26 UNDER WATER
「この世は全て創られたもの。フラット、あなたの世界は生きている人達が生活をしていると思う。この世は死んだ者の世界」
「……」
「本来この世には生きた者は来れない、はずだった。人間はもちろん生のあるもの、動物や草花や、生物など」
「……」
「私達、シシモやロルカ、その他数名はこの世の者として存在しているけれど、残りは死んだ者達の魂が元の形を真似している。物体としては存在していない」
フラットはサリの黒い瞳を見つめて話を聞いていたが、初めから理解が追いつかなかった。死んだ者の世界? それじゃあ自分は、まさか……。フラットの瞳は動揺を隠せず揺らいだ。
「大丈夫だよ! フラットはまだ死んでないよ!」
「!」
フラットの不安に、先に気がついたのはシシモだった。シシモはとても賢い。サリもシシモの言葉にはっとして、淡々と説明だけしてしまったと反省した。
「すまない、まず説明をと思って、つい」
「! ふ!」
フラットは申し訳無さそうに頭を下げるサリにぶんぶんと頭を振った。ちょっと気持ち悪くなった。
「シシモの言う通り、あなたはまだ生きている。だけど、やはりこの世に来たせいで声を無くしてしまった。それは元に戻せるのか今のところわからない」
「……ふ」
「なぜ、あなたがここに居るのかは、犯人から話をさせようと思う」
「ふ……」
「王様だよ!」
「!」
犯人とはあの黒いマントの事だろうか。フラットはあの足が沈む感覚を思い出して背筋が冷えた。
「顔色が良くない。続きはまたにしよう」
「ふ。……ふ?」
「ん?」
「サリも顔色悪くなーい?って」
微熱による赤みのあるフラットとは反対に、サリの顔色は青白いというより、透けてしまいそうな状態だった。
「そうかも、少し疲れたかな」
「それじゃあ3人でお昼寝しよ!」
「うん、そうだな」
「!?」
え? ここで? このベッドに三人で? 寝れる広さはあるけど、お姫様じゃないのか?
困惑するフラットにサリは、いや、と首を振って頭だけをベッドにもたげた。
「私はここで」
「じゃあ僕はここで」
サリのもたげた頭の近くに頭が来るように、シシモはごろっと寝転んだ。サリのふわふわの黒い髪を弄っている。フラットはあっという間に眠る体制に入ってしまった二人に呆然としたが、やはり身体がだるいので布団に潜り込み直した。
「あ」
「なに?」
「その前に空を見なくては」
サリはのそっと立ち上がると緑のレースのカーテンがかかる窓辺へと近づいた。空に何かあるのかと、フラットも身体を起こしてサリの視線の先を探す。
「ああ、もう出ていた」
「?」
「あ! 地球だ!」
「ふ?」
「そこから見えるか? あの月の隣りにある青い星。地球という星だ」
「ふ……」
フラットは窓の向こうに見える黒い空と月、そして青い星に目を見開いた。こんな空は見たことがない。星と言ったけど、自分の世界でみる空に広がる小さな星ではなかった。月と同じくらい、いやもっと大きい青い星。しかも、なんだかちょっとゆらゆらしている。ちゃぷちゃぷというか……。
(ああ、本当に違う世界なんだ……)
「空に浮かばせる瞬間が見物なのだけど、また今度の楽しみにしよう」
サリは満足したのか、ベッドの横の椅子に座り直すとベッドに頭を乗せて眠る体制に入った。戻ってきたふわふわの頭をシシモがまた弄り始めた。フラットも身体を倒した。緑だけど色の濃い天井を眺める。声が出なくなった。別の世界に来てしまった。しかも死んだ後の世界? 元の世に戻れるんだろうか。
「わ!」
「!」
フラットがちょっと泣きそうになりながら考えているとシシモが叫んだ。サリのふわふわの髪の毛がモゾモゾと動きながらシシモの顔の上を這っていた。ちがう、これはあの時の黒い生き物だ! フラットはばたばたと手を動かすシシモの顔から生き物を取り除いた。
「ああ、すまない忘れていた。フードの中に入れたままだった」
サリがのそりと起き上がり小さな黒い生き物をフラットから受け取った。
「そうだ、この子の名前を考えなくてはいけなくて、なにかいい名前はないだろうか」
すでに眠たそうな顔をしているサリが小さな黒い生き物を撫でながらフラットにたずねた。いい名前。フラットは、腕を組んで考えた。名前なんて付けたことがないからぱっと浮かんでこない。
「じゃあ、寝ながら考えておいて」
「……」
自然な流れでベッドに頭を寄せるとサリはすやすやと眠りについてしまった。なんと無茶な事を。
「ふふ、こういうところがね、王様に似てるんだよ」
「……ふ!」
くすくすと笑いながら小さな声で話すシシモにフラットも顔を綻ばせた。不安な事を考えても仕方がないのかもしれない。とりあえず休もう。




