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CASTLE  作者: トロール
64/77

64 KING

 バルバタが去った後もフラットは一人で蝋燭を見つめていた。時折ふわりと光が現れ影達を連れて行くのを眺める。今、人が生まれ変わりに行く瞬間を見ているのだろうか。信じられない体験をしているけれど、話をする相手が沢山居てくれたからか、不思議と恐怖心は初めから少なかったと思う。


「……」

「……」


 もしかしたら、少し前から隣に居る王様が割と早い段階でぽんこつかもしれないと思ったからかもしれない。


「あの……」

「うむ」

「話してもいいですか……?」


 何か話しかけてくれるのかと待っていたのだが、フラットは痺れを切らして話しかけた。王様は立派な角を人撫でしてうむ、と頷く。


「なんか、色々話したかったんだけど、色々が多すぎて……何から話そう」

「ふむ」


 美しい手で美しい顎に手を添える王様。髪も服も真黒で立派な角が黒く光る。白い顔や手が陶器のようで芸術品の魔王のようだ。しかし神様。なんだか尊い存在過ぎて、隣にいると変に落ち着くようになってしまった。


「俺を、ここに連れてきたのは間違いだったんですか?」

「!」


 王は責められているのかと思い冷や汗を拭うフリをした。フラットも失言に気が付き慌てて手を横に降る。


「あ、責めてるんじゃなくて、本当にただ、間違いだったのかなって……もしかして、俺は……」


 死にかけて居たのだろうか、と。このなんでもできる王様が間違いを犯すだろうか、でもぽんこつだから、でも神様だし、と実は気になっていたのだ。


「……ふむぅ」


 王は少し言いづらそうに口元を歪めた。もし、そうなのだとしたら、助けてくれた事になるんじゃないか、でも何のために。


「……少年の祖国が争いを起こした時……」

「!」


 王は口を開いた。


「我は割と近くに居た」

「わりと……」

「迷える魂を探しふらついていたのだ」


 王は城に連れていける魂をよく探しに行っていた。戦争が起きている国を見に行くことも多々あった。誤解しないでもらいたい、命が途切れてすぐに連れて行くことはしない。迷っている者を連れて行くのだ。グラントロワもその一つに過ぎない。しかし。


「小さきフラットとクラントロワの現王を見た」

「え……?」

「石の壁の下の方から小さな扉をくぐって出てきたほこりだらけの小さな二人は走って、走って、走り続けて林に入っていく、のを上から見物していた」

「あの時の事だ……」

「何故走っているのか、逃げているのか、何処へ行くのか興味本位でついて行った。随分と走ると思った頃林の奥に小さな小屋が出てきた」


 フラットは小さい頃を思い出す。王が言っているのは自分と兄だ。


「兄は弟を抱き締める。弟は兄の服を握り締める。きっと今生の別れだろうと、兄弟の愛とは素晴らしいと眺めていた」

「……恥ずかしい」


 そんな風に言われると恥ずかしい以外の何物でもない。フラットは顔を赤らめた。


「きっと、弟は泣きじゃくり、行くなと兄に縋るのだろう。兄はそれを振り切って涙を流すのだろうと予想をたてて見ていたのだが、弟は泣かなかった」

「……」

「泣きそうではあったが何も言わなかったであろう」

「うん……」

「兄も弟の頭を撫でて離れ難そうにしていたが、振り返り走ってもと来た道を戻って行った」


 賢いのか聞き分けがいいのか、王の予想とは違い静かな別れだった。


「その後も何度か兄弟がどうなっているのか見に行っていた」

「え!」


 兄は月に一度、数カ月に一度、周りの目を掻い潜って城を抜け出すと弟に会いに行っていた。弟はいつも突然来る兄を小さな小屋に快く迎え入れ、兄が帰ると泣きそうな顔をする。最初に見た時と同じ顔だった。


「我からすると人間達の世は物語のようだった」

「物語?」

「ふむ……気を悪くしないでほしい。しかし、終わりのない生なのか死なのかわからぬ我の存在とは違い、人間は寿命があり終わりを迎える物語の様に見えるのだ」

「……そうなんだ……」


 続きがどうなったのか見に行く様な気持ちで王は度々フラット達兄弟を見に行っていた。


「確かに……」

「……?」

「フラット、お前は死にかけていた」

「え!」


 王は人間の世に干渉しない。隣の国の神に怒られるから。きっと参謀にも怒られるだろうからただ間違えたと伝えていた。そして王自身もちょっとだめだったかもしれないと思っていた。しかし、干渉してはいけないという決まりもない。そんな物は知らない。小さな頃から見守ってきた物語の登場人物の命に危険が迫っていた。つい、連れてきてしまったのだ。


「俺は……何か病気?」

「いや……ふむ。そうかもしれない」

「ど、どっち?」


 無事に戻れたとして病気で死んでしまうのではないだろうか。焦るフラットの頭に王は掌をのせると落ち着くように目元まで滑らせた。ひやりとした王の掌がフラットの視界を覆う。


「心が病ではないか?」

「心が……?」

「ふむ、弱っているというのであろうか?」

「どういうことですか?」

「居なくても良い、居ない方が良いと考えてはいないか」

「あ……それは……」


 図星だった。




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