25 PRINCESS
広間にやってきた。ひそひそ、こそこそ影たちが存在をアピールしている。サリは辺りをくるりと見廻した。バルバタがいないな。どこからともなく現れる彼は広間に留まらず城中を浮遊していた。今はどこにいるのだろうか。特に気にすることではないので、影たちの相手に戻る。
「……ちょうちょ……ちよ…」
サリは一人の少女に目を向ける。影たちには珍しくサリと同じ黒い髪をしていた。
「ちょうちょがいたの?」
「ううん……ちゃん……」
「ちょうちょちゃん?」
「……そうかな……ちよちゃん……」
「ちよちゃん。名前?」
少女はお喋りをやめてぼうっと何処かを見つめているようだった。返るにはまだ早かったみたいだ。
他に話をしたそうな影は見当たらなかった。サリは少しこめかみの辺りを抑えるとため息をついた。痛みは出ていないが少し休んだほうがいいかもしれない。しかし例の少年も気になる。体調は良くなっただろうか。やはり休む前に緑の部屋に向かうことにした。
廊下に出ると階段から空を眺める。月は真ん中池の真上を少し通り過ぎたところだった。今日は地球を空に浮かべると時の番人ジルからの報告があったが、まだ見当たらない。地球が浮かぶ瞬間を見れるだろうか。白い月が浮かぶ空に突然ぽちゃんと他の星が浮かぶ瞬間は、見れるとなんだか嬉しくなるものだった。
細い通路を進んで扉に嵌まっている石をなぞる。緑色の石がつるりと燭台を反射して輝いた。軽く扉をノックすると軽い返事が返ってきた。
「はーい! あ、サリ! まってたよお」
「うん」
扉を開けてにっこりと微笑むシシモの頭を一つ撫でると、奥のベッドの方に目を向けた。
「ふ!」
「……?」
「こんばんは、だって!」
「ふ!」
「ああ、こんばんは」
ずいぶんと仲良くなったようなシシモが少年の通訳をしてくれた。ベッドの横の椅子にゆっくりと腰掛けると少年の顔をじっと見つめた。疲労が残っているような顔をしているが、優しそうなほほえみを浮かべている。怖い人ではなさそうだ。
「体調はどう?」
「ふ!」
「元気!」
「声が出ないと聞いたけど他におかしなところはないだろうか」
フラットは手のひらを握ったり布団の中で足を触ったり身体をひねったりして身体を確認した。
「ふ!」
「問題ない!」
「そうか。だいぶ熱が高かったようだけど、今はどう?」
自分のおでこや首元を触って熱を計る。まだ微熱がありそうな熱さがあった。
「ふ」
「元気!」
「……そうか」
シシモかにこにこと通訳をするのでつられてふふっと笑ってしまった。
「念の為また氷水を用意しておこう」
「ふ!」
少し困った顔をしていたフラットはサリの提案に頷いてみせた。
「自己紹介がまだだった。私はサリ。この世の住人だ」
「……?」
この世? そう聞き返したかったが言葉が出てこなくてもどかしい。シシモは通訳に飽きたのか一緒に首を傾げていた。
「……此処が何処なのかわからないと思うから、ひとまず説明をしようと思うのだけど、身体がだるくなったら教えて」
「ふ」
フラットはこくりと頷いた。




