24 KLANTROIS
城の中を自由に動き回れるようになった王はひとまず手当たり次第に彷徨いた。すぐに伝達されたのか、どこへ行こうとも止められることはなかった。それどころかすれ違う者皆、王に対して敬礼や頭を下げるなどの態度を取った。しばらく同じ形を取って返していたが、やり返された相手が恐縮な態度を取るので煩わしくなって気にしない事にした。
城の中至るところにビシルテオの塵は存在していた。クラウディオの所に集まっていると踏んでいたが、力が持たなかったのか散り散りの塵となり空気に乗って飛んでいってしまう。しかしどれも薄まったものに過ぎず、城中の塵埃を回収して回るようなものだった。こちらの世に来てまるっと一日経ってしまっている。早い所全てを集めなくては、この新しい網を使って。
「ふむ」
王はやれやれちょっと面倒になってきたところで、一つの大きな扉の前にたどり着いた。黒く、重たそうな鉄で出来たその扉は、この明るい城には似つかわしくなかった。よくよく見てみると黒い部分はビシルテオの塵だった。なんともはや。城中に散っている塵のせいで塊の気配に気がつけなかったようだ。王は敬礼をしている門番に此処はなんだと聞いてみた。
「は! この扉は地下牢に繋がっております!」
「地下牢」
「は!」
もしかしたら、この城の闇の部分に惹かれてそちらへ行っているかも知れない。王は地下牢へ行ってみることにした。重たい扉が重たい音を響かせて開く。なるほど、この扉で気配が薄まっていたようだ。扉から続く長い廊下の先からビシルテオの気配が強く漂ってきた。
「こちらの灯りをお使いください」
「いらぬ」
「は、は!」
門兵の心遣いを断り先へと足を踏み入れた。これは中々、見たことも感じた事もない程の渦々しい空気が流れている。王は気配に引き寄せられるように奥へ奥へと足を動かした。暫く狭い通路階段が続き、地下へたどり着くと四角い広い空間に出た。淀んでいる。左右の壁に3つずつ鉄格子で区切られた牢があった。しかし入っているものはいない。正面の壁には国章だろうか、何かの葉の絵が付いた旗が吊るされていた。王は真っ直ぐに進むと旗を捲る。旗の下にはぽっかりとあいた穴があり、更に暗い通路が隠されていた。闇だ。此処にいる。王は確信を持ってその闇の中へと入っていった。
「そのお客人は、本当に信じて良かったんですか?」
「ああ」
「いくらアジエーリダの紹介だと言っても、自由に城の中を歩かせるのはいかがかと思いますぞ」
「問題ない」
「殿下……」
オトレイは信じてはいるが、危なっかしい所のあるこの国の王子に頭を抱えていた。
「本当に大丈夫だよ。それより城下町の流行り病の方はどうだ?」
「はあ、まだ収束の様子は見られません」
「そうか……」
弟は大丈夫だろうか。城下町からは遠い町にいるが、何処まで病が広がっているのかわからない。様子を見に行きたいが、この黒い空気が漂う中簡単に城を空けることはできない。
「殿下……」
「ん? ああ、大丈夫。そのうち収まるよ」
「……くれぐれも、城を抜け出すような事だけは控えていただきたい。貴方まで病に倒れては」
「わかっている。大人しくしてるよ」
何を考えていたかはお見通しのようだった。このオトレイという男はこの国の元第一騎士団の団長であり、現在は総隊長として騎士団の全てを取りまとめて貰っている。しかし屈強な筋肉に囲まれたその身の内側はかなりの心配性なのであった。それもこのクラウディオ王子を思っての事なのだが、怖がりなのである。
「しかし気になるんだよ。オトレイ、代わりに様子を見に行ってくれる者はいないかな」
「……そうですね、私が参りましょう」
「ええ! それなら私も付いていくよ! 君ばかりずるいんじゃないか?」
「ずるい?! いいですか、私は貴方が病に倒れてしまう事を心配しているんです。原因がわかっていない以上、城の外へ出る事は許しません」
「はあ。わかっている。言ってみただけだ」
どうか、弟に災いが起こっていませんように。




