59 light
他には何かありますか?
王様の事、尊敬してますか? 未練は無いというのは本当? 名前は覚えてる? 魔法が使えるってほんと?
フラットは聞きたかったことを沢山聞いた。参謀はこんなに興味を持っていたなんて、と思いながらも丁寧に答えた。
「あ、王様が帰ってきたようです」
「わかるんですね」
「ええ、尊敬してますから」
「……」
フラットは参謀に疑いの眼差しを向けた。
「王様にも何でも聞いてみると良いです。あなたは考え過ぎて動けなくなる傾向がある」
「あ……そうなのか……」
「言ってはいけないこと、聞いては相手を不快にさせてしまうかもしれない、そんなふうに考えてから話せるのは優しいからだと思いますが、貴方も話して良いのです。せっかく言葉が戻ったんですしね」
「……」
フラットは少し、考えてから口を開いた。話していいって言ってくれたから、聞いてみたい。
「……参謀さんは、今、楽しいなって思う瞬間はありますか?」
参謀はぱちりと瞬きをすると、楽しいとは……と呟いた。
「例えばこの蝋燭一本を蹴飛ばしてみるとします」
「え! だめだめ!」
「ははは、問題ありませんよ。蹴飛ばした所で倒れるだけです。立て直せば良いんです」
「……?」
「今の貴方の慌てた顔は面白かったですよ」
「え……」
「はは、楽しくないなら何かしてみたら良いのです。生前の私は、とても良い子でした。言う事を聞いていればそれで良かったのですから。それを詰まらないと思いながらも続けていたのです。思い切って違う道に進んでも良かった。でも、そうする必要性も感じていなかった。順風満帆でしたから」
「……」
「王に誘拐された後、それを言ってみたんです。私は詰まらない人間なのですと」
「王様はなんて……?」
「ふむ、と」
「……それだけ?」
「その時はそれだけでした。しかし、何度目かの月が昇った時に急に私の部屋にやって来て言ったのです」
「なんて……」
「貪欲? って、ははは」
「貪欲?」
「詰まらないとは満足していないという事なんじゃないか、と。一理あると思いました」
「へー……なるほど」
「何日考えてたんだと思いましたけど、そのまま月が沈むまでこのどうしようもない件について議論しました。王は生きた人間が大好きですから、私の考えを理解したかったんでしょうね、きっと。どうしようもない話ですけど、その時も私は楽しいと思ってましたね」
参謀は誘拐されて良かったのかもと笑った。
「楽しいと思う事も、悪い事じゃありません」
「!」
「後ろめたいと思っているのかと思いまして……」
廊下の壁に映る二人の影がちらちらと揺れた。不安の様な、罪悪感のような物がフラットの胸に集まる。
「俺が小さい頃に内乱がありました。沢山の人が亡くなったんです。どうしても、忘れられない景色があって……何か、楽しいなとか嬉しいなって思った時に思い出すんです」
「ふむ」
参謀は少し考えると、その景色は貴方の所為で起きた景色ですか、と尋ねた。フラットはふるふると頭を振った。
「それなら幸せを感じても問題ありません」
「だけど……」
「私が許してあげましょう」
「え?」
「貴方が幸せになる事は、私が許可します」
「……ふはっ」
参謀の突拍子もない言葉にきょとんとしていたフラットは吹き出した。しかし、なぜだか本当に許された気がした。参謀にそれを伝えると今度は参謀がきょとんとした。
「思い出しました……私の生家は、教会でした……」
「!」
忘れないうちにメモを取らねばと黒い手帳を取り出すと指を一つずつ当てて文字を刻んでいく。薄暗い廊下に参謀の指先から放たれる光で照らされるフラットの驚いた顔がぽ、ぽ、と照らされる。
「俺……此処で皆と話した事とか、見た事も感じた事も忘れない。凄く大切にする」
「……ええ。きっと貴方の胸に残るでしょう」
小指の先にできていたはずのササクレが治ってしまい少し残念な気持ちで城に戻ってきた王は、廊下に並んだ蝋燭を倒さないように黒いマントの両端を摘んで持ち上げて歩く。
「……待っ…た……」
「……さき……それじゃ……」
「……りがとう……」
王の帰りを待っていた影たちがぽつり、ぽつり、と別れを告げて在るべき所へと返っていく。
「ふむ」
少し早いが手向けにと、蝋燭に火を灯していく。ぼぼ、と焦げた音と匂いと共に、王が通り過ぎた廊下が赤く照らされていく。
「おかえり」
王が視線を上げると、先に戻っていたアジエーリダ薄暗い廊下に立っていた。王はアジエーリダに向かって両手をゆっくりと上げた。廊下に並んだ蝋燭がアジエーリダの横まで一気に火を灯した。赤い炎に浮かび上がる我が子を見て頷きらすぼす、と呟いた。
「え? なんか言った?」
「ただいま」
おう、と返事をしつつもアジエーリダは首を傾げた。




