31 A Brain
城の最上階にある展望室はまさに王がこの世を展望するためだけに作った部屋だ。争いも略奪も起こり得ないし、展望する物も特にないので誰かが凹んだときに引きこもるための部屋として使われていた。ロルカの本やシシモのヤギのぬいぐるみ参謀の眼鏡コレクションなどそれぞれの癒やしグッズが入って右側の壁の棚に収まっている。その反対の壁にある窓から参謀は外を見渡した。
「な、なんだこれは」
参謀が予想したよりこの世の状況はよろしくなかった。真ん中池の水はやはり減っているようだが、それより地割れが酷い。もう少し進んだらこの世がばらばらになるのが想像できてしまった。
「王よ……」
参謀は祈るように手を組むと、今度はこの世の姫に報告をするために急いだ。起きているだろうか。
展望室からの暗い階段を下っていると何か話し声が聞こえた。影だろうか。
「……ここはどこ、間違えたわ」
ロルカだった。なんと丁度いい所に迷い込んでくれたのか。参謀はロルカに声をかけた。
「あら参謀さん!」
ぱっと花を咲かせたような笑顔を参謀に向けたロルカは食堂に行こうとして通り過ぎて階段を登ってきてしまったところだった。
「丁度よかったです。サリ様はお休みになりましたか?」
「サリ様ですか? 先程お部屋へ戻りましたばかりですの。まだ眠ってはいないかもしれませんが、一段と頭が痛むようで……」
ロルカの瞳に涙が盛り上がり始めた。眠ってしまう前にもう一杯ミルクティーを用意しようと食堂へ向かっていたそうだ。
「それでは私も一緒に行きます」
「ええ! 助かりますわ」
でも、とロルカは参謀の顔を覗き込んだ。なにかありましたの? と恐る恐る訊ねるロルカに顔がこわばっていた事に気づいて頬をもんだ。
「はい、大変な事態です」
「まあ!」
二人はとにかく食堂へと急いだ。
食堂へ辿り着くと大きな食卓テーブルの席にバルバタが座っていた。
「おや、二人お揃いとは珍しいな」
「バルバタ……」
「あらこんばんは」
「ん? 参謀殿はどうしたんだ」
参謀の何か考え込むような様子に気がついたバルバタは座るように促した。ロルカはトロリーを取り出してティーカップなどの準備を始める。
「二人がいてくれて心強いです」
突然の参謀からの褒め言葉にバルバタとロルカは頭をかいて照れた。
「この世が崩壊しそうです」
「え!」
「なんだって?」
がたがたがちゃがちゃと音を立てて立ち上がったりカップを割ったりする二人に参謀は状況を説明した。
「それは、大変……」
「ああ、大変だが……しかし王様がいないとどうにもならないな」
「ええ、そうなんです」
私達がばたばたしたところでどうすることもできないのですと参謀は項垂れた。とりあえず、サリに状況を報告する必要はあるが、サリに言ったところでどうにかなる話でもなかった。
「アジエーリダはどこにいるのかしら」
「そういえばだいぶ見てないな」
「彼が居てくれたら何か案も浮かんだかもしれないが、いない人の事を考えてもどうにもできません」
「まあ、そうだな」
「はい……」
「ロルカ、準備はできましたか?」
「あ、はい。行けますわ」
二人はサリの部屋へ向かうことにして、バルバタは広間で影たちに変わりはないか様子を見に行くことにした。




