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CASTLE  作者: トロール
56/77

56 A Brain

「ひそひそ……こそこそ……はわわわわー」

「あ! あ! サリー!」

「どうした、ああ、達者でな」

「はわわわわーりがと……う……」


 参謀殿と話をする為に大広間と広間の間のベンチで待機していたフラットの目の前で、影が急にふわりと浮き上がった。驚いて見開いた影の目とフラットの目がぱちりと合わさり二人で慌てふためく。思わず大広間で蝋燭並べをしているサリを呼び出したが、サリは軽く手を挙げて挨拶をしただけだった。


「パーティーを楽しめたら良かったのだが、雰囲気に当てられて先に返って行ったようだ」

「……へえ」


 フラットはぽかんと口を開いた。


「ん?」

「あ、なんというか、呆気ないというかあっという間に居なくなってしまったと、思って……」

「うん、そんなものだ」

「俺も……」

「! ああ、フラットはそうは行かない。王が抱えて涙涙のお別れのはずだ」

「涙涙……」

「涙涙の生きるか死ぬか」

「怖がらせないでほしい……」

「ふふ。きっと他にも在るべき処へ返って行く影たちが出てくるだろう。それが自然な事だから放っておいて構わない」

「ん、わかった」


 素直に頷くフラットにふむと頷いていると参謀とロルカが広間の入り口に見えた。何か話しているようだが、ロルカにも作戦を伝えたのだろうか。ロルカは銀色の髪を振り回して首を振っているようだ。


「あれ、参謀さんと、ロルカどうしたんだろう」


 立ち上がろうとするフラットを手で制した。


「サリ? あ」

「ロルカは問題無い。ほら、参謀が来る」

「ああ、うん」


 ロルカは広間には入らず、何処かへ走り去ってしまった。サリの横顔を見上げるが表情が読めない。


「サリ様、只今戻りました。ジルの準備は万全です」

「わかった。フラットが話があるらしい」

「ほお! 聞きたいことがありましたか?」

「……はい」


 参謀はおや? と首を傾げる。


「場所を変えましょうか?」

「……できれば」


 フラットはこくりと頷いた。

 こちらの事は任せてくれというサリに甘えて、二人は食堂に移動する事にした。



「さっき……」

「はい」

 両脇に蝋燭がずらりと並んだ廊下を参謀と歩きなから、フラットは口を開いた。

 聞かない方が良いんだろうか。

「なんですか?」

「……さっき、ロルカと何を、話していたんですか?」

「ああ、パーティーの打ち合わせです。まだ伝えていない事がありましたので」

「そう、ですか」

「ええ」


 参謀は冷静を装って答えた。内心ドキドキしている。フラットに知られてはいけない作戦の話をしていたのだ。そんな事とは知らないフラットは、教えてもらえた事にほっと肩の力を抜いていた。


「それで、何か聞きにくい事でもありましたか?」


 食堂に着いた二人は向かい合わせにした椅子に腰を下ろした。膝と膝が打つかり話しづらいなとフラットは思ったがそのままにした。


「何を聞いても、いいですか?」

「どきどきしますね。どうぞ」


 全くそのような様子を見せずに参謀はフラットを促した。


「参謀さんは……」


 少し言いにくそうにフラットは俯いた。


「フラット?」

「その……」


 フラットは意を決したようにぱっと顔を上げた。恥ずかしそうに頬を赤くしたフラットに参謀はたじろいだ。まさか愛の告白だろうか!


「参謀さんは! 俺が、目指したい所かもしれません!」

「……え?」

「あ、えっと……その」

「告白されるのかと思いましたが、違う方向で驚きました」

「え」

「あまりに言い淀むものですから、ははは」


 かあ、とフラットの顔が赤くなる。そうではない、と顔の前で手を振った。


「わかってますよ、安心してください。私が目指したい所というのは、参謀というところの事ですか?」

「うん! そうです、そのところです!」

「ふむ」


 参謀は頷くと少し考えた。参謀と呼ばれてはいるが王の手伝いをしているだけで、目指されるような事をした覚えはなかった。


「フラットは参謀になりたいのですか?」

「いいえ」

「あちがう。では、え?」

「あ、違うというか、参謀という物になりたいんじゃないんです。貴方みたいに、冷静で、皆から頼りにされるような、その、そんな人に、なりたいんです」


 段々と尻すぼみになる声に合わせて俯いていく。頼りにされる人になりたいなんて、今まで隠れるように生きてきたフラットにはとても恥ずかしくて、おこがましい事を言っている、そんな気持ちだった。


「フラット、それは恥ずかしがる事ではありません。何か目標を持つ事は素晴らしい事です」

「え……」


 参謀はフラットの事を調べていた。どのような境遇なのかも分かっている。だから、きっと目立たない様に生きてきた事が癖になっているのだろうと考えていた。


「私を目標と言ってくれたことは、とても光栄な事です」


 にこりと微笑む参謀にフラットは安心した。何処かで、否定されると思っていたのかもしれない。


「参謀さんは、生前の記憶はあるんですか?」

「そうですね……少しありますが、考え方は変わりました」

「考え方?」

「はい。ですから、忘れないように記憶を書き出して置いたんです。たまに読み返しますが、懐かしいなと、思えるようになったのはまだ最近かもしれません」

「懐かしいと思う前は、どう思っていたんですか?」

「うーん、なるほどな、と」

「なるほど……?」


 参謀は頷くと、私のつまらない話を聞きますか? と微笑んだ。

 







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