46 PRINCESS
「身体は問題ないか」
「あ、うん。大丈夫だよ」
シシモの頭を膝に乗せてフラットを落ち着かせるとベンチの横のスペースを叩いて座らせた。フードから小さい黒い生き物がすかさず飛び出しフラットの膝に着地する。フラットは恥ずかしかったのか両目を腕でごしごしと擦ると溜め息を吐いた。
「助けに来てくれてありがとう」
「え?」
「あの時、来てくれただろう?」
「いや、行ったけど……」
フラットはもごもごと口を動かした。
「……王様が来てくれたから良かったけど、一緒に裂け目に落ちるところだった」
「ああ、そうだな」
「……助けに行ったつもりで、もっと危なくなってしまった」
「そんなことは無い」
「……うん」
フラットは何か言いたげにしていたが、口を閉ざしてしまった。せっかく、話せるようになったのに。サリは口をへの字に曲げた。
「アジエーリダには会ったか?」
「え? あ、あの時に居た人のこと?」
「ああ、私の兄だ」
「へえ! お兄さんがいたんだ」
「ああ、大体此方には居ないが、声を拾ったのもアジエーリダだ」
「そうなのか、お礼を言わなきゃ」
「うん」
「もしかしてあの時、あの池で戦っていたのはそれで?」
「ああ。もっと早くに此方に来ていたみたいだけど、池で何かを見つけたから拾ったんだそうだ。そうしたら影達に追いかけられて、大変だったみたい」
あちらの世で王から帰るように言われたアジエーリダは周囲の友人に不審に思われないように不在にする事を伝えるとすぐに此方に向かっていた。しかし、通り道の池の中で何やら光る物を見つけたので回収しようとしたら影達に襲われる羽目になり何日も戦っていたのだった。
「彼は、此方の人なんだよね」
「そうだ」
フラットは膝ですぴすぴと寝息を立て始めた小さい生き物を撫でる。聞いても良い物かと迷ったが気になったので口を開いた。
「サリは、完全に此方の身体じゃないって聞いたんだ」
「ああ」
「でも、今回角が生えたからもう大丈夫って」
「そうだ。それもフラットにお礼を言わなくてはいけなかった。トウカとやらの塊のおかげだと聞いた」
サリはペコリと頭を下げた。フラットはいやいやと首を振って助けになれたなら良かったと付け加えた。
「彼は完全に此方の人なのか?」
「ああ」
サリはこくりと頷くとフラットが何を聞きたいのかピンときた。
「私は魂が此方の物だけど、此方の体に入る前になんだか弾き飛ばされてしまってあちらの世の身体に入ってしまったんだ」
「……え?」
「それがアジエーリダの身体になるはずの物だったから、アジエーリダの身体がなくなってしまって」
「……?」
「余っていた私の身体に入って此方で育ったんだ。元々此方の身体だから魂が人間でも此方の世に反発することも無く此方の者になったみたい」
「へえー……?」
なんの事はないと淡々と話すサリにフラットはそんな単純な話なのかと首を傾げてサリの様子を伺うと、ふわふわの髪の毛からきらりと覗く角が見えた。
「その角、痛くない?」
「ん? ああ、生え際の辺りが怪我をしたみたいに痛いけど、それより身体の調子が良くてあまり気にならない」
「そっか。良かった……あれ?」
フラットはサリの顔を覗き込む。
「サリの目は、そんな色だった?」
いつもはフードを目深に被り頭痛からか目を細めていたけど、確か真っ黒の目をしていなかっただろうか。今はキラリと光っているように見える。
「ああ、目も良くなったんだ。落としてしまったから治らないと思っていたけど」
サリは辺りを見回すと口元に笑みを浮かべた。
「良く見えて嬉しい」
「! そう……」
にこりと微笑むサリの笑顔にフラットはドキリとした。シシモの頭を撫でる手はまだやせ細っているけど、赤みの宿った顔は普通の可愛らしい女の子だった。
「……もしかして、熱があるんじゃないか?」
「?」
頬の赤みが結構な赤みでフラットはサリの額に手のひらを当てて熱を計った。熱い。
「部屋に戻って休んだ方が良い。調子が良さそうに見えたけどまだ病み上がりだし」
「……だから身体が温かかったのか」
調子が良くなったとばかり思っていたけど通り越して熱が出ていたようだった。




