35 FLAT
部屋の中は黒くて暗いけど、ベッドにはお姫様らしい天蓋がありレースのカーテンが降りていた。黒いけど。ロルカがベッドの側でサリ様、任務完了いたしましたの、と声を掛ける。くぐもった声でごくろうと聞こえた。
ベッドから身支度をしているようなのそのそという音が聞こえる。フラットがテーブルについて待っていると足元に何かが転がってきた。
「ふ」
「ふすふす」
小さな黒い生き物だった。抱き上げて膝に乗せてやるとフラットの顔を見上げてにっこりと微笑んだ。え、笑った? フラットはどきりとしたが、小さい生き物はまたすぴすぴと寝息を立て始めてしまった。見間違いか……。小さな生き物の頭を優しく掻いてやりながら部屋の中を見渡す。緑の部屋より広い。ほぼ黒に近い焦げ茶色のドレッサーと、同じ作りの大きなクローゼットが並んでいる。フラットが座っているテーブルセットの他に装飾がされたソファが一つと黒いレースのカーテンを背にした机と椅子のセットがあった。家具しか見当たらない。
「?」
あれはなんだろう。黒い部屋の中に色味のある物が目に止まった。茶色に見えるけどオレンジだろうか。ドレッサーの前に置かれたスツールになんだかフリルの着いた布があった。光沢のあるその布はドレスの様にも見える。
「……」
「……!」
視線を感じて横を向くとサリが深く被った黒いフードの縁から黒い目でこちらを見据えていた。じろじろと部屋の中を見られては気分が悪いだろう。フラットは後頭部に手を当てて少し頭を下げて謝罪のポーズをとった。サリは頷いて返事をした。
「ロルカから話は聞いた?」
「ふ」
首を横に降って答える。大変な事態としか聞いていない。サリはふむ、と顎に手を当てると窓の方を見た。
「私もまだ確認できていないのだけど、外を見て確認してほしい」
フラットは椅子から立ち上がると窓の方へ向かった。一体何があったんだろう。カーテンにてをかけて一度サリの方を振り向く。サリは枯れ枝のような手でフードの端を引き下げ顔を隠すと、指でオッケーのサインを出した。そろっと厚手の黒いレースのカーテンを少しだけ避けて外を見る。空には目を見開いた顔をした眩しくない太陽と……。
「!」
前に見た時とは明らかに違うひび割れた地面があった。もっとよく見渡してみると端の方は崖のような大きさの地割れが起きていた。
「今は地割れが起きていると参謀から聞いたのだけど、この世が崩壊しそうなんだ。王がこの世にいないと水底の世は維持できない」
「……」
王様は不在のままなのか。いつ戻ってくるのか。ロルカの方に目をやると、首を横に振った。
「まだ戻っていないのです。呼び戻す方法もありませんのよ……」
「私が伝えに行けたらいいのだけど、この身体では難しいんだ」
そうだ、サリの身体は人間と同じと言っていた。どういう事なのかはわかっていないけれど、身体が弱いのも話を聞いているとその為だと思われた。
「サリ様は無理をしないでくださいまし! 我が主に行かせるくらいならは私がピッと行ってまいります!」
「それはだめだ」
「サリ様!」
サリは今にも走り出しそうなロルカのワンピースをむんずと掴んで引き止める。
「ロルカは城から出たら消えてしまう」
「ふ……じゃあ、行きません」
「良い子だ」
「……」
諦めが潔い。ぼろぼろと涙を零すロルカの頬を拭って私も行かないから、とサリが宥める。主の優しさに感激したロルカの涙は滝のように落ちていく。
「……とにかく、今重要なのはこの城の中にいる者たちの安全。だからできるだけ皆同じ場所に集まろうと思う」
「ふ」
「そうだ、さっきシシモが来たんだ」
「あら、いつの間に」
「参謀とジルに大広間に集まるように伝えてもらったから私達も大広間へ行こう」
「かしこまりました!」
「ふ」
大広間とは舞踏会を開くところだろうか。ジルとは誰だろう、初めて聞く名前だが会った事はないはず。サリの体調は問題ないのだろうか、平然と話していたが顔色はやはり良くないように見えた。暗い部屋のせいだろうか。サリが扉から出ていくのについていく。
(言葉が、話をしたい)




