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CASTLE  作者: トロール
55/77

55 Flat

「そういえば、参謀さんに何か聞きたいことは無いかと聞かれたんだ」

「ん? ああ」

「なんでも……参謀さんはいつからここに居るのかなとか、王様の事本当に尊敬してるのかなとか聞いてみたいけど聞いていいかわからなくてさ」

「ふむ、割と失礼だがなんでも聞いてみると良い」

「うん、でもシシモみたいにその、動かなくなったりしないかなって……」


 フラットは相手の事を知ろうとする事でこの世の者達には何らかの影響があるのだろうと感じていた。ロルカと話している時も急にぼうっと上の空になる事があったからだ。フラットの質問にサリふむと頷くとたしかに……とゆっくりと口を開いた。


「確かに、此方の住人達に影響はあるようだ。此方に来た時に全てを忘れてしまう者、何かを思い出せずにいる者、それから感情だけを消化しきれない者等がいるのだが、フラットの存在が何かのきっかけとなり、そこから点が繋がるように思い出や感情の消化になる事があるようだな」

「感情だけが消化できないってどういう事?」

「生前の感情だが、たとえば美味しいミルクがあるよと言われて飲んでみたらひどく不味かった。嘘つき、憎い、騙した許せない、のような感情かな……」

「例えがきっとサリとアジエーリダの話だと思うけど、そういう悪い感情ってことか」

「悪いとは限らない。だが、大抵良い感情を持っている魂は隣の国へ行くか、迷うことも無く次の魂になる準備をするのではないだろうか」

「生まれ変わるって事かな……」

「人とは限らないだろう。動物か虫か、体を持たない精霊かもしれないし」

「テーブルの神様になるかもしれない?」

「ふふ、あるかもな」


 サリは一息つくとぽつりと零した。


「影たちはどうしたいのかな」


 フラットはサリの顔を振り返る。


「在るべき場所へと返す為のこの世は、必ずしも必要てはない」

「サリ?」

「……いや、この世を作った王を非難しているわけではない」

「うん、わかってるよ」

「……居心地が良くなってしまうと動きたくなくなってしまうだろう? もちろんどこにいたって構わない。縛る物など無いのだから。だが、それは彼らの為になるだろうか。新しく生まれる機会を遅らせているだけではないのかと、考えるようになった」

「そうなんだ……難しい問題だね」

「そう、難しいんだ。ふふ」

「?」

「いや、生きている人間には難しい問題なんだ」

「どういう事?」


 フラットは眉を寄せて考えた。


「こちらではそんな事を考える者はいないから、でも私もアジエーリダもハンパだから生きた人間のように考えてしまう。でもすぐに此方の者の様に考える必要があるか、と思う事もある」

「……なるほど」


 フラットはふむ、と考えた。此方に居たら人付き合いもないし、仕事もない、生きる為に何かをしなくてはいけないという事がないのか。


「無関心というものなんだろうか」

「うーん」


 そうかも知れないけど、とフラットは口を開く。


「無関心かどうか、考える必要がある?」

「え?」

「サリもアジエーリダも自分の気持ちに素直でいていいんだ……会えなくなるのは寂しいとか、どういう風にしたいとか。王様だって人間が好きだからこの世を作ったんだろ? 生きた人間の行動や感情が愛しいって言ってた」

「うん」

「それに、無関心ってサリは言うけど、俺からはそんなふうには見えないかな。影たちと話すのだって仕事だからじゃなくて、サリも何かを探しているみたいに……」

「私も……?」


 フラットは腕を組んで唸った。なんと伝えたらいいのだろうか。


「うーん、えっと、わからないけど。知ったような事を言ってるけど、誰かと、何かと繋がりが、まだ必要なんだと思う」

「まだ?」

「本当に一人になったらさ、自由だから何もしなくていいしどこに行ってもいいけど、例えば素晴らしい景色を見た時とか星空が凄かったとか、今日は暑いなとか雪が凄い降ったなとか、誰かと共有する事で繋がるんだと思うんだ」

「ふむふむ」

「一人で感動して暑かったり寒かったり痛かったりを感じて自分の中に閉じ込めて、体に経験は積まれていくけどきっとずっと、孤独じゃないのかな」

「孤独……」

「王様と話をしていて思ったんだ。もちろん孤独とも寂しいとも言っていなかったけど、ほとんど無感情の時間をどれくらい過ごしたんだろうって……」

「王の話で、よくそんなに親身になれたな」

「いやいや……」


 王は無表情のせいでただ言葉を話しているだけに見えるけど、実際にはそんな事はないとフラットは思っていた。とても懐が深く心が広くおおらかすぎて嫌なことがあっても気付いていないだけなのではないかと。


「きっと、サリとアジエーリダと王様は同じ事を考えている部分があると思う」

「……そうかも知れない」


 サリはふと気が付いた。あまりそれぞれの話を聞いたことが無かったかもしれないと。必要が無いほど居て当たり前になってしまっていたのかもしれない。


「フラットは、老人のようだな」

「え?」


 サリはフラットの考えの深さや人の気持ちをわかろうとする姿勢を褒めたつもりだ。


「せ、説教じみていたということ……?」

「随分と蝋燭が並んだな」

「サリ?」


 いつの間にか大広間に着いていたサリはフラットを置いてすたすたとバラバラの方へと向かってしまった。


「老人……」


 フラットは少しの間しょんぼりと立ち尽くした。 



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