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CASTLE  作者: トロール
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5  BOY

ここはポポタリという小さな集落。クラントロワという国の端、森の入り口に位置する人口三十名程の何も無い所だった。それもそのはず。元々人は住んでいたのだが、ここニ、三年でできた集落だった。クラントロワにはこのホポタリの様な集落がいくつもある。それはおよそ十年前、このクラントロワは内戦によって一面焼け野原と化したのだ。美しい緑は焼かれ、きらめく小川は赤く染まった。元凶は先代の王にあったようだが、その前から徐々に国は死に向かっていたのだろう。しかし、そんな時、一人の青年が立ち上がった。この国の第一王子である。当時はまだ少年と呼ばれる年頃だったろう。王子は信頼の置ける従者数名だけを伴い、先代の王、実の父の命を絶ったのだった。もちろん国民は衝撃を受けた。内乱は王政の廃止を目論む宗教団体と悪政を強いる国王側とのものだったが、国王側の王子が国王を無き者にしたのだ。宗教団体は近隣国から入ってきた集団だったが、国王を消した後は彼らによる悪政の始まりに違いないと思っていた国民の中には国から逃げ出す者も少なくなかった。長い間内乱は続いていたのだ。そこへ突然現れた王子。国民達は何に身を任せたら良いのかわからず混乱を見せた。しかしそれも、すぐに喜びへと変わっていった。王子が連れていた従者の中に国の第一騎士団団長の姿があった。彼は長い内乱の間も国民に寄り添い、国から逃げ出すものを手伝った事もあった。国民が唯一信頼していた騎士団団長の存在はそのまま王子への信頼にもなっていった。そして、王子は内乱を収めた後、国民達の前に姿を表しこの国を立て直すと宣言した。それも十年という短い期間で。もちろんそんな事はとても簡単なことではない。国民達の不安は消えたわけではなかった。しかし、やっと希望が見えたのだ。この若き王子に託してみようと、自分達にできる事をやってみようとクラントロワの国民は立ち上がったのだった。

 王子はひとまず生きている者達を城下町に集めた。屋根の無いものがいないように。食べる物が少しでも当たるように。城下町に屋根が足りなくなったら城の一部を提供した。命を落とした騎士たちの宿舎だったり、馬屋番や調理師は新しく雇い部屋を与えた。そうしてなんとか国民の安全を確保する傍らで、焼けてしまった国土を少しずつ回復させる役割が必要だった。拠点をいくつか作り、食物が取れるよう田畑を作った。そしてその拠点の一つがポポタリであった。

 約十年の時を越えて小川は透明になり植えた緑は人の背丈まで成長していた。ここいらで国民を村に散らばせ、国全体に活気を取り戻す予定だった。しかしそれが中々うまく行かなかった。王子も困ってしまったが、皆城下町が好きになっており、出て行きたくないというものが多すぎたのだ。しかしそれは仕方がないので、徐々に散らばせることとなった。約束の十年を過ぎてしまったが、誰も王子を嘘つきなどとは呼ばなかった。皆、王子の事を愛していた。

 さて、話はポポタリに戻るが、その隣のカルデという城下街に学校がある。この学校は内乱の後に作られたものだがクラントロワの四歳から十五歳の子どもたちは皆この学校に通うことを義務付けた。昼には食事も出る。子どもたちの健康な成長を担う機関ともなっていた。このカルデの学校では今大きなお祭りの話題で持ちきりだった。終戦十年の節目に王子が学校を見に来るというのだ。生徒達の心は浮足立っていた。女子生徒たちは美しいと噂される王子に想いを膨らませ、男子生徒たちは一緒に来るという元第一騎士団団長と力比べはできるのかと、すでにお祭りが始まっているような賑わいを見せていた。

 学校の端にある一つの教室でもまた、その話題で盛り上がっていた。


「王子ってすごい綺麗な顔してるんだろ?」

「うんうん! おばさんが見たって言ってたよ! 美しい……って」

「へえー! 楽しみだな。でもなんでまだ王子なんだろうな? 普通だったらもう国王でいいんじゃないのか?」

「確かに……エリダの割に鋭いね」

「あ、ばかにしてるな?」

「いやいや、ごめんごめん」

「エリダばかだもんね」

「なんだと!」

「きゃー!」


 大きな木の机の周りでどたばたとかけっこが始まった。いつもの光景に一番年上のフォンテはまあまあと、エリダという少年とフォンテの妹のメリーを宥めた。


「フラット、君はさっきから何をしているの?」

「え!」

「そのドロドロの液体? をさっきから眺めているけど」


 フォンテは先程から一言も喋っていないもさもさの髪の少年を振り返った。


「ああ、これは、畑で取れたトウカの茎から絞った樹液なんだけど、固まったら持ち歩ける非常食になるかと思って」


 もさもさの少年の名前はフラット。煤のついた頭を揺らしてフォンテに答えた。彼はポポタリに住んでおり田畑の研究に熱心だった。頭の煤も朝から畑に撒いてくるのでしょうがないことなんだそうだ。

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