第六話 就職条件
リアムの仮就職期間が終了した。最終日の謎の人物たちによる襲撃というイレギュラーはあったが、それ以外は完璧に仕事をこなせた自信がリアムにはあった。リアムは咲夜に連れられ、紅魔館のロビーへと出る。そこでは紅魔館に住まう面々が揃っていた。リアムが到着したことを確認すると、レミリアが口を開いた。
「リアム・ヴァンノエルの正式就職において、条件を提示する者、いるかしら?」
「はいはーい。お姉様ー。いーい?」
「フラン?何かしら?」
「えーとねー。お姉様、リアムを私の専属執事に頂戴」
その場にいるリアム以外が大きく目を見開く。リアムもほんの僅かに表情を変えたが、即座に驚きを押し込めた。
「フ、フラン?何を考えているの?」
「お姉様、お姉様は咲夜にほぼ専属でお世話してもらってるじゃない!でも私の相手は居眠り門番って…どうしてよ!」
「え、私さらっと侮辱されました?」
「私だって専属が欲しいもん!」
美鈴の苦言は無視され、フランは自分の意見を言い張る。レミリアは困ったように息を吐き出すと、
「わかったわ、好きになさい。リアムはそれでいいかしら?」
「構いません。元より、私としては主を一人に定めるつもりでしたので」
「そう。じゃあ私から条件を出すわ。生憎と私と咲夜は貴方の実力を直接見ていないの。だから、力を示しなさい。咲夜、リアム、今すぐ始めなさい」
レミリアがそう言うと同時に咲夜はその場から消え、リアムは横にステップを踏む。
「幻象"ルナクロック"」
「能力発動。生成"朧斬り"」
咲夜がまたしても姿を消し、リアムの周囲を大量のナイフが囲む。リアムは手に薄く煌めくナイフを両手に握り、迫り来るナイフを全て叩き落とす。直後、リアムは左手に握る朧斬りを咲夜に向けて投擲する。またしても咲夜は姿を消し、いつの間にかリアムの背後に立っていた。振るわれたナイフを危なげなく回避しながら、リアムは思考を巡らせる。
(咲夜の能力は空間、もしくは時間に干渉する能力。だが、可能性が高いのは後者だな。空間に干渉できるならわざわざ朧斬りを回避せずとも防げるはずだ。回避したということは防ぐことが難しい、もしくはリスクがあるからだな。時間停止なら対策は決まっている。視界、意識外からの一撃だ。すでにある程度準備はできている。仕上げに…)
「生成"幻惑の刃"」
リアムは武器を生成する。しかし、生成された場所はリアムの手元ではなく、壁に寄り添う形で現れていた。"幻惑の刃"の能力によって完全に壁に擬態し、リアムの糸によって固定され、さらに一部の糸を切り離せば打ち出される仕組みになっている。更にリアムの能力の応用で刃は潰されているため、殺傷力はない。そして、追撃をできるように糸が設置されていた。
「メイド秘技"操りドール"」
咲夜が再び大量のナイフを放つ。リアムは右手に持つ朧斬りでナイフを叩き落とすと、再び投擲する。リアムの目論見通り、咲夜はリアムの背後にいた。リアムが投げた朧斬りは、一部の糸を切り裂き、壁に偽造されていた幻惑の刃が発射され、咲夜の脇腹に直撃する。
「カハッ」
咲夜は予想外の攻撃により、一瞬思考が停止する。しかし、その一瞬によって咲夜はリアムの設置していた糸によって雁字搦めにされ、拘束されてしまったのだった。
「……降参です」
咲夜は静かに敗北を宣言する。それと同時に、レミリアが拍手を行う。
「いいでしょう。貴方は力を示した。この紅魔館にて、フランの専属執事として雇います。仕事に励むよう」
「お姉様はいくら着飾ってもかりちゅまなんだからカリスマ風味だすのやめかよー」
「フラン、雰囲気を壊さないでよぉ!」
「お姉様こそカリスマぶるのやめなよー」
レミリアとフランは非常に微笑ましい喧嘩をしていた。リアムがクスリと、小さく笑う。
(本当に、紅魔館に務められて、本当によかった…ネメア様、私は貴女様のおかげで、幸せに過ごせております。会えることなら、会いたかったです…)
リアムは心の底から安堵し、前の主の記憶を懐かしむように、大切そうに、決して壊さぬよう、大事に大事に、抱え込んだのであった。