10 Pilili
「我はビシルテオの塵をできうる限り回収せねばならぬ」
「その少年に取り憑いているわけではないの?」
「この世に来た時、少年から死の匂いは消えていた。未だクラントロワに在るだろう」
「ビシルテオの塵に何か目的があるかはわかりませんが、かつての自分の城へ向かっている可能性もあります」
「うむ。暫く城を空けるが、良いか」
「ええ! 留守はお任せください!」
王はふむ、と言って玉座から立ち上がると愛しい娘を見た。城を空けている間に娘にもしもの事があったらと思うと心配でならない。そしてその視線を受け止めるサリはふう、と息を吐いた。心配は要らないと頷いて王の視線に答える。しかし、いや、でも、と後ろ髪を惹かれるような気持ちが、王の出発を拒む。果たして何故こんなにも、何かに引っ張られる様な気持ちになるのか。
「王、王よ」
参謀が王の後ろの方を指差し、何かを伝えようとしている。サリもちらちらと王の後ろの方を見て何か言いたげだ。はて、と王が振り向くとそこにはピリリの子供が、王の長い黒髪を噛んでぶら下がっていた。物理的に後ろ髪を引かれていた事に、ああそうだったと王は手を叩いた。
「サリよ、これはピリリの子である」
「ピリリの? とっても小さい……」
ピリリは大きな王の背丈よりも上に顔があるというのに、その子供はサリの頭よりも小さく見える。
「側に置き育てるが良い」
王の言葉にサリの黒い瞳がくるりと動く。
「いいの?」
「ああ、ピリリからも是非と」
「……ありがとう」
サリは色のない頬を綻ばせると、その場にかがみ王の髪にぶら下がったままの小さな黒き獣を呼んだ。
「おいで」
サリの声に小さな黒き獣はすぐに王の髪を離すと、ころころとサリの元へと転がっていった。ころりと足にぶつかった小さな黒き獣を抱き上げると、この世の物とは思えないほど暖かかった。
「名前はありますか?」
「否。つけてやるが良い。そなたの良き守護者となるであろう」
「はい、ありがとうございます、王」
「……ふむ」
そこはお父様とか、父上とか、パパとか、そう呼んで欲しかったという言葉を呑み込むと王はビシルテオを探しにあちらの世へと向かった。参謀もペットを可愛がる姫の微笑ましい光景と、寂しそうな王の背中を見てなんとも言えない微笑みを浮かべた。




