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CASTLE  作者: トロール
62/77

62 FLAT

 パーティーが始まった。元の世でも城でのパーティーに参加なんてしたことは無いのだが、なんとも静かで騒々しいパーティーだとフラットは思った。


(音楽がないからかな)


 楽団など勿論いない。しかし、いつもひそひそと気配を見せるようで見せない影達が割と大きな声で話している。フラットにもしっかりと聞き取れるほどだった。グループを作るものや気に入った蝋燭に向かって一人で話している者、音楽もないのにくるくると踊る影もいる。フラットは婦人グループらしき所に近付いて聞き耳を立ててみた。


(そうそう。ただの主従関係だと思ってたら、やっぱり女の片腕なんて信じちゃいけなかったわ! 子供まで作って、それなのに私が悪者なんて!)

(まあ酷い! 馬の尻尾が当たったからって不敬だなんて、そんな所に立ってるのが悪いのよ!)

(でも、そうだったとしてもやっぱり私に悪い所があったのかも……ぐすん)


「……」


 話が全く噛み合っていない。一緒に話しているけれど別の言葉が聞こえているんだろうか。

 もう少し話を聞いてみようとフラットは当たりを見渡した。同じような正装に身を包んだ三人の紳士の集まりを見つけた。そろっと近づいてみる。


(……ほう……)

(……)

(……ふっ)


 三人とも悪者なんだろうか、にやりと上がった口元に内容が何も無い会合。それぞれ全く違う事を考えているのだろう。きっとまだ返れなそうだ。フラットはぶるっと背筋が震えたのでその場を離れた。


 先程から王を探しているのだが姿が見当たらない。主催者だから玉座に座っているものと思っていたのだが一度も座っていない様だった。

 フラットは他の皆も探していたのだが何故だか見当たらない。参謀とは話ができたし、エリダはあちらの世でも会えるのだろうか。バルバタにも挨拶をしたいし、シシモと別れの挨拶をするのはなんだか泣いてしまいそうだ。サリはロルカを探しに行ったけど見つかったかな。なんだかんだ冷静になれたのはロルカのおかげだったかもしれない。ロルカの突飛な行動だったり、すぐに泣いてしまうから宥めるためにこちらが冷静になったり。サリと別れるのも寂しい。何処かで会うことはできないかな。少し頬に肉が付き赤みがさすようになった。可愛らしい微笑みもこれからもっと増えていくだろうし頭に生えた小さな角が大きくなったらどうなるのかも気になる。黒い服ばかり着ていたけどドレスも似合うようにこれから大きくなるだろう。


「……いやいや」


 なんだか想像しては行けない気がしてフラットは頭を振った。なんとなく暑くなってきて掌で顔を仰ぐ。まだパーティーは始まったばかり。夜は長いからとフラットは端にぽつんと置いてある椅子に腰を掛ける事にした。ちらちらと揺れる蝋燭を見つめる。

 後数刻もしたら元の世に帰っているなんて、実感がわかない。無事に帰れたらだけれど、なんとなくそこの不安感は無かった。


「なんか、あっという間だったな……」


 ついこの間まで話せなくてもどかしかった。頷いたり、話してる風に息を吐いてみたり、一日の中に色んな事があって凄く疲れて……だけど言葉が戻ってからは凄く時間が過ぎるのが早くなった気がした。あちらの世に帰るまでのカウントダウンが始まったからかもしれないけれど。


「話すって大事だな……」


 フラットはあちらの世の事を考えた。ポポタリの夜はとても静かで、雨が多いから動物の声もほとんど聞こえない。国民に紛れて兄が作った学校というものに通って友人と他愛のない話をして、夜になると今みたいにテーブルの上の蝋燭をぼうっとよく見つめていた。本当はやらなきゃいけない事があるんじゃないか。でも何かをすると兄の迷惑になるんじゃないか。自分だけ守ってもらって、わりと頻繁に会いに来る兄とどんな関係を作ったらいいのか分からなくなっていた。

 フラットは兄を尊敬していたし、とても大切な存在だった。お互いに唯一の肉親だし、何かあれば勿論助けに行く。今はもう手を引かれるだけの子供じゃない。だけど、どんな立場で助けられるのだろうか。頼ってくれるだろうか。やっぱりポポタリの村民として静かにしていた方がいいのだろうか。


「もうずっと、ここに……」


 フラットははっとして頭を振った。そうじゃない。まずは無事に帰らないと! ぱちぱちと両手で頬を叩く。蝋燭を見つめすぎていたせいか目の前がちかちかとする。

 

「そうやって何事も諦めるのかい?」

「わっ」


 ぱちぱちと瞬きをしていると蝋燭を挟んだ向こう側にウェーブのかかった髪をかき上げるバルバタが居た。


「バ、バルバタ。びっくりした」

「ははは、ごめんよ」


 バルバタは片目をぱちりとさせてテーブルに肘をついた。


「諦めるって……?」

「なんだかぶつぶつと声に出ていたぜ。影達みたいにな」


 初めはフラットの様子を遠くから眺めていたバルバタは、そのまま返ってしまうのではないかと少しずつ近づいてきていた。フラットはその気配に全く気が付かないまま、蝋燭を見つめながら独り言を漏らしていたようだ。


「え……まだちゃんといるよな?」

「ああ、透けてもいないし、問題ないさ」

「そう、よかった」


 フラットはほっと胸を撫で下ろした。



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