23 KING&KING
「私にとってアジエーリダは神の使いでした」
「神」
王は思わず声に出して驚いた。
「国を建て直すのに必要な物を持っているようで、本当は何も無かった私には、彼の存在は藁にもすがるような物でした。私の知らない事をなんでも知っているようだった。畑も街もどうしたら早く落ち着けるか、彼の知恵に頼りきりだった。そして、漸くここまで来た」
「ふむ」
クラントロワは王も気にしている国だった為、クラウディオの頑張りや成果は見ていた。真にあっぱれと賞賛したいが、まさか息子が関わっていたとは知らなかった。
クラウディオは一度息を吐くと王の金色の瞳を見据えた。
「先程、言いました。私にはわかると」
「ふむ」
「実は昨日から街の様子がおかしい。良くない物が彷徨いているんです」
「お……ふむ」
王は少し動揺した。クラウディオの形の良い目元から除く青い瞳が炎の様に揺らめく。
「あれは、先王ではないかと、思うんです」
王は責められている様な気もしたが、だったら話は早いとすぐさま気持ちを切り替えた。
「ふむ」
「あれをどうにか片付けねば、大きな火が付いてしまうかもしれない」
その可能性は大いにあり得る。王はクラウディオの目元に疲れがある事に気がついた。愛しい我が娘の色を無くした顔が過る。
クラウディオは知らず力の入ってしまっていた肩を下げて大きく息を吐いた。
「先程わかると言いましたが、アジエーリダから聞いていたんです」
「ふむ?」
「用事が出来たから実家に帰るけど、お客さんが来てるから知恵を貸してもらえと」
「ふむ、そうであったか」
「わかると言っても、その言葉がなければ、貴殿にお会いする事も無かった」
「そうか」
クラウディオは真っ直ぐに王の瞳を見つめると頭を下げた。
「どうか、力を貸して頂きたい」
「ふむ、頭を上げよ」
王は角のある辺りを掌で撫でた。頭を下げられることではない。この国に良くない物がいるのは王のちょっとしたミスだった。しかし、生きた人間に取っては重大な、限りのある命に関わる事象なのだった。
「すぐに回収する」
「! 誠ですか……」
「ふむ……あれが出てきてしまったのには我にも責任がある」
「責任……?」
「此度こちらに来たのもあれを回収する為」
「そう……だったのですか」
クラウディオは王の発言に訝しげに眉根を寄せた。どのように関係しているというのだろうか。しかし、クラウディオは王を信用した。クラウディオはわかると言ったが、人を見抜く目があるのだ。王の事も人間ではないが悪い人では無いと言うことがはっきりとわかっていた。
「どのような経緯があったにせよ、我が国の民を助けていただけるならこちらに協力できる事は教えていただきたい」
「ふむ、かたじけない」
王は顎に手を当てると少し考える素振りを見せた。
「もう一晩、部屋を借りる」
「はい、もちろん構いません」
「城の中を自由に回らせてもらう」
「鍵のかかっている部屋もありますが」
「問題ない」
「そうですか、わかりました」
「それから」
王はクラウディオの長い三つ編みを見てこう言った。
「その髪をいただきたい」
「髪……ですか?」
「ふむ」
ビシルテオの塵は先程街を見てきた通りかなり薄く広まっている。集めるのに時間が掛かってしまうだろう。そこで、王は入れ物を作ろうと考えた。ビシルテオの一番の狙いはクラウディオだ。そのクラウディオの髪で編んだ網を使えば簡単に集められそうだと、クラウディオの長い三つ編みを見た時に考えていたのだった。
「……それは全てですか? できれば一束残したいんです」
「ふむ、構わぬ」
「それならば構いません」
全部は無くても足りるだろう。しかし髪などまた伸びるだろうに、必要なのだろうかと王は首を傾げた。不思議に思われただろう事はクラウディオにもわかった。女でもあるまいし、大切に伸ばしているわけでも無かった。しかし、数日後に必要なのだ。
「実は、近く私の戴冠式があるのです」
「ふむ、知っている」
「古い慣わしですけど、この国の王族の子供は皆髪を伸ばして結ってきました。私はもう子供ではありませんが、王位にも付きませんでした」
はて? しかしあの少年は……王は我が世にいる少年の姿を思い出そうとした。
「国民には公表してませんが、私には弟がいるんです」
ふむ、やはりあの少年だろう。
「戴冠式で私の髪を弟に切ってもらう予定なんです。弟のお披露目も兼ねて」
「ほう」
なんにせよ、一束残っていれば良いということなので、遠慮なくいただくことにした。王は鋭い爪をナイフのようにして切り落とそうとしたが、今は人間のフリをしているので爪も短かった。本来の姿に一度戻るとクラウディオの三つ編みになっている端の方の二束を爪で切り落とした。
「……」
「ふむ、これだけあれば充分」
王は満足そうに髪の束をしまった。
「時間がない。すぐに回収へ行く」
「あ、あの!」
「ふむ?」
部屋を出ていこうとする王をクラウディオは焦ったように止めた。
「なんか、角? 出てます……」
「……ふむ」
王は両手で角を撫で仕舞うと、人間のふりをして応接間を出ていった。
「……かっけー」
天然なのかもしれない、という思いと同時に何事にも動じない王にクラウディオは憧れを抱いた。




