表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CASTLE  作者: トロール
19/77

19 Karde

「フォンテ君、少しいいかな」

「学長。はい、なんですか?」


 この日の午前の勉強は畑や家畜の育て方を学ぶ農耕の時間で最後だった。早く帰ろうとノートや筆記具を片付けているとカルデの学校長にフォンテは呼び止められた。


「君はこの学校を出たら、この先はどうするか考えているのかい?」

「あー、はい。いえ、まだです」

「そうか」


 学校長は整えられた立派な口髭と後ろに流された白髪混じりの髪で、少し怖い印象を受ける容貌をしているが、元は騎士団の一人でクラウディオ王子から直々に学校を任された人格者だった。話しかけられると緊張してしまうが、どうやら進路についての話のようだった。フォンテは協調性もあり、どの分野の勉強でも卒無くこなす優秀な生徒だ。学校では一番の年長組でもある為他の生徒からも兄の様に慕われていた。先生達からの期待も大きかった。しかし、フォンテ自身はそんな大人達の期待には全く気が付いていなかった。


「先生達の間ではね、君は城の中に入ってもやっていけるんじゃないかと押す声が多いんだよ」

「僕がですか……?」

「ああ、君はとても優秀だよ」

「そんな事、ありません」


 このカルデの学校には騎士団志望のクラスがあり、運動能力に長けたものや騎士団に憧れを持つ者はそちらのクラスで必要な教養を身につけるのだ。フォンテ達は通常の勉強しかしていないのだからまさか騎士団を勧められている訳ではない事はわかっていた。しかし、ならば学校長が勧めているのは王やその周辺の人物の側近の事ではないのか。謙遜などではなく、フォンテは本当にそんな事は無いと思っていた。やるべき事をやっているだけ、指示があってそれに沿って動いているだけだと。いくら国を建て直している所だからといっても、自分の様なただの子供が国の中枢に入ってやっていけるだなどと考えた事も無かった。


「まだ考える時間はあるが、あっという間だ。また近い内に話をしよう」

「はい……」


 考えてみてくれと学校長はフォンテの肩を軽く叩いて去っていった。


「お城で働くなんて考えられないな……」


 学校を卒業すると、畑を持ったり食堂や宿屋、雑貨屋で働いたり、またはまだ小さな子供たちの面倒を見る養育所で働いたりするのが普通だった。騎士団志望の者達は入団試験を受けて合格すれば晴れて騎士団だった。しかし騎士団の仕事は幅広く、新人は畑の手伝いや通路の整備などから始まり騎士団団長の側近まで階級を登っていくには相当な実力が必要だとされていた。その騎士団を除いて、学校を卒業してすぐに城の中へ入ったのは片手で数えらる程度の人数しかフォンテは知らなかった。国民の誰もが知っている様な天才と言われるような人達だった。まさか自分に声が掛かるだなんて、本当に思っても見なかったことで、フォンテはかなり動揺してしまった。


「……帰ろう」


 そうだ、取り敢えず帰って、メリーの顔を見れば落ち着けるかもしれない。体調はだいぶ良くなっただろうか。フォンテは少しふらつきながら妹の待っている家に帰る事にした。

 学校を出るといつものような賑わいが無かった。土を慣らした運動場では遊んでいる子供も騎士団クラスの力比べも何もやっていなかった。学校の前庭でお喋りをする人も居ないようだった。ここ最近ではクラウディオ王子の戴冠式も近く、お祭の様な賑わいがあったから尚更寂しさを感じる。妙な静けさにフォンテは不気味さを覚えた。しかし、住宅街に近付いてくると外に出ている人の姿も少しだがあった。よく行くパン屋も通常通りに動いているようでドアからお客さんが入って行くのが見えた。フォンテはメリーに甘いパンを買って行く事にした。柔らかい生地に細かく砕いたトウカがかかっているメリーの好きなパンだ。


「こんにちは」

「フォンテ、いらっしゃい」


 店内に入ってみるとパン職人の店主がフォンテに挨拶をしてきた。


「メリーは一緒じゃないのかい?」

「はい。今日は風邪を引いたみたいで学校は休んだんです」

「それは可哀想に。いや、うちのも風邪を引いててね」

「え! そうなんですか」

「ああ、ずいぶん流行ってるみたいだなあ」

「学校も休んでる人が多くて午前で終わりになったんです」

「そうなのかい? 嫌だね、なんだか悪いもんが流れてきたんだろうか」


 店主とフォンテは困った顔をしてお互いに風邪が移らないように気を付けようと頷きあった。

 ミリおばさんにも今日のお礼のパンを買って家に帰った。その短い道中にも二度医者の姿を見かけた。メリーの様子が気になる。


「ただいまー」

「お兄ちゃんおかえりなさい」

「メリー! 起きてて平気?」

「うん、すっかり良くなったみたい」

「そっか!」


 家に入るとメリーが出迎えてくれた。顔色も良く、本当に体調が回復したみたいだ。


「学校でも風邪が流行ってるみたいで今日は早く終わったんだよ。フラットも休みだったんだ」

「え、そうだったの?」

「うん、みんなも良くなって明日には学校に来れるといいな」

「うん……フラットは大丈夫かしら」


 すっかり元気になったメリーは頭を傾げて友人を心配した。きっと、メリーと同じく良くなっているだろうと、エリダも見舞いに行っていると伝えるとメリーは安心したようだった。


 しかし、次の日もフラットの姿を見ることはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ