47 FLAT
シシモを抱えてサリと一緒に部屋に戻ることにした。シシモは目を開いたまま動かないけど、危険な状態ではないというので少し落ち着いた。シシモの腹に乗る小さな生き物をサリが引き取る。
「お前はこっち」
「そういえば、名前は決まった?」
「いや」
「ふうん、候補はあるの?」
「クロかチビか、ロルカはなんだか長い名前を考えてくれたけど覚えてないな」
「はは」
男の子だから強そうな名前がいい。呼びやすい方が良い。母親の名前はピリリという。毛並みが綺麗な黒だからクロがいいと思った、とサリは語る。
「ふふ」
「どうした」
「いや、よく喋ると思って」
「……煩いか?」
「違う違う、俺も話せるようになったから嬉しい」
「……ならいい」
「僕も混ぜて!」
「わ!」
「シシモ」
「クロロは?」
「クロロ、可愛いな」
「クローロは?」
「カッコよくなった、それしよう。良かったな、クローロ」
「……」
「フラット?」
「ぬ? 気に入らない?」
「あ、いやいいと思う」
フラットは横抱きにされたまま突然話し始めたシシモに驚いた。そして普通に話しを続けるシシモに呆然として、無事だった事に嬉しくなって、サリとのお喋りを聞かれていたことになんだか恥ずかしくなった。恥ずかしい?
「それより、大丈夫か?」
「僕? 大丈夫だよ!」
何事も無かったかのようにいつものシシモだった。僕はどうして抱っこされてるの? と首を傾げている。サリを見やると首を振っていた。
「このまま私の部屋まで行こう」
「今、サリに熱があるみたいだから部屋に向かってる所だったんだ」
「え! そうなんだ、早くいかなくちゃ。フラット急いで!」
「大丈夫だ、ゆっくり行こう」
「僕知ってるんだよ」
「なに?」
「サリとフラットの事看病してたからできるんだ!」
「ああ、そうだったな」
「そうか、お礼をちゃんと言ってなかったな。ありがとうシシモ。サリも」
「かまわない」
「ふふ。大きな血管を冷やすんだよ」
「ふうん、大きな血管は何処にあるんだ?」
「脇の下とか首とか足の付根だよ! 僕がキンキンに冷やしてあげたんだ!」
「……え? 足の、付根……?」
看病の為とはいえそんな恥ずかしい事になっていたのかと、フラットの顔が赤くなる。
「シシモ」
「えへへ、嘘だよ!」
「え!?」
いったいどれが嘘なのか、三人で話しているうちにサリの部屋の前に着いた。シシモも一緒に寝かせようと思っていたのだが、目が覚めたのならその必要もないので腕から降ろしてやる。
「僕が看病する? フラットがいい?」
「いや、一人でいい」
「そっか、残念」
「サリ、無理しないように。良くなったらまた話そう」
「ああ」
「おやすみ」
「サリおやすみー」
「おやすみ」
シシモは食堂へ向かうというのでついて行く事にした。また動かなくなるのではないかと心配だった。シシモは自覚が無いようだったが、手をだらっと落とし動かない人の異様な光景に焦燥感を覚えた。
「アジエーリダ!」
「よう、シシモ……と」
「あ、フラットです」
「あ、ああ、はじ、始めました」
「え?」
「て!」
「ああ、はじめまして……」
「ぬ?」
なんだか慌てているアジエーリダにシシモは首を傾げた。フラットも首を傾げる。なんだか知り合いに似ている人がいなかっただろうか……。
「アジエーリダはね! あっちで人間と暮らしてるんだって」
「え?」
「こら! シシモ!」
「ぬ?」
シシモの発言にアジエーリダは慌てる。やはり知り合いなんだろうかとフラットは記憶を巡らせる。フラットより年上だろうアジエーリダは黒い長い髪を後ろで三つ編みにたらし、黒っぽいシャツにキナリのマントを羽織っていた。こんな知り合いいただろうか。じっと目を見るとぱっと顔を反らされた。失礼だったろうか。
「あの、声を拾ってくれたって聞きました。ありがとうございます」
「ああ、いやいいよ。見つかってよかった」
顔を背けたまま話すアジエーリダに、シシモが失礼だよと注意をしていた。やはり知り合いか……?




