52 GILLE
「あたしでやんすか?」
「うん、その……話したくなかったら無理にとは……」
フラットはジルの住処で満月を造る体験をしていた。つるりとした球体からあちらの世界で見えるようにぼこぼこと凹みを作っていく。作業の合間にジルの手元を盗み見て、生前は何かの職人だったのかと考え聞いてみることにした。口から言葉が出てしまってから、聞いてもいい事だったのかと不安になってもごもごしてしまった。しかしジルはあっけらかんと答えてくれた。
「あたしはとおーい昔にあっちで産まれたんでやんす。だけど、人間じゃないんでげすな」
「へえ……人間じゃない……」
人間ではないのなら動物だろうか。今の目の前にいるジルはシシモくらいの人間の少年にしか見えない。くふふと笑ってジルが面白そうに当ててみるでやんすと目を細めた。フラットはむむむと唸る。三日月のような目が猫のようなきつねのような……。
「ねこ?」
「はずれでやんす」
「……きつね?」
「ちがうでやんす」
「うーん、妖精?」
「お、っと、ファンシーがでやしたね」
くふくふと笑われてフラットは少し恥ずかしくなった。でも……とジルがニンマリと笑った。
「大体正解だやい!」
「ええ?」
そんな可愛らしいものではありやせんけど、と。フラットの頭にはてなが浮かぶ。
「あたしはもともと人ならざる者。あちらの世では不気味で恐怖のモンスターでげす」
「モンスター……吸血鬼とか……?」
「サリはヨウカイと言ってやした」
「ヨウカイ」
「ええ」
フラットはジルをまじまじと眺める。こんなに可愛いモンスターいるかなと首を傾げる。いや、どこかの国の伝記的な吸血鬼だって狼男だって子供の頃は可愛いのかもしれない。信じられないという顔のフラットにジルの頭にいたずら心が生まれる。
「怖くないでやんすか?」
「うん、可愛らしさしかない」
「えへへ、照れるやい。この頭がツルッパゲでも?」
「え?」
ジルはトレードマークの帽子をさっと取るとつるりと輝く満月のような頭を見せつけたて、さらに黄色くぴかっと輝かせた。フラットの息が驚きでひゅっと変な音を出した。
「嘘でげす!」
くふくふと笑いながらジルが頭をつるりと撫でるとふさふさの髪の毛が生えた。
「え! え?」
「あたしはこういうのが得意なんです」
「あ……へえ……?」
目をぱちくりとするフラットにジルは満足して帽子をかぶりなおした。一瞬の出来事に頭が付いていかないフラットを眺めてにまにまと笑う。
「変身するのが得意なモンスターなんですよ。誰かの家族の真似をしてご飯を食べたり、石のフリをして誰かが座ったらぐらぐら動いて落としたりするんでやんす」
「へえ……悪い子だな」
ジルのいたずらを聞いてフラットは笑ってしまった。ちらちらと上目遣いでフラットの顔色を伺う様子が怒られないか不安にしている子供のようで微笑ましい。あれ、とフラットはあることに気が付いた。
「じゃあ、この世にはどうやって?」
ジルの体がぴくりと反応した。今度こそ聞いてはいけない事だったのだろうか。和やかな空気にピリッと緊張が走った。実は……とジルが口を開く。教えてくれるようだ。口元に手を添えて内緒話らしい。
「……王様がさまよえる魂と間違えたんでやんす」
「ええ! 王様……」
「おっちょこちょいでげすよね」
くふ、と笑うジルを目の前にして立派な黒い角と艶々の黒髪が頭を過ぎる。あの人絶対天然だ、と不敬な言葉が頭の中を走っていった。ところで、とジルがまた内緒話のポーズをとった。
「……さっきのあたしのヘアスタイルはどうでやんしたか?」
「つるっと丸くて可愛かったよ」
「へ!」
頬を赤くして照れるジルは大変可愛らしいモンスターだった。




