に引き止めていたのは何だったのか……。
もしも、自分が死んだら、王様が迎えに来てくれないだろうか。そうしたらまた、皆に会えるんだろうか。だけど、その時にはもう、皆返って居なくなっているかもしれない。歳をとった自分に気がついてくれないかもしれないし、影となった自分は皆に気が付けないかもしれない。それに、此処にいる影達は何かしらの未練を残して、居場所が分からなくなった魂だ。そうならないように、精一杯自分の世界を行きなくてはいけないのに、この世がとても居心地が良くて、また帰ってきたいと思ってしまう。影と話す王の横顔を見る。恐怖だった金色の瞳が、今では見えると安心してしまう。こんなに短い期間に正反対の物になるとは思わなかった。
「? どうした」
「いえ、なんでもないです」
もう少しでお別れだ。




