45 Princess
美味しいミルクティーを飲んだ後とても調子が良くなったので城の中を散歩することにした。一度広間に影達を集めたから目的地は広間として、城にひび割れや綻びがないかを見て廻る。王が全て把握していると理解してはいるが、あんな騒動があったのだから自分の目で見て確かめたかった。よく視えるようになった目で見る城の中はこれまでよりも明るく見えた。窓から城下を見下ろしてみたが、隆起したり裂け目が入ったはずの地面は元通りの平らな岩肌に戻っている。本日の月は歯をむき出しにして笑っていた。住処に戻ったジルにも会いに行きたい。頭の中にあった角が外に出たことに寄って不調も外に出ていった気分だった。角の辺りがまだじくじくと痛むが、歩くたびに響くような頭痛も無く、重りを着けていたように重たかった手足も軽く感じる。動く事が苦痛では無くなりつつあった。絶好調とはいかないが、この調子だとそう言える時も近いだろう。
いつもはフードを目深に被って影の気配だけを探して歩いていた廊下を、遮るものなく見て廻る。あそこにも窓があったか、と新しい発見が見つかるのが楽しい。明るくなった気持ちとよくわからない気持ちを抱えて歩く。ロルカは果たしてどちらになるのか、居なくなるのか、この世に残るのか。在るべき所へ返るのだとすれば喜ばしい事。影達と同じ様に送り出してやれば良い。此処に残るのだとしたら、これまでと変わらない刻を過ごしていくだけ。後者を考えてサリは少し安心して、その安心に嫌な気持ちになった。どういう気持ちなのか自分でも良く分からずにいた。とぼとぼと歩き続けているとかがみ込んでいるフラットを見つけた。こんな所にいるなんて探検でもしていたのだろうかと近付いていく。
「フラット」
声を掛けると泣き出しそうなフラットが振り返った。横になっているのは、シシモか。目を見開いて動かない。何度も見てきた、影達が何かを思い出している様子と同じだった。思い出を見ているのだろうか、心残りを見ているのだろうか。
シシモはこの世の住人ではないけれど、あちらの世の住人でもない。次に産まれる時を待っている事に変わりはないけれど、一度しっかりと天に帰ったのだ。しかし、活発だったのか天の端の端まで行ってしまいこの水底の世に干渉してしまった。シシモの国の主も容認してはいるから問題はないのだけど、ここの影たちと同じ様に何か忘れ物が在るのかも知れない。
ロルカに続いてシシモにも変化の刻が来たのだろう。レギュラー民のようにしばしば訪れるシシモも居なくなってしまうのだろうか。じくりと胸に靄がかかるような感覚がした。この嫌な気持ちが、とても嫌だ。




