44 Flat
目を覚ますとまだ薄暗い時間だったようだ。太陽があと少しで完全に隠れてしまう頃。明るくなると眠り、暗くなると起きる。これに慣れるのは時間が掛かりそうだなと思いながら身体を起こすと、薄暗い部屋の中に人影があった。フラットはびくりと身体を震わせた。
「ま、まお……あ、王様、おはようございます」
「ふむ」
立派な角と真っ黒な髪のせいでどうしても魔王に見えてしまう。危ないところだったとフラットは息を吐いた。
「娘が目を覚ましたようだ」
「本当ですか!」
「意識もはっきりしているようだ」
「そうですか、良かった」
「ふむ」
王はそれだけ伝えると部屋を出ていってしまった。まさか、魔王と聞き取られてしまっただろうかとフラットは冷や汗を流した。
軽く身支度を整えるとサリに会いに行くことにした。部屋までの道のりは覚えているからすぐに辿り着けるはず、と考えたがそういえばまだ暗くなりきっていない事を思い出した。緑の部屋がある当たりの廊下はまだ明るさが残っていた。フラットは城の中を探検して時間を潰してからサリを訪ねることにした。
探検してみると思っていたより部屋がたくさんあった。全体的に薄暗く、何かの気配を感じたり冷たい空間を通り過ぎたりしながら回っていると武器庫らしき所や広間とは違う客間の様な部屋、他にも沢山の扉がある様だったが誰かの自室かもしれないのでさすがに覗くことはしなかった。
完全に太陽が沈み月が浮かんでいるのを確かめるとそろそろサリの所へ向かう事にした。初めて歩く廊下を進んでいると通路の奥に人影が見えた。影かも知れないと思いながら進んでいくと、見知った人物だったようでホッとした。
「シシモ」
近くまでかけて行くとまあるい頭を覗き込んだ。
「シシモ?」
返事がないというより反応がない。少し俯いたまま立ちん坊をしている格好で動かない。フラットはシシモの手を握るとその冷たさにぞっとした。前に手を繋いだ時は子供の暖かい体温があったはずなのに。
「シシモ! 聞こえるか! シシモ!」
「……」
「シシモ! ……っ」
フラットはシシモを抱えるとサリの部屋へ急いだ。しかし探検をしすぎていたのかサリの部屋からは大分離れてしまっていた。力が入っていないようで硬直したままのシシモはとても重たい。水を含んだ藁袋を担いでいるようだった。だんだんとフラットの息が荒くなってくる。ずっと反応を示さないシシモにも焦りが出てきた。ちょうど目の前に廊下が凹んだような窪みにベンチがあったので休憩する事にした。シシモを横にして寝かせてやると掌を擦って温めようとした。目を覚まして。覚えのある息を引き取った人と同じ冷たさに涙が滲んできた。
「フラット?」
「!」
背後から声を掛けられて驚いて振り向くと、そこにはサリが立っていた。
「サリ!」
「シシモ?」
「シシモが動かないんだ! なんの反応もしない!」
「シシモ」
サリはフラットの横に座り込むとシシモの額に手を当てた。開いたまま瞬きもしない目を覗き込む。
「どのくらいこうなっている?」
「わからない、俺が見つけた時にはこの状態で、廊下に立ってたんだけど返事もしなくて」
「わかった」
サリはふむと頷くとシシモの頭を持ち上げ膝枕をした。
「もう少し様子を見よう」
「え? でもこんなに手も冷たくなってて」
「落ち着いて」
サリはフラットを落ち着かせるように頭を撫でると、ここは何処だ、と訊ねた。
「あ……そっか」
どきりと心臓が一瞬止まった気がした。このままではシシモが死んでしまうと思ったけど、此処は元々死んだ人の世だった。




