42 KING
フラットは衝撃を受けた。サリに角。仲良くなり始めた女の子に角。包帯で隠されている角。
「サリに……角」
「めでたい」
「めでたい、ことなんですか?」
「ふむ、娘は……」
王は目尻を下げて何か懐かしいものを思い浮かべているかのように遠くを見つめた。
「娘は体が弱い。娘の体は少年と変わらぬ人間と同じ。この世で生きているのは魂がこの世の者だからなのだ」
「魂だけ?」
「ふむ。魂が体を守り徐々に此方の体に作り変えられていた。しかし、魂と一体となる事に体が耐えられなければ、娘の命は終わるしかなかった」
角が生えたという事は、身体が順応したという証明だった。
「じゃあ、サリはもう元気になれるって事?」
「ふむ、愛しい」
「え」
無表情をうっとりとさせる王にフラットはたじろいだ。そういえば、なぜ口に指を突っ込んでいたんだろうか。急に思い出してしまった王の奇行にフラットは少し後ろに下がった。それに気付いた王は違う、とまた浮気がばれた旦那のような態度を取った。
「あれは、一体何をしていたんですか」
フラットが人差し指を立てて王を問い詰める。聞いては行けない気がしたけれど、聞かなくてはいけない気もした。
「話をしよう」
「はあ……聞きますけど……」
話をしようって、そういう? 言い訳を聞いてって話? フラットは疑いの眼差しを王に向けたまま人差し指を降ろした。
「ゴホン、娘は身体が弱い」
「はい」
「身体が、人間の為」
「……はい」
「人間が身体を創るためには食べる物が必要だろう」
「……え! 指を……?」
「違う、血だ」
「血?」
「うむ。ロルカに出させているミルクティーというやつはヤギの乳に私の血を混ぜた物」
「え……それは、それで、ちょっと」
「ふむ、不味いらしい」
「いや……」
娘に自分の血を飲ませるという事に抵抗があるのだが、王にはよくわからないようだった。
「ヤギの乳だけでは弱る一方だったのだが、我等神の血には栄養がたくさん入っているらしい」
「そうなんで、栄養が、え、かみ、神?」
「うむ。一滴混ぜただけで衰弱速度が弱くなり……」
王は話を続けるが、フラットの頭は色々な事実が立て続けに投げかけられて付いていけない。
「……聞いているか」
「あ、はい!」
神様?
「ふむ。しかし、少年が持ってきたあの塊も栄養があるようだな」
「あの塊?」
王の話が頭に入ってこなかったので何を言われているのか瞬時にわからなかったのだが、王の指が指す先のベッド脇のテーブルには小さくなったトウカの塊があった。
「あ、あれ食べてたんだ……」
「うむ。我の血では衰弱を遅らせるまでの栄養だった。おそらくあれの栄養が加わり身体の成長に繋がったのではなかろうか」
「そうなんだ……良かった」
「うむ。礼を言う」
「いえ! そんな事とは知らなかったし、王様の事も、疑ってしまって、ごめんなさい」
「疑っていたのだな、素直」
「ほんとすみません」
礼を言う、謝るを繰り返しぺこぺこと頭を下げ合う二人を薄ら目でサリは見ていたのだが、見なかったことにしてまた眠ることにした。




