第七話 巫女、襲来
紅魔館の執事にしてフランの専属執事、リアム・ヴァンノエルはいつも通りの日常を過ごしていた。しかし、今日はいつもよりも早く仕事を終えたため、フランと共に庭を散歩していた。キャッキャとはしゃぐフランに、リアムは微笑ましく思いながら、フランが日傘の陰から出ないようにしっかりと気を遣っていた。庭の一角にほのぼのとした雰囲気が流れる…が、それをぶち壊す存在がいた。後ろの方で門が破壊され、人影が吹き飛んできた。
「痛たたた…まったくあの巫女は…あ、リアムさん!少しいいですか?」
「フラン様がよろしければ」
「んー、いいんじゃないかなー」
「承知しました。して、何用でしょうか」
「博麗の巫女を止めてください!どうもリアムさんが目的みたいなんですけど…」
「博麗の巫女というのはあそこで魔理沙と一緒にいる方でしょうか?何やら言い争ってますけど…」
「え?あれ、本当だ。さっきまで巫女しかいなかったのに」
「とりあえず美鈴、日傘」
リアムは美鈴に自分の持つ日傘を手渡す。自分の代わりにフラン様への日差しを防げ、ということだ。
「あっはい」
美鈴は日傘を受け取り、フランへ日差しが当たらないようにする。それを確認するとリアムはその場を離れ、博麗の巫女と魔理沙がいる場所へ向かう。当然のように気配を消し、すっと博麗の巫女の背後に立つ。
「………」
それに気づいた魔理沙は口を閉じ、リアムを見る。リアムはニコリと、笑って応じる。しかし、雰囲気は全く笑っているとは言えなかった。
「ねえ、魔理沙、いきなり黙ってなんなのよ!なんとか言いなさい!」
「不法侵入に暴行、さらに器物破損…貴女を客人とは呼びたくありませんが、何用ですか?」
目が笑っていない笑みを顔に貼り付けたリアムが背後から声をかけ、早急に要件を述べるよう促す。すると、
「あんたがリアム・ヴァンノエルで間違いないかしら?」
「ええ。私がリアム・ヴァンノエルですが」
「今異変が起こっているのは知っているわよね?」
博麗の巫女が言う通り、現在幻想郷では異変が起こっている。その異変を起こしているのは紅魔館を襲撃した吸血鬼狩りの残党であり、妖怪などに攻撃を行い、すでに被害が出ているのだ。当然、そのことはリアムも知っている。
「知っていますとも。それとなんの関係が?」
「捕らえた異変を起こしていた人間の内一人が、リアム・ヴァンノエルが首謀者だと吐いたのよ。あんた、部下からよほど信頼がないのね」
リアムは異変に関与していない。主を殺そうとする不届者に協力するなどあり得ない話なのだ。
「私は断じて異変に関わっておりません。異変の調査には赴いておりますので、接触してなくはない、のですかね。ですが、主を、殺そうとした、不届者などに、協力するほど、私は落ちぶれておりません。お引き取りください」
「あら、逃げるの?最強の悪魔狩り、銀髪の悪魔殺しさん?」
博麗の巫女がリアムを煽るようにそう言う。その瞬間、空気が、揺れた。木々が震え、紅魔館の窓がカタカタと音を立てている。
「俺をその名で呼ぶな、博麗の巫女。その名は、俺にとって、悪夢のごとき呪いだ。全くもって面白くない。そして、俺はもう、銀髪の悪魔殺しに戻るつもりはない。その名で俺を呼び続けるなら…死を覚悟しておくといい」
リアムは最後の最後に強烈な殺気を博麗の巫女にだけ叩きつけた。気絶した博麗の巫女を魔理沙が支える。
「リ、リアム、霊夢に悪気はないんだぜ、許してやってくれないか?」
「好きにするといい。だが、ここでのことは口外するな。そこの巫女にも言っておいてくれ」
「わ、わかったんだぜ」
「はぁ…私はフラン様の元へ戻るので、自力で帰ってくださいね」
「わかったぜ」
魔理沙は博麗の巫女こと霊夢を自分と一緒に箒に乗せ、空を飛んでいき、少し経てばその姿は見えなくなった。
「…戻るか」
「待ってくれるかしら?」
「…はぁ」
リアムがフランの元へ戻ろうとすると、それを止める声があった。
「どちら様で?」
「あら。そういうのは自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」
「失礼。私の名はリアム・ヴァンノエル。紅魔館、そしてフラン様の専属執事でございます」
「ふふ。私は八雲紫。この幻想郷を創った賢者よ」
「それで、なんの御用でしょうか?」
「貴方、異変の首謀者について情報を持ってるわよね?今回は私も色々と困っているのよ。情報を提供してくれるかしら?」
「本日はお引き取り願います。疲れたので。また後日、私に暇がある時にお教えしましょう」
「あら助かるわ。ではまた今度」
そう言うと紫は空間に裂け目を開き、中に入る。ほどなくしてその裂け目は閉じ、紫の姿は紅魔館から消え、辺りには静寂が残った。
(どうやら、面倒なことになったらしいな。まあ、主が幸せでいられるのなら私はどうなろうと構わないがな。今回のことは、主に迷惑がかかりそうだ。紫とやらに協力するとするか…それにしても、俺を首謀者だと言った吸血鬼狩り…楽に死ねるとは思わないことだな)
リアムは主を見つけると歩き出し、笑顔を向けた。リアムは心に決めていた。主の障害となるのなら、例え神であろうとそれを排除すると。リアムの忠誠心は並大抵ではない。例え死んだとしても、魂だけになろうと、主の元へ舞い戻りそうなほどの執着である。主を二度と、失いたくはないのだから…
キャラ紹介
リュオン・スカーレットについて
肉体はすでに失われている古代の悪魔。
圧倒的な力と魔力を誇っており、単純なエネルギーだけでも高位の神に匹敵する。