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CASTLE  作者: トロール
12/77

12 Small Black

サリがロルカにどうやって氷を取ってきてもらおうかと考えていると、サリのマントのフードがもぞもぞと動いた。


「きゃ! ……何かいますの?」

「ああ、そうだった」


 もぞもぞとサリの肩辺りが動いたかと思うと、フードの中から黒い塊が顔を出した。


「ピリリの子供だ。王とピリリから授かった」

「まあ! 可愛らしいですね」


 小さな獣は上手にサリの肩から腕を伝って少年の眠るベッドに降りると落ち着ける所を探し少年の腹の上で丸くなった。

 ロルカの視線が小さな獣に移ったことを確認したサリは、やっとロルカに氷を取ってきてほしいと言う事ができた。


「私とこの子で少年を見ておくから、氷を取ってきてくれないか?」

「ええ、この子が一緒なら安心ですわ。かしこまりました」


 ロルカはにっこりと微笑むと緑の部屋から出ていった。サリはこっそりと詰めていた息を吐いた。ロルカの座っていた椅子に腰を降ろすと、足元に本が落ちている事に気がついた。きっとロルカの物だろうと本を持ち上げる。


「王様と私……愛の魔女……」


 そっと閉じるとベッドサイドのテーブルに置いておいた。

 それにしても、と少年を見る。未だにしっかりと手を取られてしまっている。少年の指を一本ずつ外して自分の手首を確認する。自分でも枯れ枝のようだ、と思い袖を伸ばして隠した。小さな獣はすっかりと少年の腹の上で鼻息を鳴らして眠ってしまっていた。


「そういえば、土星は空に上がっただろうか」


 サリは少年の眠るベッドを周り、窓から空を眺めた。緑の薄いカーテン越しに太陽が登り山から見え始めていた。見損なってしまったな、とフードを深くかぶり直した。眩しい光を見てしまったせいだろうか、こめかみの辺りがちりちりと痛んだ。

 サリは窓に凭れ掛かると少年を眺めた。金色の髪、高い鼻、ふさふさの睫毛。手首を掴んだ大きな手は豆があって硬かった。王子の様な顔だが農村の少年だろうか。あちらの世ではまだ時間はそれ程経っていないだろうが、家族は心配するのだろう。

 まずは少年が目を覚まさなくては本当の無事を確認する事が出来ない。サリは考える事をやめ椅子に座り直すと、痛みが強くなってきた頭を少年の眠るベッドに乗せ目を閉じた。きっとロルカは迷ってしまうから、氷が来るまでの間だけ休む事にした。


 此処は何処だろう……暗くてひやりとした空気が肌に纏わりつく。なんだかとても寒い。さっきまで何をしていたんだっけ……。そうだ、足音が、雨に紛れて、黒い影が、池で溺れて、いや違う! 地面に脚から沈んで、それで黒いマントが! やめろ!来ないでくれ! 誰かいないか! 助けて、助けてくれ! 


「ギャン!」

「っ!」


 少年に短い尻尾を掴まれて小さな生き物は悲鳴をあげた。


「……」


 此処は、何処だ。

 悪夢から目覚め飛び起きた少年は辺りを見回した。じっとりとかいた嫌な汗がとても不快だった。緑色のカーテンから朝日が薄く部屋を照らしている。どうやらベッドの上にいるようだ。清潔そうなシーツは深い緑色をしていた。壁も淡い緑色だ。家具も、カーペットも全て緑でできた部屋に居た。そんな中に二つの黒い物があった。少年は小さな唸り声を出している小さな動物を目で捉えた。犬だろうか? その小さな動物の横にある黒い塊に目をやった。大きな黒いフードで顔は見えないが人の形をしている。

 誰だろう。ベッドにいるという事は、看病してくれていたんだろうか。

 少年が唸り声を出し続ける小さな動物を撫でてやると、小さな動物はすぐに機嫌が良くなり隣で眠る人に寄り添うと丸くなった。

 少年は眠っている様子の人のフードをそっと退かした。黒いふわふわの髪が見える。子供だろうか。小さな動物と同じように優しく撫でた。こんなに真っ黒な髪を見たのは初めてかもしれない。自分とは違う国の人だろうか。少年の手が煩わしかったのか、眠る子供は少年の手を払う仕草をした。とても細い腕が見えた。

 子供じゃなくておばあさんかも……。それにしてもほんとに緑色だらけの部屋だな。

 少年はもう一度部屋を見回し、異様な部屋だなと感じていた。まだ夢を見ているのかも知れない。全て夢なのではないか。少年は黒いマントを思い出し身震いした。きっと悪い夢をまだ見続けているのだろう。そう思うとまた瞼が重たくなってきた。おばあさんも小さな動物も起きる気配はない。少年は怠さの抜けない身体をもう一度緑色のシーツの中に沈めると黒い二つの塊の横でもう一度目を閉じた。

 目を閉じてしまうと身体は余程疲れているのか、鉛のように重たくなった。何か話し声が聞こえるが、重たい瞼を持ち上げることが出来ない。


「明るくなってきた……部屋へ……サリ」

「……ああ。ロルカは……」


 おばあさんが起きたのだろうか。ベッドの端にあった重みが消える感触がした。ああ、行ってしまう。そう思っても身体は一つも動かせそうにない。行かないでほしい、そう思ったが扉の閉まる音が聞こえた。ああ、また怖い夢を見そうだ。少年は重たい頭をなんとか動かそうとするが、やはり動けない。その時、何かがシーツの中に入ってくる音が聞こえた。ぺろりと指を舐められどきっとした。何かはもぞもぞと動き回ると落ち着ける所を見つけて腰をおろしたようだ。そうか、小さな動物か。少年は先程も感じた暖かさに酷く安心を覚えた。

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