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CASTLE  作者: トロール
50/77

50 FLAT

 なんだかずっと気不味そうにしているアジエーリダに別れを告げてシシモについて歩く。


「へへ」

「? どうしたんだ?」


 シシモがフラットを見上げて照れくさそうに笑った。


「お兄ちゃんができたみたい」

「そう?」

「うふふ」


 ご機嫌に歩くシシモにつられて口角が上がる。お兄ちゃんか……兄さん、心配しているかな。離れて暮らしているから、もしかしたら居ないことに気付いていないかもし知れないけど、突然顔を見にやって来るからどうだろうか。


「シシモは……」

「なあに?」


 シシモはこの世の者じゃないのか、と聞こうとしたがやめた。何が引き金でさっきみたいになるのかわからない。


「シシモはかわいいなあ」

「えへへへへへへへへ」


 頭をぐしゃぐしゃと撫でて誤魔化すことにした。


「僕はそろそろ帰るけどサリの事お願いね」

「え!」


 帰るって何処に? せっかく誤魔化したのに聞きたいことが沢山ある。


「僕はこの世じゃなくてお隣りの世から来てるから、そろそろ神様が心配してるかも」

「そうなのか……」

「うん」


 お隣りの世もあの世だよな。手を振って城から出ていこうとするシシモの腕を慌てて捕まえた。


「ぬ?」

「出て大丈夫なのか?」

「うん! 僕は飛んで帰るから」

「え」


 またくるねー、と手を振るシシモが空に飛び上がっていく。大きな白い羽根を持つ鳥に襟首を咥えられて。


「天使かと思った」


 ぶらぶらと揺れるシシモが見えなくなるまで手を振り返した。



「シシモは天使だ」

「え」


 月が沈む少し前。シシモに任されたサリの様子を見に行ってシシモの事を聞いてみた。体調が回復してきたサリとティータイムではなくミルクタイムを過ごす。


「隣の世には別の神がいる。産まれるのを待っている天使達がいる」

「天国?」

「まあ、そうかな」

「へえ……他にもこういう世ってあるのか?」

「あるらしい」

「らしい」


 サリはトウカの塊をカップに削り入れる。


「行ったことは無いからどういう所かはわからない。この世の様に影達がいるのか、隣の様に天使達がいるのか」


 ずずっとミルクを啜るサリは幸せそうな顔をした。余程ミルクティーが不味かったのか、甘いトウカの塊が気に入ったのか。


「それじゃあ、他にも神様はいる?」

「ああ、沢山いる」

「沢山!」

「ただ、形を持たない神もいる。うちの王や隣の神の様な人の形をしているのは、あまりいないのかも」

「なるほど……」

「テーブルの上に立ってはいけないとか、障子を破るなとか言われたことはないか? テーブルの神様が見てるぞとか、障子の神様が怒るとか」

「……ないけど。しょうじ?」

「……そうか」


 サリは何か言いたげに口をもごもごさせた。サリはここに来る前はあっちに居たんだよな。そういう所にいたんだろうか。


「サリは言われたことあるの?」

「いや、私は無い」


 ふう、と息を吐くとサリは目を伏せて昔を思い出して居るようだった。無い、と断言したが本当に無かったかと首を傾げる。なんだかそんな記憶があった気がしたが……ああ、あれは影の記憶だったか。


「うん、無い」

「ふうん……テーブルの神様っているの?」

「いや、そんな平べったい神は居ない」

「平べったいって、はは」

「……」


 笑うフラットにサリは口をへの字に曲げた。


「テーブルの神様じゃなくて、素材の木には命があった。紙もそう、植物にも命はあるし、流れる水には命があるのだろうか」

「水かあ……」


 確かに水は生き物のように動くけど、それは生きているからと言われたらなんだか違う気がする。それでは火は? 風は? と二人は思い付くものをころころと並べていった。


「大切に扱われた物には命が宿る事があるともいう」

「へえー」

「持主の気持ちか素材の命か、神が気に入ってその物に宿る事もあるかもしれない」

「じゃあ、テーブルの神様もいるかも?」

「そうかもな」


 二人は辿り着いた結論に顔を見合わせて笑った。


「ただ、私が聞いたのは子に物を大切に扱えという教訓なんだろう」

「なるほど」


 サリの部屋の扉から軽いノックの音が響いた。ひょこっと顔を覗かせたのはロルカだった。


「そろそろお休みになられるかと思いまして。カップをさげに参りましたの」

「そうか」

「それじゃあ俺も戻るよ」

「ああ」

「あれ?」

「? どうした」

「ロルカ、トロリーは?」

「え!」


 いつも一緒のトロリーが無い。そういえばノックの音がするまで、トロリーを引く音も聞こえてこなかった。


「忘れてしまいましたわ! 私ったら!」

「ふふ」

「? サリ様?」


 慌てふためくロルカの瞳に涙が盛り上がる。それを見てサリは思わず声を漏らして笑った。


「いや、すまない。フラットに手伝ってもらったら?」

「ああ、もちろん」

「ありがとうございます!」


 ロルカはべこりと頭を下げてフラットにお辞儀をした。フラットはそんな様子を見ているサリがなんとなく、安心しているように見えた。


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