40 VOICE
目を閉じているのに緑の光が眩しい。瞼が重くて持ち上がらない。太陽の時間なんだろうか。
「意識はあるようですから、ひとまず様子を見るとしましょう」
「ああ……早く起きろよ」
(誰かいる?)
「サリ様の方はどうですか?」
「ずっと魘されてる」
(そうだ! サリは?)
「そうですか……」
「夜にまた父君が薬を飲ませるって」
「余計に魘されるのでは……」
「はは! 目を覚ませば、きっともう……」
(だめだ、眠い、サリ……)
目を覚ますと薄暗かった。ベッドから降りて薄いカーテンを避けると月も太陽も見当たらない。これからどちらの時間になるのか。フラットは目眩を感じて、ベッドに座り落ち着くのを待った。
(サリの所へ行かなくちゃ)
眠って居た時に誰かの話し声を聞いた。たぶん、参謀ともう一人はわからなかったけど、サリはまだ目を覚ましていないというような話だった。
(血が出ていたけど、頭をぶつけたんだろうか。酷い地割れが何度もあったからその時に?)
フラットはゆっくりと立ち上がると一つ息を吐いた。目眩は落ち着いたようだった。一度行っただけだけど、サリの部屋へ辿り着けるだろうか。緑の部屋をそっと抜け出した。これから月の時間になるかもしれないけど、太陽の時間になって皆寝ているかもしれない。できるだけ静かにこっそりと動いた。
(一人で城の中を動き回るのは初めてだな)
薄暗い廊下を暗い方へ向かって進む。ロルカと来た道を思い出しながら、暗い蝋燭の灯りだけの廊下に辿り着いた。右側の壁に手を当てて進む。ロルカは何個目の蝋燭と言っていたっけ。でも数え間違えてたな。すぐに涙を目に溜めるし、おっとりと動いているように見えてすぐに焦る所もあるみたいだ。シシモは可愛い。気がついたら手を繋いでいたり、起きたら横で寝ていたこともあった。つい甘やかしたくなる。弟がいたらあんな感じかな。参謀は参謀っていうより執事って感じだろうか。丁寧だし冷静で仕事ができる優秀な人。真面目で優しい。なんで参謀なんだろう。王の右腕って事かな。そうだ、王様……。あの時の黒マントが、そうなんだろう。此処に連れてきた張本人。ずっと居なかったみたいだけど、あんなタイミングで助けに来るなんて、かっこよすぎると思う。俺は助けに行ったのに、かっこ悪いな。
「あ!」
これまでに出会ったこの世の人達の事を考えながら進んでいると、右手から壁の冷たい感触が消えて暗闇に指先が溶け込んだ。目を凝らして奥の方を見ると、赤い蝋燭の灯りがチラチラと揺れているのが見えた。
「ふう」
フラットは息を吐くと、扉にはめ込まれている黒い石をつるつると撫でてから小さくノックをした。返事はない。眠っているのだろうか。それとも、もしかしたらこの部屋にいないかも知れない。そういえばこの部屋にいると思い込んで来てしまった。勝手に入るのは躊躇われるけど、いるかどうかだけ確認しようか。フラットが扉に手をかけた時、部屋の中から何かが倒れるような大きな音がした。慌てて扉を開けてフラットは部屋に飛び込んだ。
「サリ!」
「む!」
「え!」
「……」
「……」
そこにはベッドに横になっているサリと、サリの小さくて色の悪い口に指を突っ込んでいる黒マントの王様と、倒れた椅子があった。
(……なんだ、どういう状況だ)
王は固まったまま動かない。見られてはいけないものを見られてしまったようだ。しかし、自然な流れでサリの口から指を引っこ抜いた王はフラットの方を向き、何事もなかったかのように言い訳を始めた。
「違うんだ、少年」
「あ……」
「ううう」
サリが苦しそうに呻いている。
「悪い事をしていたのではない」
「サリは? 無事ですか!?」
「! ……ふむ」
王は一瞬目を見開くと、頭に生えている立派な角を一撫でし、その美しい無表情に笑みを浮かべた。フラットはその妖しい笑みにぞっとした。
「声が、戻ったか」
「え? ……あ!」




