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CASTLE  作者: トロール
15/77

15 Cicimo

ロルカはサリがこの食事を嫌いな事をもちろん知っていた。いつも渋る。しかし、サリがこの世で生きて行くには欠かせない貴重な食事なのだ。特に最近は体調が頗る悪い。倒れてしまう様な事が起きたらもう起き上がる事はできないと、ロルカだけではなくこの城の者皆が思っていた。その時の事を考えただけでもロルカは泣きそうになってしまう。だから嫌でも口にしてもらう。出来るだけたくさん。少しでも太らせたかった。


「サリ、えらいねー」

「……ありがとう」


 シシモはどこかで目にした子供を褒める大人の真似をしてサリの食事を応援した。


「サリ様、お食事が終わりましたらお部屋で休んでください。すっかりと太陽が昇ってしまいましたわ」

「ああ、そうする。シシモはどうする」

「僕は、どうしようかな……」


 シシモはちらりとサリの顔を伺った。本当はサリと一緒に暗くなるまで眠りたかったのだが、シシモもサリの顔色が良くない事に気が付いていた。しっかりと休んだ方がいいだろうと、幼いながらに気を利かせたのだった。


「お城の探検をしようかな」

「……そうか」


 サリもいつもの様にシシモは部屋についてくるかと考えていたのだが、予想外の返事が返ってきた。シシモはこの世の民ではないからなのか生きた人間の用に体温が高い。同じベッドで眠れば暖かいのにと少し残念に思った。しかし今は小さな生き物が居るからと、サリは小さな黒い頭を優しく撫でた。


「そういえばその子は誰なの?」


 サリが頭を撫でている生き物に目をやったシシモは思い出したように尋ねた。


「黒き獣ピリリの子供」

「お名前はまだありませんの?」

「サリが付けてあげるの?」

「そう……なんだけど、何か良い名前を知らない?」


 実はサリも悩んでいた。この小さな生き物に名前を付けてやらねばならない。黒いからクロにしようかと、しかし簡単過ぎないか、あのピリリの子なのだから相応しい名前が無いものかと考え倦ねていた。


「ピリリの子供だからピララは?」

「フローラなんてどうです?」

「……他にないかな」


 サリは失礼にも相談する人選を誤ったかなと思った。


「この少年はなんという名前を持っているのでしょうね」


 ふと、ロルカが少年を見て呟いた。この少年にも名前があり、家族も居て、こんな所に居るだなんて誰も想像が付かないだろう。早く無事にあちらの世へ帰してやりたいと改めて思った。


「サリ様、後は私が彼を見ていますからお休みになって下さい」

「僕はサリをお部屋までエスコートするよ!」

「よろしく頼む」

「シシモ、お願いね。おやすみなさいませ」


 恭しく頭を下げるロルカを残してサリとシシモと小さな生き物は緑の部屋を後にした。


「サリ、眩しい?」

「いや、このくらいなら平気」


 薄暗い城の中も窓から射し込む太陽の光の小さな筋で普段よりも大分明るかった。サリはこんなに明るい時間に部屋から出ている事が久しぶりで眩しいとわかっていても窓の外を気にして目をやってしまう。民の気配も暗い刻よりも大分静かだった。しかし全く居ないという訳でもない。今も笑い声が聞こえていた。


「ふふ……あ……はは」


 どうやら三つの影が光に当たらないように遊んでいる様だった。あちらの世で生きていた時は太陽の光を浴びて遊んでいたのかも知れない。サリはふとシシモを見た。この城の民達がどういった者達なのか知っているのだろうかと疑問に思ったのだ。


「シシモ」

「なあに?」

「そこで遊んでいる彼らは、この世で生きている」

「うん」


 もちろんそうだよね、とシシモは微笑んだ。でもちゃんと知っているよ、と言葉を続けた。


「人間たちの世界では命が身体から離れちゃったけど、王様が迷子になってる人達を見つけてきたんだよね」

「ああ……そうだ。よく知っている」

「ふふふ」


 シシモはサリに褒められて嬉しそうにはにかんだ。


「緑の部屋で寝ていた少年は……あちらの世から、命と身体を繋げたまま此方へ来たんだ」

「え? それってどういうこと?」

「つまり、まだあちらの世でも生きているという事」

「!!」


 サリはなんと説明をしたら良いかと考えたが、頭の良いシシモには十分理解出来た様だった。


「じゃあ、もしかして、あのかっこいいお兄ちゃんは、腐ってるの?」

「?」


 シシモが言っていることは最もだった。生きてこの世に来れる者は無いのだ。肉や野菜、草木も、まして生きた人間なんて石化するか腐ってしまうか。その為にシシモの住んでいる世からだけ無事に持ってこれるヤギのミルクをシシモが配達して来ているのだ。大好きなサリの為に。そんな所なのに、何故生きた人間がそのままこの水底の世にいるのか、シシモが驚くのも腐っているのかと問うのも当然だった。


「いや、そうじゃない。はず」

「はず?」

「目を覚ましてみないとなんとも言えない」

「そっかー」


 シシモは腕を組んで頭を傾けた。自分の知っている事で役に立つことは無いだろうかと、うんうんと唸り小さな頭で考えた。そうこうしているうちにサリの部屋の前の細い廊下に辿り着いた。ここまで来ると大分暗い。サリも眩しそうにはしていないようだった。


「僕はお城を探検してくるね」

「ああ。ありがとう、シシモ」

「うん!」


 シシモはサリに手を振ると図書室へと足を向けた。

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